日本公衆衛生雑誌
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64 巻, 6 号
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原著
  • 佐方 信夫, 奥村 泰之, 白川 泰之
    2017 年 64 巻 6 号 p. 303-310
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/09
    ジャーナル フリー

    目的 本研究では急性期病院を退院した後期高齢者の経済状況と退院先の関連を明らかにすることを目的とした。

    方法 本研究は,厚生労働省の老人保健健康増進等事業として実施された調査の情報を二次利用することで,症例対照研究を実施した。調査では関東圏,関西圏の全急性期病院(1,092病院)に調査票の回答協力依頼が行われた。病院の退院調整を担当する職員に,退院先が自宅の者(以下,自宅退院)を直近2人分,退院先が自宅と異なる者(以下,施設入所等)の直近2人分について,調査票の回答が依頼された。調査票では経済状況を把握する項目として,「1か月に負担可能な金額」が質問された。この調査票の回答を自宅退院群と施設入所等群に分けて,患者背景を示す項目について記述統計量を求めた。また,従属変数を自宅退院,主な独立変数を経済状況として,自宅退院と施設入所等を医療機関でマッチングした条件付ロジスティック回帰分析を実施し,オッズ比と95%信頼区間を求めた。さらに,施設入所等群については経済状況別に退院先を集計し,退院先の施設類型に違いがあるかについて検討した。

    結果 本研究の適格基準を満たした解析対象は565人(自宅退院293人,施設入所等272人)であった。条件付ロジスティック回帰分析の結果,自宅退院のオッズは,1か月に10万円以上~15万円未満負担可能な人と比べ,15万円以上負担可能な人では70%低いこと(OR: 0.29, 95% CI: 0.12-0.69),10万円未満の人では6倍高いこと(OR: 6.48, 95% CI: 2.50-16.79)が示された。また,施設入所等群のうち,1か月に負担可能な額が15万円以上の人では,介護付き有料老人ホームを選ぶ人が最も多く,10万円未満の人では特別養護老人ホームを選ぶ人が最も多かった。

    結論 急性期病院からの後期高齢者の退院において,毎月負担可能な金額が少ない患者ほど自宅退院する可能性が高いことが示された。経済的にゆとりがないために自宅退院を選択している可能性が示唆されているため,国や地方自治体は,高齢者施設の確保や自宅での療養,介護,生活を支えるサービスの拡充を検討する必要がある。

  • 穐本 昌寛, 関根 道和, 山田 正明, 立瀬 剛志
    2017 年 64 巻 6 号 p. 311-321
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/09
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は小学生を対象にメディア利用を含めた生活習慣や社会・家庭環境と登校回避感情との関連を明らかにすることを目的とした。

    方法 対象は2014年7月に行われた文部科学省スーパー食育スクール事業に参加した富山県高岡市内の5つの小学校の1年生から6年生までの全児童,計2,057人で,そのうち計1,936人から回答が得られた(回収率94.1%)。そのうち,本研究の解析に用いた16項目すべてに回答した1,698人を対象として解析を行った。本研究は自記式調査票によるもので,生活習慣や登校回避感情についての質問項目は児童と保護者が一緒に回答した。また,父親の職業,母親の職業,暮らしのゆとりについての質問は保護者が回答した。従属変数を登校回避感情,独立変数を社会・家庭要因および生活習慣として,多変量ロジスティック回帰分析を用いて社会・家庭要因および生活習慣の登校回避感情「あり」に対する調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(95%CI)を算出した。

    結果 分析した結果,登校回避感情を持っている児童の割合は32.2%であった。登校回避感情ありと有意に正の関連をしていた要因は,学年では6年生を基準として1,3,4,5年生で登校回避感情を持つ人の割合が高かった。(調整オッズ比はそれぞれ1.48(95%CI : 1.02-2.13),1.63(95%CI : 1.10-2.42),1.60(95%CI : 1.08-2.39),1.56(95%CI : 1.03-2.35))他に関連した要因としては,朝食の欠食がある1.76(95%CI : 1.12-2.75),間食を毎日食べる1.64(95%CI : 1.21-2.22),テレビの視聴時間が3時間以上1.55(95%CI : 1.05-2.28),ゲームの利用時間が30分以上2時間未満1.37(95%CI : 1.08-1.74),睡眠不足を感じている1.51(95%CI : 1.14-1.99),目覚めの気分が良くない1.64(95%CI : 1.30-2.06),自分の健康に満足でない1.43(95%CI : 1.10-1.87),外遊びが嫌い1.62(95%CI : 1.05-2.52)が登校回避感情ありと関連した。

    結論 登校回避感情は様々な生活習慣と有意に正の関連をしていた。今後,学校保健活動等を通して,児童の望ましい生活習慣を確立していくことが登校回避感情の回避につながる可能性があることが示唆された。

  • 佐藤 慎一郎, 根本 裕太, 高橋 将記, 武田 典子, 松下 宗洋, 北畠 義典, 荒尾 孝
    2017 年 64 巻 6 号 p. 322-329
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/09
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は地域在住の要介護認定を受けていないすべての自立高齢者を対象に,膝痛の有症率を推定することを主たる目的とした。また,膝痛を有する高齢者の基本的な特性(性,年齢)についても検討した。

    方法 山梨県都留市在住の65歳以上の要介護認定を受けていないすべての高齢者6,790人を対象に,健康状態,生活習慣に関する調査を行った。調査は2016年1月12日から2月11日までの1か月間とし,郵送法により実施した。膝痛の調査は,「過去1か月間ほとんどの日において,左右のいずれかの膝に痛みを経験しましたか」を尋ね,「いいえ」と回答した者を「膝痛無し」,「はい」と回答した者を「膝痛有り」とした。基本属性として,性と年齢を調査し,年齢については,65歳~69歳,70歳~79歳,80歳~89歳,90歳以上の4階級に分類した。膝痛の有症率は,全解析対象者から膝痛を有する対象者数を求め,全解析対象者数で除すことによって算出した。また,膝痛者の基本属性上の特性を検討するために,性別,年齢階級別の膝痛の有症率についてχ2検定を行った。

    結果 調査票の回収数は5,328であり,回収率は78.5%であった。欠測値のあった調査票を除く有効回答数は5,186であり,有効回答率は76.4%であった。年齢階級別の有効回答率は64.9%~79.4%であった。全体の膝痛の有症率を求めた結果,膝痛有りと回答した者は1,733人であり,膝痛の有症率は33.4%であった。また,膝痛者の基本属性上の特性を検討した結果,性(P<0.001),年齢(P<0.001)ともに有症率と有意な関係を示し,女性は男性よりも,高年齢になるほど膝痛を有する者の割合が高かった。

    結論 本研究結果から,本研究の対象地域である中規模人口の中山間地域の地方自治体に居住する自立高齢者の膝痛有症率は33.4%と推定され,膝痛を有する高齢者は女性で高齢になるほど多くなる。

資料
  • 横川 吉晴, 三好 圭, 甲斐 一郎
    2017 年 64 巻 6 号 p. 330-336
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/09
    ジャーナル フリー

    目的 松本市では独居高齢者の生活状況の確認や孤独死予防のためのセーフティーネットとして,社会福祉協議会(以下,社協という)による4種類の「支え合い事業」が行われてきた。有償ボランティアによる,家事援助,昼食の配達,日常生活の楽しみの援助,電話での安否確認からなる。登録したすべての高齢者は,支え合い事業を1以上利用して生活を送る人と,登録のみで利用しない人に大きく分けることができる。本研究の目的は事業利用のある高齢者と申請のみで利用のない高齢者の間で,心身機能や日常生活状況の違いを明らかにすることとした。

    方法 調査対象は,平成26年6月四賀地区支え合い事業に登録した独居高齢者128人とした。同年9月から12月に社協職員による訪問調査を行った。調査項目は性,年齢,BMI,独居期間,日常生活動作能力,うつ傾向,コミュニケーション能力(社会的スキル得点),栄養状態,行政の支援サービス利用の有無,日常の移動手段,他者との交流頻度,情緒的・手段的サポートの授受とした。解析は,本事業1種目以上の利用群と申請のみの申請のみ群の測定指標を比較した。

    結果 128人中,欠損データのある15人を除く113人を解析対象者とした。申請のみ群は89人(78.8%),利用群は24人(21.2%)であった。平均年齢±SDはそれぞれ82.3±4.3歳と83.9±4.2歳だった。

     2群の比較で,年齢,BMI,独居年数,活動能力,社会的スキル得点,うつ傾向得点,栄養状態では差を認めなかった。利用群は申請のみ群と比較して以下の3点で有意差を認めた。自家用車の使用が少なく,代わりに行政の有償車両サービスの利用が多く,困ったときの子供や親族からの世話を受領している割合が多かった。

    結論 支え合い事業申請のみに比べ,利用する独居高齢者では公的移動サービス利用や子供や親族からのサポートが多かった。今後,独居高齢者の生活維持のために,移動手段の確保や周囲とのつながりの充実が重要と示唆された。

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