日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
62 巻, 6 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著
  • 岡本 玲子, 鳩野 洋子, 小出 恵子, 長野 扶佐美, 岩本 里織, 草野 恵美子
    2015 年 62 巻 6 号 p. 271-280
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/11
    ジャーナル フリー
    目的 質の高い保健活動を展開するために,保健師等の公衆衛生専門職は,健康課題の存在を根拠に基づいて系統的に見せる能力を高め,上司や住民などの意思決定を導く必要がある。本研究の目的は,保健活動の必要性を見せる行動尺度を開発し,信頼性と妥当性を検討することである。
    方法 原案20項目は,文献検討と研究者間の協議により作成され,予備調査を経て修正された。調査対象は無作為抽出した全国の保健所・保健センターに勤務する常勤保健師であり,調査方法は郵送による自記式質問紙調査である。倫理的配慮は文書で説明し,調査票の回収を持って同意を得たものとした。研究計画は所属大学倫理委員会の承認を得た。
    結果 調査票の配布数は1,615,回収数1,088(67.4%),うち有効回答1,035(64.1%)であった。項目分析の結果 1 項目を削除し,19項目に探索的および確認的因子分析を行ったところ,4 因子の最適解を得た。因子は「健康課題の存在を見せる」,「健康課題の根拠を見せる」,「解決を要する実態を見せる」,「解決の優先度を見せる」と命名された。クロンバック α 係数は尺度全体で0.948であり,各因子も0.85以上であり内的整合性が確認された。関連概念を測定する他の 3 尺度との相関係数は0.6~0.8であり 1%水準の有意差がみられ,基準関連妥当性が確認された。既知グループとして用いた保健師経験年数,役職においては,高次の群になるにつれて本尺度の得点が上昇しており,最下位群と上位 2 群間に有意な差があった。
    結論 結果より,本尺度は,保健活動の評価尺度として一定の信頼性,妥当性を有していることが確認された。
研究ノート
  • 南 潮, 鈴木 宏幸, 倉岡 正高, 小林 江里香, 深谷 太郎, 内田 勇人, 藤原 佳典
    2015 年 62 巻 6 号 p. 281-293
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/11
    ジャーナル フリー
    目的 急速な少子高齢化の進展に伴い高齢者就労の更なる促進が期待されている。55歳以上人口において就業を希望しながら職に就けていない人は7.7%に上る。本研究は社会参加の観点からの保健福祉施策として,既存の高齢者向け就労支援制度および施設の活動が,今後拡充し補完すべき方向性や機能を明らかにする。
    方法 東京都大田区で新たに開始された高齢者専用の就労支援施設「いきいきしごとステーション」運営事業について,利用者を対象とした縦断調査を行い,求職者の特徴とその利用実態について検証した。初来所の求職者に窓口で調査票を配布し,郵送で回答の返送を求めた。その後同一対象者に対して 2 週,4 週,8 週,12週後にも郵送で調査票を送付し,生活状況,健康状態等について明らかにするとともに,求職の状況について追跡を行った。調査期間は2013年 1 月末から2014年 3 月末の 1 年 2 か月である。
    結果 初回調査では配布数180人に対して128人(平均年齢63.8歳)から回答が得られ,以後の追跡調査も概ね90%以上の回収率が得られた。内訳は男性82人,女性46人。全体の71.4%が高等学校卒業以下であり,世帯年収で300万円未満が68.0%,100万円未満も16.0%存在した。暮らし向きについて苦しい又は非常に苦しいと答えた割合は全体で56.3%。精神的健康状態では年齢が若いほど状態が悪い傾向がみられた。独居率も31.3%と高く,他の社会参加活動についても51.6%が行っていなかった。求職理由は全体の78.9%が生活のための収入を挙げており,経済的な理由が第一であった。生きがいを求める割合は女性および65歳以上で有意に多かった。希望する職種では,自分の能力や経験が活かせることが最も重視されており,男性では製造,保安職(警備員・誘導員),運輸・通信職(自動車の運転),女性では一般事務,調理を希望する者が有意に多かった。勤務形態ではすべての層でパートタイムの希望が多いものの,正規社員を希望する割合では男性および65歳未満に多かった。
    結論 来所求職者では経済的な理由から求職している割合が高く,とくに男性および65歳未満では,正規社員に近い就業形態を希望するものの精神的健康状態が良好でない傾向がみられた。就労に生きがいを求める割合は女性および65歳以上で,社会とのつながりを求める割合は男性よりも女性で高い傾向がみられた。
資料
  • 神 光一郎, 川崎 弘二, 土居 貴士, 上根 昌子, 神原 正樹
    2015 年 62 巻 6 号 p. 294-299
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/11
    ジャーナル フリー
    目的 国による歯科口腔保健の推進に関する法律(以下,歯科口腔保健法という。)および都道府県歯科保健条例制定後の,都道府県における地域歯科口腔保健推進体制に関する実態把握を目的として行った。
    方法 全国47都道府県を対象に,法的基盤整備後のデータを収集・把握した。収集データは,①歯科保健条例の制定状況,②歯科保健計画の策定状況,③第二次健康増進計画・歯科保健計画への「歯の健康」に関する独自の目標指標の位置付け,④歯科口腔保健推進予算の状況,⑤口腔保健支援センターの設置状況,とした。データは,インターネット上の都道府県の公的情報や関連文献などから収集し,各情報は2014年12月 1 日現在でアクセス・入手したものを使用した。
    結果 歯科保健条例を制定していたのは41道府県であった。第二次健康増進計画および歯科保健計画に位置付けられた「歯の健康」に関する目標指標では,国が示した目標指標にとらわれず,地域特性に応じた対象および独自の目標指標を取り入れている都道府県もみられた。また,口腔保健支援センターを設置しているのは12県 6 市であったが,設置に際しては新たに歯科衛生士を配置するなど歯科専門職の人材確保に繋がっているところも見受けられた。歯科口腔保健関連予算では,歯科口腔保健法制定前後で予算額の増加が認められたのは23道府県で,24都府県では減少していた。また,歯科保健条例制定前後では29道府県で増加を示した。
    結論 歯科保健条例を制定する都道府県が増加傾向を示し,歯科保健計画の策定,健康計画への地域特性に応じた歯科口腔保健指標の設定など,地域歯科口腔保健推進のための都道府県指針は整備されつつあることが示唆された。一方,口腔保健支援センターの設置は進んでおらず,歯科口腔保健関連予算では,法的基盤整備前後の予算額の比較において減額している都道府県も存在した。今後,地域歯科口腔保健施策を実効性のあるものとするためには,歯科口腔保健法および歯科保健条例の制定による地域歯科口腔保健政策への影響や効果についての継続的な検証・評価が求められる。
  • 後藤 基行, 赤澤 正人, 竹島 正, 立森 久照, 野口 正行, 宇田 英典
    2015 年 62 巻 6 号 p. 300-309
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/11
    ジャーナル フリー
    目的 市区町村における「保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領」(以下,運営要領)の運用実態を把握し,運営要領の改訂に向けた基礎資料とすることを目的とした。
    方法 全国の各市区町村の約半数を無作為に抽出した875市区町村を対象に,2012年に郵送による質問紙調査を実施した。市区町村を10万人未満,10万人以上30万人未満,30万人以上の 3 群に分類し,独自に作成した項目の単純集計,または平均値をもとに分析した。
    結果 回答数は384か所(43.9%)であった。有効回答率は人口10万人未満309か所(42.0%),10万人以上30万人未満53か所(57.0%),30万人以上22か所(47.8%)であった。精神保健福祉法と障害者自立支援法の担当課が別であったのは,人口10万人未満85か所(27.5%),10万人以上30万人未満19か所(35.8%),30万人以上11か所(50.0%)であった。組織育成のための助言指導は,精神障害者家族会に対する割合が最も高く,人口10万人未満127か所(41.1%),10万人以上30万人未満30か所(56.6%),30万人以上17か所(77.3%)であった。精神保健のグループワークは,人口30万人以上は半数以上の13か所(59.1%)で実施されていたが,それ以外は 4 割以下であった。市区町村長が保護者として関与した事例の経験は,精神科病院に入院させる場合の同意は,人口10万人未満183か所(59.2%),10万以上30万未満52か所(98.1%),30万人以上20か所(90.9%)であった。2011年12月末時点において第 2 期障害福祉計画を策定していたのは,人口10万人未満284か所(91.9%)であったが,それ以外は10割に近かった。保健所への協力および連携の内容では,年数回以上あったものとして精神保健福祉相談・訪問指導(84.4%)が最も高かった。
    結論 精神保健福祉に関連する法整備は,地方分権,障害福祉の一元化の動きと並行し,市区町村の役割も強化されてきた。本調査では,精神保健福祉業務を着実に実施できる市区町村は人口規模の大きい市区町村であることが示唆された。今後運営要領は,精神保健福祉法の改正等を踏まえた改訂が見込まれるが,その際には市区町村の規模を考慮した調整が必要と考えられた。
feedback
Top