日本公衆衛生雑誌
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69 巻, 7 号
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論壇
  • 植田 拓也, 倉岡 正高, 清野 諭, 小林 江里香, 服部 真治, 澤岡 詩野, 野藤 悠, 本川 佳子, 野中 久美子, 村山 洋史, ...
    2022 年 69 巻 7 号 p. 497-504
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/07/13
    [早期公開] 公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    抄録 一般介護予防施策としての「地域づくりによる介護予防」において「通いの場」への支援は自治体にとって主要事業の一つである。「通いの場」の多様性が求められる一方で,行政が把握し,支援・連携すべき「通いの場」の概念や類型は明確ではない。そこで,東京都健康長寿医療センター研究所(東京都介護予防・フレイル予防推進支援センター)と東京都は「通いの場」の概念整理検討委員会を設置し,東京都内62自治体が,一般介護予防施策のPDCAサイクルに沿って「通いの場」を把握し展開する際の目安として概念および主目的による類型を提示した。

     「通いの場」の類型は,3つのタイプ(タイプⅠ:趣味活動,他者と一緒に取り組む就労的活動,ボランティア活動の場等の「共通の生きがい・楽しみを主目的」,タイプⅡ:住民組織が運営するサロン,老人クラブ等の「交流(孤立予防)を主目的」,タイプⅢ:住民組織が運営する体操グループ活動等の「心身機能の維持・向上等を主目的」)に分類した。この類型に基づき,地域資源としての「通いの場」を把握することにより,市区町村・生活圏域単位での地域のニーズと照らし合わせた戦略的かつ系統的な「通いの場」づくりの一助となると考えられる。

原著
  • 平井 寛, 近藤 克則
    2022 年 69 巻 7 号 p. 505-516
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/07/13
    [早期公開] 公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    目的 介護予防の重点分野の1つ「閉じこもり」は,外出頻度が週に1回未満の者とされることが多い。しかし質問文に外出の定義がない場合,外出しても外出と認識せず,頻度を少なく回答し閉じこもりと判定される可能性がある。本研究では,高齢者対象の質問紙調査において,外出の定義の有無による閉じこもり割合,要介護リスクの違いを明らかにする。また,目的別の外出頻度を用いて,週1回以上外出しているにもかかわらず閉じこもりとなる「外出頻度回答の矛盾」に外出の定義の有無が関連しているかどうかを検討した。

    方法 愛知県の4介護保険者A~D在住の自立高齢者に対し2006~2007年に行った自記式調査の回答者10,802人を対象とした。全般的な外出頻度を尋ねる際,保険者Dのみ「屋外に出れば外出とします」という定義を示した。また全4保険者で,買い物等5種類の目的別外出頻度を尋ねた。全般的な外出頻度で週1回未満の者を「全般的閉じこもり」,目的別外出頻度いずれかで週1回以上の者を「目的別非閉じこもり」とした。「全般的閉じこもり」について,約10年間の要介護認定ハザード比(Hazard Ratio, HR)の違いを検討した。「目的別非閉じこもり」かつ「全般的閉じこもり」の者を「外出頻度回答に矛盾がある者」とし,発生割合,発生に関連する要因のPrevalence Ratio(PR)を算出した。

    結果 全般的閉じこもりの粗割合は保険者ABCでは11.7%であったのに対し,定義を示した保険者Dでは2.8%であった。保険者ABCに対し,保険者Dの全般的閉じこもりは要介護認定を受けるHRが有意に高かった(HR=1.56)。目的別非閉じこもりであるにもかかわらず全般的閉じこもりという矛盾回答は保険者ABCで10.2%,保険者Dで2.2%みられた。矛盾回答の発生に正の関連を示したのは女性,高い年齢,配偶者・子世代との同居,教育年数が短いこと,主観的健康感がよくないこと,うつ,島嶼部の居住者であることであった。外出の定義を示した保険者Dでは有意に矛盾が発生しにくかった(PR=0.29)。

    結論 外出の定義の有無により閉じこもり割合,要介護リスクに違いがみられた。外出の定義がないことは外出頻度回答の矛盾発生に有意に関連していた。閉じこもりを把握するために外出頻度を尋ねる際には外出の定義を示すことが望ましい。

  • 冨田 直明
    2022 年 69 巻 7 号 p. 517-526
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/07/13
    [早期公開] 公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    目的 愛媛県A保健所管内で多発するダニ媒介感染症である日本紅斑熱(以下JSF)と重症熱性血小板減少症候群(以下SFTS)の感染原因とその対策を研究した。

    方法 JSFとSFTSの患者を確定診断した医師が愛媛県感染症発生動向調査事業に基づく調査票を用いA保健所に届出した症例であった。

    結果 JSFの2003年8月から17年間の届出数は91例(県全体の56.5%)男性44例平均年齢59.4±18.3歳,女性47例平均年齢65.7±13.8歳であった。届出当該者の住居環境割合は柑橘栽培の山に隣接する住宅地が67.0%で,農作業や日常生活において野山に立入らずともマダニとの接触が度々と考えられた。届出当該者の職業割合は柑橘栽培31.9%,退職26.4%,農業14.3%であった。臨床症状の発生率は発熱と全身性発疹が全例,刺し口73.6%,肝機能障害69.2%,播種性血管内凝固症候群(DIC)14.3%,神経症状11.0%であり死亡割合は1.1%であった。刺し口の確認された症例には重症と定義されたDICの割合が有意に低率であった。SFTSの2013年12月から7年間の届出数は14例(県全体の42.4%)男性7例平均年齢71.1±14.4歳,女性7例平均年齢80.6±7.4歳であった。届出当該者の住居環境割合は山間の住宅地が85.7%,届出当該者の職業割合は退職者が85.7%であった。臨床症状の発生率は発熱と顕著な白血球と血小板の減少が全例,刺し口57.1%,下痢71.4%,神経症状57.1%,出血傾向42.9%であった。死亡割合は35.7%で全例に神経症状と出血傾向を合併し発病から死亡までの日数は平均11.2±3.6日であった。生存例は死亡例に対して刺し口の確認の割合が有意に高率であった。

    結論 当地域は愛媛県内で有数な柑橘類生産地のために柑橘栽培の山での作業中にマダニの頻回な刺咬により感染するJSFは職業病と考えられた。柑橘栽培従事者は必ずダニ媒介感染症の予防法を習得すべきである。また一般住民も含めた啓発により最近の届出数は漸減している。現在,SFTSは4類感染症であるが血球貪食症候群を発症後に急速に死亡に至る危険性があり,SFTSを診察した医師は早急に集中治療室のある基幹病院への移送が必要である。

公衆衛生活動報告
  • 齋藤 義正, 高橋 宏和, 若尾 文彦
    2022 年 69 巻 7 号 p. 527-535
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/07/13
    [早期公開] 公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー

    目的 国立がん研究センター(当センター)は地域のがん医療の質を向上させる取り組みを支援するための手段の一つとしてがん化学療法医療チーム研修会を開催してきた。がん対策基本法が施行されてから15年が過ぎ,これまでの活動を振り返り,今後のがん医療体制の整備の充実を図るための一助とすることとした。

    方法 2006年度から2020年度までに当センターが主催した研修会のうち,がん薬物療法に携わる多職種が受講対象となる研修会(緩和ケアの研修会は除く)を調査した。研修会ごとに開催年度,受講対象,研修目的,受講施設数を調査し,第1期から第3期までのがん対策推進基本計画の取組むべき施策の中でこれまで開催した研修会の位置づけを考察した。

    活動内容 すべての研修会の共通目標は,がん薬物療法の医療水準の向上に貢献し,がん医療の均てん化につなげることだが,研修会ごとに行動目標が異なっている。第1期がん対策推進基本計画は,2007年度から5年間を対象とし,化学療法を専門的に行う医師の養成とともに専門的にがん治療を行う薬剤師や看護師等の医療従事者が協力して治療に当たる体制を構築していく必要性が示されている。この目標を達成するために,がん化学療法チーム養成にかかる研修(2006~2008年度)およびがん化学療法医療チーム養成にかかる指導者研修(2009~2018年度)が開催され,それぞれ103施設および143施設が受講し,各都道府県内のがん化学療法医療チームが少なくとも1回はどちらかの研修会を受講したことになる。この間,がん対策推進基本計画は2012年6月および2018年3月に改定され,がん診療連携拠点病院は,わが国のがん医療の中心的な担い手として位置づけられている。その過程で,受講対象を都道府県がん診療連携拠点病院のがん化学療法チームとし,2014年度からは地域におけるがん化学療法研修実施にかかる指導者養成研修を開催している。さらに,2017年度からは都道府県指導者養成研修を開催し,受講者を対象としたアンケート調査では,研修受講後にすべての職種で地域のがん医療の質を向上させるための取り組みを行う自信の向上がみられた。

    結論 当センターが主催したがん薬物療法に携わる多職種を対象とした研修会は,がん対策推進基本計画の改定とともに目的に合致した研修会を開催し,人材育成の一翼を担ってきたことが推察された。

資料
  • 西谷 梨花, 田渕 紗也香, 月野木 ルミ
    2022 年 69 巻 7 号 p. 536-543
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/07/13
    [早期公開] 公開日: 2022/04/08
    ジャーナル フリー

    目的 精神障害者の地域移行に伴い生活基盤の構築のために在宅精神障害者の就労支援が推進される中で,精神障害者の就労が継続するための行政保健師が行う支援内容を明らかにすることを目的とした。

    方法 本研究では,質的記述的研究を用いた。研究対象者は,関東圏または関西圏の都道府県型保健所もしくは中核市,政令指定都市での勤務経験が10年以上あり,2013年以降の精神保健福祉担当経験が3年以上ある保健師5人とした。インタビューガイドに基づく半構造化面接を行い,①就労移行期・就労継続期にある精神障害者と家族が抱える主な困難や問題とその支援内容,②精神障害者と家族が就労意欲を維持するための支援内容について質問した。行政保健師による「就労支援」は,行政保健師が「精神障害者とその家族に対して,就労移行と就労継続できるよう行う支援」と定義した。データ分析は,逐語録からコード化,コードの類似性・相違性を比較しながら,抽象度を上げて,サブカテゴリー,カテゴリーを抽出した。

    結果 精神障害者の就労が継続するために行政保健師が行う支援内容について,6カテゴリー【人生における就労の意味・目標を明確にし,本人の主体性を引き出す】【病状を見極めて就労支援を進める】【本人の強みを生かし,本人の希望に合った就労支援の計画を立てる】【就労継続の支援体制を整え,就労の振り返りと次のステップを一緒に考える】【家族が就労の支え方に気づけるように促す】【精神障害者や支援者とともに精神障害者の就労を支える地域づくりを行う】と14サブカテゴリーが抽出された。カテゴリーは,行政保健師の属性,地域,経験の違いによらず共通していた。

    結論 本研究結果から,行政保健師による精神障害者の就労から定着までの支援内容が明らかとなった。行政保健師による精神障害者の就労継続支援は,本人だけでなく家族支援や地域づくりまで展開した支援を行う必要性が示唆された。

  • 小林 江里香, 植田 拓也, 高橋 淳太, 清野 諭, 野藤 悠, 根本 裕太, 倉岡 正高, 藤原 佳典
    2022 年 69 巻 7 号 p. 544-553
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/07/13
    [早期公開] 公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    目的 介護保険施策では,近年,介護予防に資する住民活動として,体操など機能訓練中心の「通いの場」だけではなく,多様な「通いの場」の推進が期待されている。本研究では高齢者が参加する自主グループを通いの場として,その類型別の特徴を「参加者の多様性」と「住民の主体性」の点から比較検討した。

    方法 東京都内の38自治体の介護予防事業関連担当課より,1)3人以上の住民が月に1回以上集まって活動,2)高齢者の参加が多い,または高齢者を含む多世代の住民が参加,3)活動の運営に住民が参加の3条件を満たす175の自主グループの推薦を受け,うち165グループの代表者等よりアンケートの回答を得た。グループの類型化は,活動目的と活動内容により潜在クラス分析を用いて行った。参加者の多様性は,年齢,性別,健康状態等,住民の主体性は,グループの運営や活動実施の支援を行う住民の人数と,活動において住民が果たしている役割から評価した。

    結果 グループは,体操・運動を中心とした「体操・運動型」,活動目的や実施する活動内容が多い「多目的型」,参加者との交流を目的とし,体操・運動は行わない「交流重視型」,参加者との交流を目的としない「非交流型」の4類型に分かれた。多目的型は,体操・運動型や交流重視型に比べ,幅広い年齢層の参加があり,「移動に介助が必要」「認知症」「虚弱・病弱」など健康に問題を抱える人も参加する傾向があった。また,運営・支援者数も多く,住民が担う役割も多様であった。

    結論 参加者の多様性,住民の主体性とも多目的型が最も高かった。しかしながら,通いの場の類型は固定的なものではなく,住民のニーズや状況に応じて新たな活動を追加するなどの柔軟な変化を支援する体制も必要と考えられる。

  • 永井 亜貴子, 李 怡然, 藤澤 空見子, 武藤 香織
    2022 年 69 巻 7 号 p. 554-567
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/07/13
    [早期公開] 公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    目的 厚生労働省は,都道府県と保健所設置市への事務連絡で,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)を含む感染症法上の一類感染症以外の感染症に関わる情報公表について,「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針」(以下,基本方針)を踏まえ,適切な情報公表に努めるよう求めているが,自治体が公表した情報を発端として生じた感染者へのスティグマへの懸念が指摘されている。本研究では,都道府県・保健所設置市・特別区におけるCOVID-19の感染者に関する情報公表の実態を明らかにする。

    方法 47都道府県,保健所設置市(87市),特別区(23区)の公式ウェブサイトで公表されているCOVID-19の感染者に関する情報を収集した。2020年2月27日以前,基本方針に関する事務連絡後(3月1~31日),緊急事態宣言期間中(4月8~30日),8月の各時期で最も早い日にちに公表された情報を分析対象とし,基本方針で公表・非公表とされている情報の有無や,公表内容に感染者の特定につながる可能性がある情報が含まれていないかを確認した。

    結果 個別の感染者に関して情報公表を行っていたのは,都道府県では全自治体,保健所設置市等では84自治体であった。自治体が公表していた感染者に関する情報は,自治体間で項目や内容にばらつきが見られ,公表時期によっても異なっていた。基本方針で非公表と示されている感染者の国籍,居住市区町村,職業を公表している自治体があり,居住市区町村と職業は,感染拡大初期の1~3月に比べて,4月以降で公表する自治体が増加していた。一部では,感染者の勤務先名称や,感染者の家族の続柄・年代・居住市区町村などの情報が公表されていた。

    結論 自治体が行ったCOVID-19感染者に関する情報公表を調査した結果,自治体間や公表時期によって情報公表に用いられる様式や公表内容に違いがみられ,一部に感染者の個人特定につながりうる情報が含まれている事例があることが明らかとなった。COVID-19の疾患の特徴や感染経路などが明らかになってきた現状において,感染者の個人情報やプライバシーを保護しつつ,感染症のまん延防止に資する情報公表のあり方について,再検討が必要と考えられる。さらに,再検討を経て決定した情報公表の方法や内容について市民や報道機関に丁寧に説明し,理解を得る必要があると考えられる。

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