日本公衆衛生雑誌
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63 巻, 3 号
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原著
  • 小林 江里香, 深谷 太郎, 原田 謙, 村山 陽, 高橋 知也, 藤原 佳典
    2016 年 63 巻 3 号 p. 101-112
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/02
    ジャーナル フリー
    目的 母親の育児不安や孤立が問題となる中で,親だけでなく多様な人々が子育てに関わることの重要性が指摘されている。本研究は,中高年者を対象とした地域の子育て支援行動の測定尺度の開発をおこない,その信頼性・妥当性を検証した。
    方法 先行研究と予備調査に基づき地域の子育て支援行動の概念化をおこない,尺度項目を選定した。次に,無作為抽出された首都圏の60~69歳の813人が回答した郵送調査において(回収率54%),支援行動のそれぞれについて,行動の頻度を 4 段階で評定してもらった。尺度の構成概念妥当性と信頼性は,確認的因子分析とクロンバックの信頼性係数により検討した。さらに,妥当性については,本尺度と地域住民との交流頻度,次世代育成への関心を表す Generativity(世代性)尺度,子育て経験を反映した子ども数や孫との関わりの程度との間に想定されるような正の関連があるかを,相関係数および重回帰分析の結果により検討した。
    結果 先行研究と予備調査により,地域の子育て支援行動には,「子どもの安全・健全な成長」,「親への手段的サポート」,「親への情緒的サポート」の 3 つの構成概念があることが明らかになった。これらを 3 因子とし,その上位に「地域の子育て支援」因子をおく 2 次因子分析のモデルの適合度を検討した結果,1 項目を除外したモデルの適合度が高く,残りの 7 項目での信頼性係数も高かった(α=0.87)。7 項目を合計した尺度得点は,地域住民との交流頻度,とくに子ども・子育て世代との交流,世代性,子ども数,孫の世話をしていることと,想定通りの有意な正の相関があった。重回帰分析の結果,尺度で測定された子育て支援行動は,子ども・子育て世代との交流頻度の多寡により説明される部分が大きいものの,交流頻度を調整しても,女性,孫の世話をしている人,世代性が高い人ほど得点が高かった。
    結論 7 項目からなる「地域の子育て支援行動尺度」の信頼性・妥当性を確認した。より多様な地域・年齢層における本尺度の適用可能性と,本尺度で測定された子育て支援行動が子育て世代側に与える効果の検証が今後の課題である。
  • 渡邉 純子, 渡辺 満利子, 山岡 和枝, 根本 明日香, 安達 美佐, 横塚 昌子, 丹後 俊郎
    2016 年 63 巻 3 号 p. 113-125
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/02
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,中学生におけるライフスタイルと愁訴との関連性の検討を目的とした。
    方法 2012年 5~11月,同意を得た熊本県内10校の中学校 1, 2 年生,計1,229人(男子527人,女子702人)を対象とし,愁訴(12項目)および体格,食事調査(FFQW82),ライフスタイル(18項目),食・健康意識(9 項目)に関する自記式質問紙調査を実施した。回答を得た1,182人(回収率96.2%,男子500人,女子682人)を解析対象とした。愁訴は(いつも・ときどき)を愁訴ありとして,12項目のありの個数を「愁訴数」として取り扱った。要約統計量は男女別に,連続量は平均値と標準偏差または中央値(25%点,75%点),頻度のデータについては出現頻度(%)を求めた。男女間の比較には前者では t 検定,またはウィルコクソン順位和検定を,後者ではカイ 2 乗検定により比較した。愁訴については因子分析で因子構造を確認した。ライフスタイル等と愁訴との関連性は,主成分分析およびステップワイズ法による変数選択により検討した。有意水準は両側 5%,解析は SAS Ver9.3を用いた。
    結果 本対象の体格は全国平均とほぼ同レベルであった。エネルギー摂取量の朝・昼・夕食の配分比率は,2:3:4 を示し,とくに朝食の摂取不足の傾向が認められた。ライフスタイルでは,男女ともに朝食を十分摂取できていない者 2 割強,夜 9 時以降の夕食摂取者 3 割程度,TV・ゲーム等 2 時間以上の者 5 割程度認められた。愁訴の出現頻度は,「いつも疲れている感じがする」,「集中力がない」,「やる気がでない」がそれぞれ男女ともに 40%以上を示した。
     多変量解析の結果,「愁訴数」の少なさと関連するライフスタイル項目として,男女ともに「バランス食摂取」,「睡眠 6 時間以上」,女子の「3 食規則的摂取」,「食欲あり」,「リラックス時間あり」が示唆された。「愁訴数」の多さと関連する項目として,男女ともに「早食い」,「TV・ゲーム等 2 時間以上」,男子の「料理・菓子をつくる」,女子の「間食・夜食をとる」,「夜 9 時以後の夕食摂取」,「弁当は自分でつくる」が示唆された。なお、食事摂取量は「愁訴数」とはほとんど関連が認められなかった。
    結論 中学生の「朝食を落ち着いてしっかり食べる」および「食事は 1 日 3 回規則的に食べる」などの食事摂取状況やライフスタイルが「愁訴数」の少なさと関連することが示唆された。
  • 濱 秀聡, 田淵 貴大, 伊藤 ゆり, 福島 若葉, 松永 一朗, 宮代 勲, 中山 富雄
    2016 年 63 巻 3 号 p. 126-134
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/02
    ジャーナル フリー
    目的 第二期がん対策推進計画の柱として,がんの早期発見とたばこ対策の推進がある。しかし,我が国のがん検診受診率は総じて低く,また喫煙率も高い。本研究は,がん死亡リスクの高い喫煙者のがん検診受診状況を把握するため,喫煙習慣と肺・胃・大腸がん検診受診の関連,さらに 1 日の喫煙本数およびブリンクマン指数(BI)と各がん検診受診の関連を検討した。
    方法 2011年に大阪市住民(25~64歳の男女)を対象とした社会生活と健康に関する横断調査を実施した(有効回収率:52.4%)。40~64歳の2,016人(男性966人,女性1,050人)について,喫煙習慣,喫煙本数および BI と肺・胃・大腸がん検診受診の関連について,男女別に多変量調整ロジスティック回帰分析を行った。
    結果 現在喫煙者の肺がん検診受診率は男女ともに50.0%を超えていたものの,各がん検診において,現在喫煙者の受診率は非喫煙者と比較して低かった。喫煙習慣,喫煙本数および BI と各がん検診受診の関連を検討した結果,男性の現在喫煙者は,非喫煙者と比較して胃および大腸がん検診を有意に受診しておらず,オッズ比はそれぞれ0.71(P=0.036),0.67(P=0.012)であった。さらに男性では,1 日の喫煙本数20本以上および BI600以上の現在喫煙者は,3 種すべてのがん検診を有意に受診しておらず,非喫煙者を基準として20本以上の現在喫煙者のオッズ比は肺0.61(P=0.009),胃0.61(P=0.009),大腸0.59(P=0.004),BI600以上の現在喫煙者は肺0.55(P=0.006),胃0.62(P=0.028),大腸0.56(P=0.006)であった。女性では,大腸がん検診受診との間に有意な関連が得られ,非喫煙者に対する1日の喫煙本数20本以上の現在喫煙者のオッズ比は0.39(P=0.004),BI400以上の現在喫煙者のオッズ比は0.51(P=0.020)であった。
    結論 喫煙者は非喫煙者に比べてがん検診を受診しておらず,とくに男性においては,喫煙本数が多い者,BI が高い者でその傾向が強かった。喫煙者は検診を受診しないといった意味でもがん死亡リスクが高いと言える。がん死亡リスクの高い者が多く存在する検診未受診者に対してがん検診受診を促進すると同時に,健康やがんについて考える機会である「検診の場」を利用して,喫煙者を対象とした禁煙指導をあわせて実施・推進するべきだと考えられた。
  • 吉行 紀子, 河野 あゆみ, 曽我 智子, 金谷 志子, 堀田 邦子
    2016 年 63 巻 3 号 p. 135-142
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/02
    ジャーナル フリー
    目的 本研究では,要支援高齢者における介護保険サービスの利用パターン(以下,サービス利用パターン)と虚弱性との関連性を明らかにした。
    方法 対象者は,I 市における2014年 8 月末時点の要支援高齢者全1,033人である。うち,家庭訪問調査によるデータが得られた710人を分析対象者とした。虚弱性の指標として,介護予防チェックリストによる包括的虚弱の他,握力,BMI,抑うつ,認知機能を含めた。分析方法は,対象者のサービス利用パターンを①訪問介護のみ利用群,②通所介護のみ利用群,③訪問介護&通所介護利用群,④他サービス併用・利用群(訪問介護,通所介護の利用者および未利用者で,他の介護保険サービスを1つ以上利用する者),⑤未利用群,に分類した上で,基本属性等で調整したロジスティック回帰分析にて,他サービス併用・利用群を基準としたオッズ比(以下,OR)を算出し,サービス利用パターンと虚弱性との関連性を検討した。
    結果 対象者710人(100%)のサービス利用パターンは,訪問介護のみ利用群が17.9%,通所介護のみ利用群が15.6%,訪問介護&通所介護利用群が13.1%,他サービス併用・利用群が27.0%,未利用群が26.3%,であった。ロジスティック回帰分析の結果,他サービス併用・利用群(OR=1.00)に比べ,通所介護のみ利用群は,包括的虚弱ありの OR が0.57(95%CI:0.34-0.95),握力低下ありの OR が0.59(95%CI:0.35-1.00)であった。また,未利用群では,包括的虚弱ありの OR が0.50(95%CI:0.32-0.79),握力低下ありの OR が0.58(95%CI:0.37-0.91)であった。一方,訪問介護のみ利用群では,握力低下ありの OR が1.91(95%CI:1.11-3.29)であった。
    結論 本研究では,他サービス併用・利用者に比べ,通所介護のみ利用者,およびサービス未利用者には包括的虚弱者,握力低下者が少ない一方,訪問介護のみ利用者には握力低下者が多いことが明らかになった。よって,要支援高齢者等への地域資源や支援の提供では,このような対象者のサービス利用パターンによる虚弱性の特徴を考慮する必要があることが示唆された。
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