日本公衆衛生雑誌
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67 巻, 3 号
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論壇
原著
  • 成田 美紀, 北村 明彦, 武見 ゆかり, 横山 友里, 森田 明美, 新開 省二
    原稿種別: 原著
    2020 年 67 巻 3 号 p. 171-182
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    目的 日本人高齢者の食品摂取の多様性指標の一つに,食品摂取多様性スコアがある。高齢者を対象とした研究では,身体機能や生活機能,転倒リスク,サルコペニア等との健康アウトカムと食品摂取の多様性の関連が報告されているが,多様な食品摂取による各種栄養素の多寡や食事の特徴について十分検討されていなかった。本報は,高齢者における食品摂取多様性スコアと栄養素等摂取量,食品群別摂取量および主食・主菜・副菜を組み合わせた食事日数との関連を明らかにすることを目的とした。

    方法 東京都板橋区在住で65~84歳の高齢者182人を対象とした。食品摂取の多様性指標は,熊谷らの食品摂取多様性スコア(DVS)を使用し,0~3点を低群,4~6点を中群,7~10点を高群に分類した。並行して,3日間の自記式食事記録を行い,1日当たりの栄養素等摂取量,食品群別摂取量および主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日数(以下,バランスのとれた食事日数)を求めた。性,年齢,エネルギーを調整した一般線形モデルによりDVS区分と各食事関連指標との関連について検討した。また,各栄養素の推定平均必要量(EAR)を下回る者の割合を算出し,多重ロジスティック回帰分析によりDVS区分の栄養素別不足リスクを推定した。

    結果 DVS高群に比し低群ではバランスのとれた食事日数が有意に低値を示した(DVS低群1.4(1.2-1.6)日,中群1.8(1.6-1.9)日,高群1.9(1.7-2.1)日,傾向性P=0.001)。DVS高群に比しDVS低群ではエネルギー,たんぱく質・脂質のエネルギー比率,総たんぱく質,食物繊維,カリウム,マグネシウム,リン,ビタミンK,ビタミンB12の摂取量が有意に低値を示し,炭水化物・穀類のエネルギー比率,炭水化物摂取量は有意に高値を示した。ビタミンCのEARを下回るオッズ比はDVS高群に比し低群で有意に高値を示し,マグネシウム,亜鉛,ビタミンB6のEARを下回るオッズ比DVS中群で有意に高値を示した。

    結論 DVSが高いことは,たんぱく質および微量栄養素のより多い摂取と有意な関連があり,主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を行う機会が多いことが明らかになった。DVSは高齢期に望ましい多様な食品や栄養素の摂取につながる食事の評価指標となり得ると考えられる。

  • 五十嵐 彩夏, 相田 潤, 草間 太郎, 小坂 健
    原稿種別: 原著
    2020 年 67 巻 3 号 p. 183-190
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    目的 海外での研究では職場での受動喫煙暴露は,事務系労働者に比べて,建設業や運輸業などの肉体労働者で多いことが明らかになっている。日本では職場での受動喫煙への暴露には,社会経済状況による格差が存在することが明らかになっているが,業種と職場での受動喫煙状況との関連を明らかにした研究は我々の調べた限り存在しない。本研究は業種と職場での受動喫煙との関連を明らかにすることを目的とした。

    方法 2017年に日本で20-69歳の男女5,000人を対象として行われたウェブ調査を用いて,横断研究を行った。日本標準職業分類の11業種に就業している者および職場での受動喫煙について回答した者のうち,直近30日以内に喫煙していない者を分析対象とした(n=1,739)。独立変数は業種とし,①管理的・専門的・技術的,②事務的,③販売・サービス,④保安,⑤農林漁業,⑥生産工程・運搬・清掃・包装等,⑦輸送・機械運転・建設・採掘の 7 群に分類した。従属変数は職場での受動喫煙の有無とした。共変量として性別,年齢,学歴,所得,職場の喫煙環境,受動喫煙に対する意識を用いた。ポアソン回帰モデルを用いて,業種の違いによる職場での受動喫煙の Prevalence ratio を算出した。

    結果 分析対象者は平均年齢43.3歳(SD=11.9),男性60.5%で,過去 1 か月間に職場で受動喫煙があった者は529人(30.4%)であった。受動喫煙があった者の業種内での割合は,①管理的・専門的・技術的で171人(27.9%),②事務的で155人(27.1%),③販売・サービスで116人(33.7%),④保安で10人(45.5%),⑤農林漁業で 7 人(31.8%),⑥生産工程・運搬・清掃・包装等で39人(34.5%),⑦輸送・機械運転・建設・採掘で31人(58.5%)であった。多変量解析の結果,非喫煙者において,事務的に比べ販売・サービスで1.27倍(95%信頼区間(95% CI):1.04-1.56),保安で1.61倍(95% CI:1.02-2.56),輸送・機械運転・建設・採掘は1.75倍(95% CI:1.33-2.31)職場で受動喫煙の暴露があった。

    結論 改正健康増進法により事業所での受動喫煙防止対策はすすむが,業種によっては職場での受動喫煙防止対策が取り残される可能性があるため,職場での受動喫煙状況をモニタリングする必要がある。

  • 本橋 隆子, 小平 隆雄, 中辻 侑子, 松浦 和子, 益子 まり, 高田 礼子
    原稿種別: 原著
    2020 年 67 巻 3 号 p. 191-210
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    目的 都市生活者の近所付き合いの現状と日常生活の支援や近所の人・ボランティアによる受援に関連する要因を明らかにし,都市部における互助の課題とその解決策を検討する。

    方法 川崎市宮前区に居住する30歳以上の男女1,000人を対象に,「宮前区民のくらしを豊かにするためのアンケート」を実施した。本研究で使用した調査項目は,基本属性(性別,年代,居住形態など),近所付き合い,個人情報提供の意思,手段的日常生活活動(以下,IADL)に対する支援の意思と受援の意思である。IADL別の支援と近所の人・ボランティアによる受援に関連する要因を検討するために,基本属性,近所付き合い,個人情報提供の意思,IADLの対する支援の意思を独立変数とし,二項ロジステック回帰分析を行った。

    結果 407人を有効回答とした。近所付き合いは「生活面で協力」11.8%,「立ち話程度」33.3%,「あいさつ程度」46.0%,「付き合いなし」9.0%であった。支援してもよいと回答した人の割合が最も高かったIADLは声かけ・見守りで60.1%,次いでゴミ出しが51.7%であった。一方,声かけ・見守りを近所の人・ボランティアにお願いすると回答した人は27.7%,ゴミ出しは28.5%であった。次に「支援する」と有意に関連した要因は,女性,近所付き合い(立ち話程度・生活面で協力)であった。個人情報提供に対する抵抗は支援の阻害要因となっていた。「近所の人・ボランティアによる受援」と有意に関連した要因は,女性,各IADLに対する支援の意思であった。一方,持ち家は受援の阻害要因となっていた。

    結論 都市部では,定住や居住年数によって近所付き合いが親密になるとは限らなかった。都市部の近所付き合いはあいさつ程度が主流だが,日常生活の支援には会話ができる程度の近所付き合いが必要であることが明らかとなった。また,見守りやごみ捨てなどの簡単な日常生活の支援はしてもよいと考えている人が多い一方で,自分に支援が必要となった場合は近所の人・ボランティアにお願いする人は少なかった。しかし,近所の人・ボランティアによる受援は,各IADLの支援の意思が関連しており,支援と受援には相互関係があった。都市部における日常生活の「互助」の促進には,会話ができる近所付き合いを目指すだけでなく,支援を経験する機会を増やす取り組みが必要であることが示唆された。

資料
  • 中野 隆之
    原稿種別: 資料
    2020 年 67 巻 3 号 p. 211-220
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    目的 近年高齢者の間でジョギング・ランニング活動の実施率が以前と比較して高まっている。本研究はジョギング・ランニング活動をおこなう高齢者のQOLの特徴とジョギング・ランニング活動との関連を調査した。

    方法 質問紙調査は2014年11月から2015年7月までの間に,7つのマラソン大会会場で60歳から81歳までの83人のマラソン参加者を対象としておこなわれた。性別と年齢のほかに,ジョギング・ランニング活動における走行年数,走行距離(km/月),走行頻度(回数/週),マラソン大会参加回数(回数/年)およびQOLが調査された。QOLはWHOQOL26の質問票により測定された。この質問票は全体,身体的領域,心理的領域,社会的関係,環境領域から構成される。QOLとそれ以外の項目との関連は,相関分析と重回帰分析を使って分析された。

    結果 対象者の多くは5年以上の走行年数,1月あたり150 km以下の走行距離,1週間あたり1回から4回の走行頻度,1年あたり1回から10回のマラソン大会の参加回数であった。対象者のうち65歳以上の男女別にQOLをみると,平均値(SD)は男性が3.8(0.4),女性が4.1(0.5)であったが,この得点は,日本の高齢者を対象とした先行研究での得点よりも高いものであった。またジョガー・ランナーによくみられる下肢障害など体の痛みを示すものはみられなかった。

     全体的なQOLが年齢と走行頻度との間で,社会的関係に関するQOLが性別と走行年数との間で,また環境領域に関するQOLが走行年数との間で,それぞれ正の有意な相関が示された。

    結論 調査対象となった高齢者にとって可能な限り,より多くの走行頻度と,より長い走行年数を考えたジョギング・ランニング活動をおこなうことと「全体」,「社会的関係」,「環境領域」のQOLの高さとの間に有意な関連があることが示唆された。この研究結果をさらに厳密に解釈するためには,より多くの対象者や変数を使った対照研究,縦断研究が必要である。

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