日本公衆衛生雑誌
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69 巻, 10 号
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原著
  • 相良 友哉, 村山 洋史, 高橋 知也, 西中川 まき, 藤原 佳典
    2022 年 69 巻 10 号 p. 779-789
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/01
    [早期公開] 公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的 急速な高齢化の進展や人口減少によって,様々な業界で働き手が不足しており,とくに,介護や保育などの福祉業界において深刻な問題となっている。その対応策のひとつとして,自立した日常生活を送れているいわゆる「元気高齢者(アクティブシニア)」を補助人材として雇用し,施設の非専門的な周辺業務を担ってもらう取組みが散見される。しかし,これらの業務への就労意向を持つ者の割合や,その要件は十分に整理されていない。そこで,本研究は,介護補助や保育補助としての就労意向を持つ高齢者の特性を明らかにすることを目的とした。

    方法 「NPO法人りぷりんと・ネットワーク(りぷりんと)」に加盟している首都圏の絵本読み聞かせボランティア団体の会員で60歳以上の者374人を対象とした自記式アンケート調査を実施し,有効回答295票を得た(回収率78.9%)。調査期間は2019年10月~11月であった。本研究では,介護補助と保育補助のそれぞれについて,「就労意向の有無」を目的変数,「就労関連項目」「健康状態」「社会関係・社会参加状況」を説明変数,「人口統計学的変数」を調整変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った。分析に際して,欠測値を多重代入法により補った(10ファイルを作成)。

    結果 補助人材として就労意向を持っている高齢者は,介護補助で72人(24.4%),保育補助で107人(36.3%)見られた。二項ロジスティック分析の結果,日頃から生涯学習活動に参加している人ほど介護補助へ就労意向を持っており(オッズ比[OR]:2.98,95%信頼区間[95%CI]:1.40-6.34),主観的健康感が高い人ほど保育補助へ就労意向を持っている傾向が見られた(OR:2.41,95%CI:1.01-5.76)

    結論 補助人材として就労意向を持ちそうな高齢者として,介護補助では生涯学習活動の参加者,保育補助では主観的健康感が高い人という特性が見られた。これらの特性を持った高齢者に的を絞ったリクルートをすることで,補助人材として就労する高齢者の掘り起こしに寄与できる可能性がある。

  • 田島 敬之, 原田 和弘, 小熊 祐子, 澤田 亨
    2022 年 69 巻 10 号 p. 790-804
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/01
    [早期公開] 公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的 本研究では,アクティブガイドの認知・知識・信念・行動意図の現状と,身体活動・座位行動,個人属性との関連を明らかにする。

    方法 オンライン調査会社に登録する20~69歳のモニター7,000人を対象に,横断的調査を実施した。アクティブガイドの認知は,純粋想起法と助成想起法により,知識は「1日の推奨活動時間(18~64歳/65歳以上)」と「今から増やすべき身体活動時間(プラス・テン)」を数値回答で調査した。信念と行動意図はアクティブガイドに対応する形で新たに尺度を作成し,信念の合計得点と行動意図を有する者の割合を算出した。身体活動は多目的コホート研究(JPHC study)の身体活動質問票から中高強度身体活動量を,特定健診・保健指導の標準的な質問票から活動レベルを算出した。座位行動は国際標準化身体活動質問表(IPAQ)日本語版を使用した。記述的要約を実施した後,従属変数を認知・知識・信念・行動意図のそれぞれの項目,独立変数を身体活動量,座位行動,個人属性(性別,年代,BMI,配偶者の有無,教育歴,仕事の有無,世帯収入)とし,ロジスティック回帰分析でこれらの関連を検討した。

    結果 アクティブガイドの認知率は純粋想起法で1.7%,助成想起法で5.3~13.4%であった。知識の正答率は,「1日の推奨活動時間(18~64歳)」で37.2%,「1日の身体活動時間(65歳以上)」で7.0%,「プラス・テン」で24.8%,3項目すべて正答で2.6%だった。信念の中央値(四分位範囲)は21(16~25)点であった(32点満点)。行動意図を有する者は,「1日の推奨活動量」で51.4%,「プラス・テン」で66.9%だった。ロジスティック回帰分析の結果,認知・知識・信念・行動意図は中高強度身体活動量や活動レベルでいずれも正の関連が観察された一方で,座位行動では一貫した関連は観察されなかった。個人属性は,評価項目によって異なるが,主に年代や教育歴,仕事の有無,世帯年収との関連を認めた。

    結論 本研究より,アクティブガイドの認知や知識を有する者は未だ少ない現状が明らかとなった。さらにアクティブガイドの認知・知識・信念・行動意図を有する者は身体活動量が多いことが明らかとなったが,座位行動は一貫した関連が観察されず,この点はさらなる調査が必要である。さらに,今後は経時的な定点調査も求められる。

  • 江尻 愛美, 河合 恒, 安永 正史, 白部 麻樹, 伊藤 久美子, 植田 拓也, 大渕 修一
    2022 年 69 巻 10 号 p. 805-813
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/01
    [早期公開] 公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的 住民主体の通いの場の支援では運営に関わる住民の負担軽減と心理社会的健康の維持が必要である。本研究では,通いの場における役割の違いによる課題認識について把握し継続支援方法を検討すること,役割と心理社会的健康との関連を明らかにすることを目的とした。

    方法 2018年に,島嶼部を除く東京都内53区市町村の担当者を通じて住民主体の通いの場活動を行う自主グループへ調査員訪問による自記式質問紙調査への協力を依頼し,40区市町155グループ2,367人より回答を得た。グループの運営における役割は,グループのメンバーをまとめるリーダー,リーダーとともにグループを運営するサポーター,とくにグループの取りまとめに関する役割のない参加者の3種類から選択させた。対象者を,通いの場活動における課題(10種類)を1つでも感じている者とそうでない者に分けた。心理的健康はWHO-5精神的健康状態表を,社会的健康はLubben Social Network Scale短縮版(LSNS-6)を尋ねた。役割と認識している課題の内容との関連をカイ二乗検定で,役割および課題認識の有無と心理社会的健康の関連を二元配置共分散分析で検討した。

    結果 有効回答者数は2,096人で,リーダー174人,サポーター296人,参加者1,626人だった。課題を感じていない者は,リーダー8.6%,サポーター27.7%,参加者53.6%であり有意な関連が認められた(P<0.001)。リーダーは運営メンバー不足,グループの高齢化などの課題を参加者よりも多く認識していた。二元配置共分散分析の結果WHO-5とLSNS-6のいずれも役割の主効果のみ有意であり(いずれもP<0.001),役割と課題認識の交互作用は認められなかった(それぞれP=0.729, P=0.171)。役割間の多重比較の結果リーダーとサポーターは参加者よりWHO-5とLSNS-6の得点が有意に高かった。

    結論 通いの場において運営に関わる役割を担う者ほど活動時の課題を多く認識し,運営に関わる課題は役割間の認識の差が大きく,役割間での課題の認識のされやすさに応じた支援が有効であると考えられた。一方,課題認識の有無に関わらず,リーダーやサポーターは参加者より心理社会的健康が高かった。通いの場で役割を持つことが心理社会的健康に良い影響を与える可能性について今後は縦断研究による検証が期待される。

  • 高瀬 寛子, 荒木田 美香子
    2022 年 69 巻 10 号 p. 814-823
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/01
    [早期公開] 公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,父親の子育て参加促進に向けた基礎資料とするために,1歳から3歳未満の第1子をもつ父親を対象に育児および家事における実施状況とその関連要因を明らかにすることを目的とした。

    方法 2020年10月にWEB調査を行った。調査項目は基本属性,就業状況,子育てに関する情報,育児と家事の実施頻度,夫婦関係満足尺度(以下,QMI),ワーク・ファミリー・コンフリクト尺度日本語版(以下,WFCS),K6日本語版について尋ねた。育児と家事の実施頻度を各高低で2群化し,さらに育児と家事の各高低群を4群に分類した。育児高低群,家事高低群,育児家事の4群を各々従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。

    結果 44の都道府県から回答が得られ,406人(欠損値なし)を分析対象とした。育児と家事の実施頻度の高い項目は,抱っこする,一緒に遊ぶ,ゴミだしであり,低い項目は定期健診や予防接種の受診,病院受診,食事をつくる,寝かしつけであった。多重ロジスティック回帰分析の結果,育児の実施頻度の高い群において,両親学級や父親学級の参加あり,育児休業取得あり,妻の就労あり,残業時間10時間未満,最終学歴(中学・高校・専門・高専・短大卒業:非大学卒業),低いWFCS,高いQMIとの関連が認められた。一方,家事の実施頻度の高い群において,両親との同居なし,交替勤務あり,両親学級や父親学級の参加あり,世帯年収600万円以上,最終学歴(非大学卒業),妻の就労あり,妻の健康状態(普通・悪い・とても悪い),高いQMIとの関連が認められ,育児の実施頻度の関連要因とは異なる項目が抽出された。続いて4群に分類したところ,育児家事高群(38.4%),育児高く家事低い群(14.0%),育児低く家事高い群(19.5%),育児家事低群(28.1%)に分類された。この4群において,最も関連のあったものは両親学級や父親学級の参加,残業時間,妻の就労,QMIであった。

    結論 父親の育児および家事の実施頻度において,両親学級や父親学級への参加,残業時間,妻の就労,QMIとの関連が明らかになった。子育て参加への促進に向け,実施頻度の少ない育児や家事への働きかけや父親を対象とした学級等の支援方法の検討の必要性が示唆された。

公衆衛生活動報告
  • 寺川 由美
    2022 年 69 巻 10 号 p. 824-832
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/01
    [早期公開] 公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的 先天性横隔膜ヘルニアは,2,000人~5,000人に1人の希少疾患で,2015年から小児慢性特定疾病,指定難病にも指定されている。これまで,患者・家族会は存在せず,患者・家族によるピアサポートや情報の集約・提供は行われていなかった。

    方法 同じ疾患の子をもつ家族同士で情報交換や様々な悩みに対する共感をし合い,疾患についての情報を客観的に集約・提供できる場が必要と考え,日本先天性横隔膜ヘルニア研究グループの支援の下,2020年5月,先天性横隔膜ヘルニア患者・家族会を立ち上げた。

    活動内容 患者・家族支援の観点から,疾患の特性を考え,①胎児診断,②子育て中,③グリーフケアという3つの場を設け,活動を行うこととした。

     設立後,活動内容の拡がりや会員数の増加とともに,様々な課題が出現した。今後の活動に繋げるため,2021年3月に,会員に対して患者・家族会の活動内容に関するアンケートを行い,会に対するニーズや活動内容に対する評価を分析した。

     設立後1年で会員数は33人に増加した。患者・家族会の活動内容に関するアンケートでは,高い満足度が得られているという結果だったが,利用しているツールや,活動内容,グリーフケアや胎児診断された方への支援など,今後の課題も顕在化した。

    結論 今後,様々な立場の患者・家族の安心の場になれるよう,システムの構築を行っていく。また,患者・家族会の社会的認知度の向上を目指した様々な活動を継続し,医療・研究分野との連携を継続することが重要である。

資料
  • 望月 泉美, 串田 修, 赤松 利恵, 村山 伸子
    2022 年 69 巻 10 号 p. 833-840
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/01
    [早期公開] 公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的 日本の栄養政策では,都道府県と保健所設置市及び特別区(以下,政令市等)における飲食店等を通した食環境整備が重視されている。しかし,飲食店等を通した食環境整備のマネジメント実施状況の実態は把握されていない。本研究では,都道府県と政令市等でのマネジメント実施状況の実態を明らかにすることを目的とした。

    方法 全国の都道府県47,政令市等106の自治体を対象として,2020年10月に郵送調査を実施した。食環境整備のマネジメント実施状況として,栄養・食生活の実態把握,組織体制,目標設定有無,飲食店等を対象とした食環境整備制度(以下,制度)有無を尋ね,制度実施自治体には制度の対象・普及取組・プロセス評価・改善について尋ねた。

    結果 回答が得られた自治体のうち,都道府県39/42(92.9%),政令市等57/82(69.5%)の制度実施自治体を対象とした。実態把握として,過去5年以内の地域住民の栄養素等摂取量の把握割合は,都道府県84.6%,政令市等14.0%であった。組織体制として,管理栄養士・栄養士人数の中央値は,本庁の食環境整備担当部署で都道府県2人,政令市等2人であった。食環境整備の目標設定割合は,都道府県69.2%,政令市等54.4%であった。制度の対象の食事は,外食が都道府県94.9%,政令市等100.0%,中食が都道府県87.2%,政令市等93.0%であった。制度の普及取組は,自治体内や他自治体との連携割合が都道府県69.2%,政令市等66.7%,外部組織への普及委託割合が都道府県15.4%,政令市等15.8%であった。制度のプロセス評価は,登録店舗・事業者数の把握割合が都道府県87.2%,政令市等89.5%,管内全体の飲食店等数の把握割合が都道府県17.6%,政令市等21.6%であった。制度の改善は,更新制度の設定割合が都道府県33.3%,政令市等40.4%,制度の見直し割合が都道府県71.8%,政令市等33.3%であった。

    結論 新型コロナウイルス感染症流行下で過小申告の可能性があるが,制度実施自治体では,政令市等で栄養素等摂取量の把握は少なく,都道府県と政令市等ともに食環境整備の目標設定が5-7割であった。いずれも登録店舗・事業者数の把握が9割である一方,母集団となる管内全体の飲食店等数の把握割合は2割であった。更新制度を設定している自治体は3-4割であった。

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