日本公衆衛生雑誌
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64 巻, 9 号
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原著
  • 原田 萌香, 瀧沢 あす香, 岡 純, 笠岡(坪山) 宜代
    2017 年 64 巻 9 号 p. 547-555
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/07
    ジャーナル フリー

    目的 避難所の食事を改善する新たな要因を探索する目的で,東日本大震災の避難所における食事提供体制(炊き出し回数,炊き出し献立作成者等)が食事内容を改善するか否かを検討した。

    方法 宮城県内の避難所386か所を対象とした,「避難所食事状況・栄養関連ニーズ調査(調査主体:宮城県保健福祉部)」の結果を二次利用し,被災から約1か月後の2011年4月時点での食事内容や炊き出し回数,献立作成者等について解析を行った。

    結果 1日の食事提供回数が0回または1回だった避難所はなかった。食事提供回数が2回の避難所に比べ3回の避難所では主食の提供は有意に多かった(P<0.05)が,主菜・副菜・乳製品・果物について著しい改善はみられなかった。食事回数以外の改善要因について検討したところ,炊き出し回数が多い避難所では,主食・主菜・副菜・果物の提供回数が多かった(P<0.05)。また,栄養士らが献立を作成した避難所では,乳製品および果物の提供回数が多かった(P<0.05)。

    結論 炊き出し実施は,災害時に不足するといわれている主菜・副菜・果物の提供を多くし,さらに献立作成者が栄養士らの場合,乳製品および果物の提供が多かった。これらの結果から,主食が中心となる災害時の食事は炊き出し実施や栄養士らが食事に関わることで改善される可能性が示唆された。

資料
  • 工藤 恵子, 鈴木 晃, 浦橋 久美子, 大越 扶貴, 阪東 美智子, 髙橋 郁子, 猪股 久美
    2017 年 64 巻 9 号 p. 556-566
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/07
    ジャーナル フリー

    目的 事例検討会における住まいの見取り図(観察あるいは聞き取りによって得られた住まい方についての情報が住宅平面図に記載されたスケッチ,以下,見取り図)の活用効果を明らかにするために,多職種による地域ケア会議を想定した仮想事例(本研究用に作成した事例)を用いた事例検討会を実施した。

    方法 2つの仮想事例(事例1,事例2)について,それぞれに見取り図のある場合,ない場合を設定した。実務に携わっている保健医療福祉の専門職5人からなる2グループ(Aグループ,Bグループ)を編成し,Aグループは事例1の見取り図なしと事例2の見取り図あり,Bグループは事例2の見取り図なしと事例1の見取り図ありの事例検討をこの順序で行った。事例検討会の検討内容や進行(所要時間や参加者の発言の特徴など)について,見取り図の有無でどのように異なるのかを比較検討した。また検討会終了後の参加者へのインタビューの逐語録も分析対象データとした。

    結果 検討内容は,本人や家族の生活状況と支援,住まいと住まい方,2つに分類され,この項目は見取り図の有無に関わらず共通であった。しかし,特に住まいや住まい方については,見取り図がない場合は部屋の位置の確認に多くの時間を費やし,そこまでで終わっていたが,見取り図がある場合はさらに部屋の使い方や動線などに話題が及んでいた。また,その内容も,より具体的なものとなっていた。一つの事例に対する検討時間は平均41分(36~44分の間)で,見取り図の有無による大きな差はなかった。2回目の検討(見取り図のある場合)は,1回目(見取り図のない場合)と比べ,参加者の発言回数が増え,参加者同士のやり取りが活発になっている様子がうかがえた。参加者からは見取り図は,そこに本人や家族がいるようなイメージを抱き,事例をより身近なものと感じることができたという感想が聞かれた。

    結論 事例検討会で見取り図を用いることは,情報共有のための時間が短縮し,かつ検討内容をより詳細に具体化させることに効果があるといえる。また見取り図は本人や家族の生活に関する想像力を喚起し,このことがアセスメントの広がりにも影響している可能性が示唆された。

  • 田中 惠子, 坂本 裕子, 森 美奈子, 中島 千惠
    2017 年 64 巻 9 号 p. 567-576
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/07
    ジャーナル フリー

    目的 乳幼児の食のリスクの低減には,母親が正しい知識を身につけて家庭で合理的にリスクに対応することが求められる。本研究は,幼児を持つ母親のリスクの考え方,知識,意識および行動の実態を示し,母親への食の安全教育を行う上での基礎的な資料とする。

    方法 2014年10月に幼児の母親を対象にインターネットによる質問調査を実施した。主な調査項目は属性,有害微生物による食中毒等の11の食の問題から,幼児の食の安全の問題として危険性が高くその危険性を低くするため大人が家庭や保育所・幼稚園等で努力する必要性が高いと感じる(以後,幼児にとって危険性が高いと感じる食の問題と記す)上位3位までの選び方,リスクの考え方,知識,意識および行動である。解析対象者数は984人であった。

    結果 幼児の食の問題に対して,母親の約3人に1人が有害微生物による食中毒の,半数以上が食品の誤嚥・窒息の危険性認識が低い可能性が示唆された。一方,3割が食品添加物の危険性が高いと感じていた。生牡蠣や鶏の刺身を食中毒予防のために幼児に与えてはいけないという認識がない者が1~2割存在し,調理中の生の肉等を触った後の石けん手洗い等,交差汚染を防ぐための習慣がない者も少なくなかった。食品の誤嚥・窒息では,3歳頃までピーナッツや飴等を与えてはいけないことを知らない母親は「わからない」を併せて4割存在した。さらに,約7人に1人の母親が,食事中の食品による誤嚥・窒息に気を配っていないことが示された。幼児にとって危険性が高いと感じる食の問題に食品の誤嚥・窒息を選択しなかった者に,3歳頃までピーナッツや飴等を与えてはいけないことを知らない,この問題に気をつけていない,食品表示を参考にするという特徴が見いだされ,また,食品添加物に対して否定的な考えを有している割合が高かった。

    結論 幼児の食のリスクを低減するための知識や習慣が十分に身についていない者が少なくなかったこと,また食品の誤嚥・窒息の危険性の認識が低い者は,食品添加物に否定的な考えを持ち,表示を参考にする一方で,食事中の幼児の誤嚥・窒息に気を配っていない等の特徴が示されたことから,母親へのリスクの考え方をとりいれた食の安全教育の必要性が示された。

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