日本公衆衛生雑誌
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69 巻, 9 号
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特別論文
  • 野村 恭子, 松島 みどり, 佐々木 那津, 川上 憲人, 前田 正治, 伊藤 弘人, 大平 哲也, 堤 明純
    2022 年 69 巻 9 号 p. 647-654
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/09/10
    [早期公開] 公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

     本稿では第80回日本公衆衛生学会総会において,「ウィズコロナ社会のメンタルヘルスの課題と対策」をテーマとしたシンポジウムに登壇した,大学生,妊産婦,一般労働者,医療従事者を対象にコロナ禍のメンタルヘルス対策の実践および研究を行っている公衆衛生専門家により,それぞれの分野における知見・課題・対策を報告する。コロナ禍におけるメンタルヘルスへの影響を各世代,各フィールドへの広がりを概観するとともに,ウィズコロナ時代でどのような対策が求められているのか,問題点を抽出,整理し,公衆衛生学的な対策につなげていくための基礎資料としたい。

原著
  • 黒谷 佳代, 大河原 一憲
    2022 年 69 巻 9 号 p. 655-664
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/09/10
    [早期公開] 公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    目的 COVID-19が流行し,子どもの社会的包摂に向けた共助のしくみとして注目される子ども食堂の活動にも大きな影響があった。しかし,国内でCOVID-19流行下における子ども食堂を含む食支援利用実態について調査した研究は見当たらない。本研究ではCOVID-19流行下における食支援利用者の実態を把握し,社会経済的状況の変化との関連を検討することを目的とした。

    方法 2021年2月にインターネット調査に協力した全国の20歳以上の成人33,004人(男性16,065人,女性16,939人)を解析対象とした。COVID-19流行下(2020年3月~2021年2月)に,安価もしくは無料で,その場で食事をする(子ども食堂等),特定の場所で食品の提供を受ける(フードパントリー等),食品を自宅に配送してもらう(子ども宅食等),いずれかの食支援を利用した者を食支援利用者,それ以外を未利用者と分類して分析した。また,COVID-19流行直前(2019年末~2020年2月)とCOVID-19流行下の雇用形態および世帯月収から,COVID-19流行下の社会経済的状況の変化を評価した。食支援利用状況と社会経済的状況の変化との関連は多重ロジスティック回帰分析により調整オッズ比および95%信頼区間を算出した。

    結果 COVID-19流行下における食支援利用者は3,071人(9.3%),子ども食堂等利用者は1,549人(4.7%),フードパントリー等利用者は1,296人(3.9%),子ども宅食等利用者は2,236人(6.8%)であった(重複回答有)。COVID-19流行下の雇用形態不変の者に対する,変化した者における食支援利用の調整オッズ比は1.47(95%信頼区間1.28-1.70)であった。COVID-19流行下の世帯収入が不変の者に対する,減少した者,増加した者の食支援利用の調整オッズ比(95%信頼区間)は,それぞれ1.89(1.65-2.15),1.67(1.37-2.03)であった。COVID-19流行下の雇用形態も世帯収入も不変の者に比べ,いずれかが変化した者では食支援利用の調整オッズ比が統計学的有意に高かった。

    結論 COVID-19流行下における食支援は約10人に1人が利用していた。食支援利用者は,COVID-19流行下に雇用形態や世帯収入に変化のあった人が多いことが示唆された。

  • 横山 友里, 吉﨑 貴大, 小手森 綾香, 野藤 悠, 清野 諭, 西 真理子, 天野 秀紀, 成田 美紀, 阿部 巧, 新開 省二, 北村 ...
    2022 年 69 巻 9 号 p. 665-675
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/09/10
    [早期公開] 公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的 食品摂取の多様性得点(DVS)は,日本人高齢者の食品摂取の多様性を評価する指標として,疫学研究や公衆衛生の現場において幅広く活用されている。一方,本指標は1990年代の開発以降,見直しが行われておらず,現在の日本人高齢者の食生活の実態を必ずしも十分に反映できていない可能性がある。本研究では,構成食品群の改訂による改訂版DVS(MDVS)の試作および妥当性の評価を行うことを目的とした。

    方法 鳩山コホート研究の2016年調査に参加した357人(年齢:76.2±4.6歳,男性:61.1%)を対象とした。DVSおよびMDVSは,各食品群の1週間の食品摂取頻度をもとに,ほぼ毎日食べる食品群の数を評価した。DVSの構成食品群は肉類,魚介類,卵類,牛乳,大豆製品,緑黄色野菜類,果物,海藻類,いも類,油脂類とし,MDVSの構成食品群は平成29年国民健康・栄養調査における65歳以上の食品群別摂取量のデータをもとに,主菜・副菜・汁物を構成する食品群の摂取重量および各栄養素の摂取量に対する各食品群の寄与率をもとに,その他の野菜,乳製品を追加することとした。栄養素等摂取量は,簡易型自記式食事歴法質問票を用いて調べた。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で推定平均必要量が定められている14の栄養素について,必要量を満たす確率およびそれらの平均を算出した。DVS,MDVSと各指標との相関分析および相関係数の差の検定を行った。

    結果 MDVSとたんぱく質エネルギー比率,脂質エネルギー比率,食物繊維,カリウム摂取量,改良版食事バランスガイド遵守得点との有意な正の関連がみられ(偏相関係数の範囲(r)=0.21-0.45),炭水化物エネルギー比率との有意な負の関連がみられた(r=−0.32)。また,MDVSと14の栄養素の必要量を満たす確率の平均との有意な正の関連がみられた(r=0.41)。これらの関連の程度はDVSとMDVSで同程度であり,相関係数の差は有意ではなかった。

    結論 栄養素摂取量や食事の質との関連からみた妥当性はDVSとMDVSで同程度であった。DVSの改訂にあたっては全国の大規模集団を対象に精度の高い食事調査を用いたさらなる研究が必要である。

公衆衛生活動報告
  • 福島 康子, 加澤 佳奈, 松井 香菜子, 後藤 瑞枝, 西村 育子, 藤原 麻衣子, 玖田 ふみ, 森山 美知子
    2022 年 69 巻 9 号 p. 676-683
    発行日: 2022/09/15
    公開日: 2022/09/10
    [早期公開] 公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    目的 新型コロナウイルス感染症のパンデミック下で高齢者は自粛生活を強いられ,疾病の重症化やフレイルの進行が懸念されている。この度,広島県三次市と疾病管理事業を展開している企業とが共同し,生活習慣に関連した慢性疾患を有し,重症化リスクのある高齢者に対して遠隔看護による「在宅療養生活支援プログラム」を実施した。本事業の実施および成果を報告する。

    方法 国民健康保険レセプトデータから広島県三次市に在住する65歳以上の慢性疾患を有する者を抽出し,参加に同意した50人を対象に看護師・保健師が電話による在宅療養生活支援を行った。アセスメントの内容は,受療に関する情報,不安の程度および内容,フレイル基本チェックリスト,生活リズムと睡眠,嗜好品や食事の摂取状況,運動や外出,受診状況,基礎疾患の症状の変化,感染予防行動などであった。これらについて,コロナ禍の生活における変化をたずね,支援フローに基づく個別支援を実施した。1か月後に同じアセスメントを行い,初回からの変化を評価した。在宅療養生活支援プログラムの実施期間は2021年1月から3月であった。

    活動内容 上記を実施した結果,50人の内訳は,65歳-69歳が13人,70歳-74歳が37人であった。2回目の対応も可能であったのは45人(事業完了率90%)であった。初回アセスメントの結果,さまざまな不安,食事量・間食の増加,外出頻度,運動量・活動量の減少が報告された。支援が必要な項目をもつ者は47人であった。事業終了時には,支援を要する項目を持つ者の減少および,不安の程度の改善(P=0.002)が認められた。

    結論 今回,自治体の支援を得てプロジェクトを立ち上げ,リスクのある高齢者の健康状態を継続的に支援した。被保険者を対象とした自治体の事業として,コロナ禍における生活状況の悪化予防,不安の低減,受診抑制の解消と重症化予防を目的に行った遠隔看護であり,電話を用いて個別に必要な支援を提供できたこと,不安の緩和を試みたことは,有意義であったと考える。開始時期が遅れ,当初予定していた「緊急事態宣言」が発出されたコロナ拡大初期の緊張した時期に,長期にわたって(6か月間)は実施できなかったが,今後は,緊急事態等が生じた時期にタイムリーに実施できるよう備えておくことが必要である。

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