目的 群馬県草津町と東京都健康長寿医療センター研究所は,共同して過去10年間介護予防研究事業を実施し,これにより地域高齢者の健康余命が延伸し介護保険認定率が低下したことを確認した。本研究の目的は,10年間毎年実施された高齢者健診(にっこり健診)の受診者集団における身体,栄養,心理・社会機能の推移を分析し,健康余命の延伸や介護保険認定率の低下に寄与したと考えられる要因を明らかにすることとした。
方法 介護予防共同研究事業の一環としておこなわれた「にっこり健診」(以下,健診:2002~2012年に毎年実施,70歳以上高齢者人口を分母とした受診率は平均で34.7%)と「いきいきアンケート」(以下,悉皆調査:2003~2011年に隔年実施,70歳以上高齢者全員を対象とした応答率は平均で95.0%)の経年データを用いた。まず,健診受診群の偏りをみるため,受診群の老研式活動能力指標(TMIG–IC)得点の年次推移を悉皆調査群のそれと比較した(解析 1)。次に,健診受診群の身体機能(4 項目),栄養状態(3 項目),心理・社会機能(4 項目)の変化を検討するため,2002年次の数値を基準(平均 0)とした各年次の標準得点を求め,10年間の標準得点の推移にあてはめた線形回帰直線(切片 0)の傾きを比較した(解析 2)。
結果 解析 1 では,健診受診群の TMIG–IC 得点が悉皆調査群のそれよりも高値を示し,群による有意な主効果がみられた。しかし,有意な交互作用(年次×群)はみられなかった。同一年次の両群間比較では,男女とも70歳台では TMIG–IC 得点が近似していたが,80歳以上ではその差が拡大する傾向にあった。解析 2 では,男女ともに 4 項目すべての身体機能が漸増的かつ有意に向上し,線形回帰直線の傾きは,最大歩行速度(男性:0.050,女性:0.067),通常歩行速度(男性:0.048,女性:0.060)の順に大きな値を示した。加えて,女性では Mini-Mental State Examination 得点 (MMSE: 0.053), Geriatric Depression Scale 短縮版得点(GDS: 0.027), TMIG–IC の下位尺度である社会的役割得点(0.019)が漸増的かつ有意に向上した。
結論 健診受診群は高次生活機能の高い集団に偏っているが,その偏りの方向性と程度は,調査期間内で同程度と考えられた。健診受診群において,男性では身体機能が,女性では身体機能に加えて MMSE や GDS,社会的役割といった心理・社会的機能が10年間で有意に向上した。同町で健康余命の延伸や介護保険認定率の低下がみとめられた背景には,同町高齢者の機能的健康度の向上があることが示唆された。
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