日本公衆衛生雑誌
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62 巻, 11 号
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原著
  • 相馬 優樹, 角田 憲治, 北濃 成樹, 神藤 隆志, 大藏 倫博
    2015 年 62 巻 11 号 p. 651-661
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/09
    ジャーナル フリー
    目的 介護予防運動の活動拠点までの物理的距離や社会交流状況に焦点を当て,地方自治体で実施されている介護予防運動の認知に関連する要因の検討を行う。
    方法 茨城県笠間市在住の要介護認定を受けていない65歳以上の地域在住高齢者6,601人(男性3,206人;平均年齢73.0±6.2歳,女性3,395人;平均年齢73.2±6.4歳)を分析対象とした(調査期間:2013年 6 月)。従属変数を介護予防運動(シルバーリハビリ体操(silver rehabili taisou;SRT)およびスクエアステップ(square-stepping exercise;SSE))の認知状況(認知者/非認知者),独立変数を地域活動への参加の有無,友人宅訪問の有無,主な外出手段,自宅から介護予防運動の活動拠点までの道路距離,起居動作能力,認知機能および近所の人口密度としたロジスティック回帰分析を行った。
    結果 介護予防運動の認知状況と自宅から活動拠点までの道路距離との関連を検討した結果,認知者は有意に活動拠点の近くに住んでおり,距離が長くなるほど認知率は低下する傾向にあった。男女で共通してみられた介護予防運動の認知の促進要因は,地域活動をしていること(男性;SRT–Odds Ratio(OR)=2.54,SSE–OR=2.19:女性;SRT–OR=4.14,SSE–OR=3.34),友人の家を訪ねていること(男性;SRT–OR=1.45,SSE–OR=1.49:女性;SRT–OR=1.44,SSE–OR=1.73)であった。性特有の阻害要因としては,男性は起居動作能力低下があること(SRT–OR=0.73,SSE–OR=0.56),女性は,主な外出手段が他者が運転する車であること(SRT–OR=0.79,SSE–OR=0.78)であった。自宅から活動拠点までの道路距離については,500 m より離れると認知率が下がる傾向にあった。
    結論 介護予防運動の種類や対象者の性に関わらず,地域活動をしていることや友人の家を訪ねていることが認知の促進要因として明らかとなった。一方,拠点までの道路距離については,500 m よりも遠いことが認知の阻害要因になる可能性が示唆された。今後地域において介護予防運動の取り組みを広げてゆくためには,既存施設を利用して道路距離500 m 圏内をめどとして地域住民をカバーできるよう活動拠点の設置を計画的に行うことや,地域情報誌の活用や自宅訪問など社会交流の少ない者へのアプローチ法を工夫することが必要である。
  • 李 圭英, 宋 昇勲
    2015 年 62 巻 11 号 p. 662-671
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/09
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,青少年健康行動オンライン調査のデータを利用して,韓国中学生の性行動の実態と関連要因を把握することである。
    方法 第 9 次(2013年)青少年健康行動オンライン調査のデータを利用して二次分析を行った。全体の参加者72,435人のうち,中学生の36,530人のデータを本研究の分析対象とした。中学生の性行動の実態を把握するためにコンプレックスサンプル頻度分析とコンプレックスサンプル χ2 分析を利用し,性行動の関連要因を明らかにするために,コンプレックスサンプルロジスティック回帰分析を行った。
    結果 性交経験のある生徒は全体の3.8%であり,男子5.0%,女子2.5%と男子の経験率が女子より有意に高かった。性行動の関連要因としては,男子においては,経済状況が高いと認識する者,親戚と一緒に住んでいる者,アルバイト経験のある者,外国人の父をもつ者,現在喫煙,現在飲酒,薬物乱用,うつ経験がある者ほど性交を経験する可能性が高かった。女子においては,1 年生,経済状況が高いと認識する者,経済状況が低いと認識する者,親戚と一緒に住んでいる者,保育施設に住んでいる者,アルバイト経験のある者,外国人の父,外国人の母をもつ者,現在喫煙,現在飲酒,薬物乱用の経験がある者ほど性交を経験する可能性が高かった。
    結論 韓国においても中学生の性行動は喫煙や飲酒,薬物乱用,精神保健の問題など他の健康問題と密接な関連があることが確認され,中学生の性的健康のためのアプローチは性という断片的問題を超え,精神的な健康及び健康な生活習慣の改善にも着目した包括的アプローチが有効であると考えられる。
研究ノート
  • 佐藤 優, 布花原 明子
    2015 年 62 巻 11 号 p. 672-683
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/09
    ジャーナル フリー
    目的 乳児家庭全戸訪問事業の訪問者として地域の人材を登用する場合,訪問者が事業に携わる必要性を十分に認識する必要があると言われている。本研究は,乳児家庭全戸訪問事業に携わる地域支援者の今後の支援課題を明らかにするため,事業に対する必要性の認識に影響する要因を調べることを目的とした。
    方法 北九州市の乳児家庭全戸訪問事業に携わる主任児童委員259人を対象として,2013年 9 月から12月の間に自記式無記名による質問紙調査を行った。事業に対する必要性の認識について,「あなたは,主任児童委員が生後 4 か月までの乳児のいる家庭に訪問することが必要だと感じますか」と質問し,回答を 5 件法で得た。得られた回答から,「まあまあ感じる」,「大いに感じる」と答えた者を認識の高い群=1,その他を低い群=0 と分類し目的変数とした。説明変数には,主任児童委員の基本属性の他に,事業の実施に関する項目,事業以外の子ども・子育て支援活動の参加状況に関する項目を用いた。統計解析は,ロジスティック回帰分析を用い,単変量の解析で統計的に有意な関連がみられた変数を多変量解析に強制投入し,各変数間のオッズ比および95%信頼区間を算出した。また,「訪問してよかったと感じた経験がある」と回答した対象に対し,その経験について自由記述での回答を求め,それらの情報について内容分析を行った。
    結果 質問紙の回収率は92.1%(223人)であったが,過去一年間の訪問件数が 0 件であった者,質問紙に未回答項目がある者を除いた結果,分析対象は154人となった(分析対象者:59.5%)。必要性の認識については,認識の高い群69人(44.8%),低い群85人(55.2%)に分けられた。多変量ロジスティック回帰分析からは,保健医療福祉の専門資格を有する場合(オッズ比2.57:95%信頼区間1.12–6.20),訪問してよかったと感じた経験がある場合(オッズ比18.35:95%信頼区間6.41–67.60)に,事業の必要性の認識が高くなる傾向がみられた。内容分析の結果からは,2 つの中核カテゴリと 7 つのカテゴリ,18のサブカテゴリが抽出された。
    結論 本研究の結果から,主任児童委員は乳児家庭全戸訪問事業の中で,訪問してよかった経験(訪問機能が発揮できた経験,訪問で充実感が得られた経験)をすることで,事業に携わる必要性がより認識されると考えられる。
  • 高久 道子, 市川 誠一, 金子 典代
    2015 年 62 巻 11 号 p. 684-693
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/09
    ジャーナル フリー
    目的 愛知県に在住するスペイン語圏の南米地域出身者におけるスペイン語対応の医療機関についての情報行動の実態を把握し,その情報行動に関連する要因を明らかにする。
    方法 調査対象は,日本に 3 か月以上在住し愛知県に居住する,来日してから病気やケガで受診経験のある18歳以上のスペイン語圏の南米地域出身者とした。スペイン語による無記名自記式質問紙調査を2010年 4 月から 7 月に実施した。分析対象者245人(有効回答率58.9%)の情報行動を分析するにあたり,Wilsonの情報行動モデルを参考にした。東海地方にあるスペイン語対応の医療機関を探した群(以下,探索群)と探さなかった群(非探索群)を目的変数とし,回答者本人の「スペイン語対応の医療機関が必要になった経験」,「スペイン語対応の医療機関の認知」,「認知後にスペイン語対応の医療機関を受診した経験」,「情報入手先」,そして情報行動に関連すると思われる因子として基本属性,生活状況,日本語能力等との関連をみた。
    結果 分析対象者245人の性別内訳は,男性が106人(43.3%),女性が139人(56.7%)であった。平均年齢は39.6歳(標準偏差±11.2歳)で,国籍はペルーが84.5%を占めた。日本での在住年数は平均11.0年(±5.7年)で,愛知県での居住年数は5~9年(34.3%)が最も多かった。探索群は165人(67.3%),非探索群は80人(32.7%)であった。スペイン語対応の医療機関の探索は,病気やケガでの受診時に医療通訳など母国語対応を必要とした経験,東海地方における母国語対応の医療機関の認知,認知後に受診した経験,日本での在住年数,日本語能力,普段使用する言語と有意な関連があった。
    結論 スペイン語圏の南米地域出身者におけるスペイン語対応の医療機関に関する情報行動は,これまでに日本の医療機関でスペイン語通訳などの支援が必要になった経験が情報探索の動機となっていた。日本語によるコミュニケーションの困難,母国語の普段使用,短い在住年数がスペイン語対応の医療機関の情報探索に関連がみられた。スペイン語メディアを使い,家族や友人,職場の同僚といった身近な人と情報共有がなされていたと推察された一方で,自治体や公的機関発信の情報は届いているとは言えない状況にあり,医療に関する情報提供の在り方が課題として浮き彫りとなった。
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