日本公衆衛生雑誌
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70 巻, 1 号
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原著
  • 坂口 景子, 武見 ゆかり, 林 芙美, 赤松 利恵
    2023 年 70 巻 1 号 p. 3-15
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/18
    [早期公開] 公開日: 2022/09/02
    ジャーナル フリー

    目的 健康日本21(第二次)の中間評価では,食環境整備と個人の食習慣改善とが必ずしもつながっていない状況が示唆された。そこで,健康日本21(第二次)の目標である2つの食行動(主食・主菜・副菜が揃う頻度と野菜摂取)に関連する食環境の認知およびヘルスリテラシーを検討した。

    方法 2019年3月に調査会社登録モニターの20~64歳を対象にWeb調査を実施した。食環境の認知,ヘルスリテラシー,食行動,社会経済的状況,属性を尋ね,モニター9,667人中2,851人(回収率29.5%)の回答を得た。食環境の認知は6項目(栄養バランスのとれた食事が入手しやすい,日常の買い物に不便がない,栄養バランスのとれた食事が適正な価格で入手できる,営業時間やサービスが利用しやすい,食材料の質に満足している,食の安全面に恵まれている),ヘルスリテラシーは5項目(情報取集,情報選択,情報伝達,情報判断,自己決定)とした。解析対象は社会経済的状況の不明者等を除外し2,111人(男性1,134人,女性977人)とした。2つの食行動を各々従属変数,食環境の認知,ヘルスリテラシーを独立変数,属性,社会経済的状況を調整変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。

    結果 「主食・主菜・副菜が揃う頻度1日2回以上が毎日」に対し,食環境の認知:食の安全面に恵まれている者(男性)と栄養バランスのとれた食事が適切価格で入手できる者(女性)は,そうでない者に比べ調整オッズ比[95%信頼区間]が1.54[1.19,1.98](男性),1.37[1.02,1.82](女性)であった。ヘルスリテラシー:情報収集得点(男性)は負の,自己決定得点(男性,女性)は正の関連をみとめた。「野菜摂取皿数が1日3皿以上」に対し,食環境の認知:栄養バランスのとれた食事が入手しやすい者(男性)と日常の買い物に不便がない者(女性)は,そうでない者に比べ調整オッズ比[95%信頼区間]が1.54[1.15,2.06](男性),1.55[1.12,2.15](女性)であった。ヘルスリテラシー:情報伝達得点(男性),自己決定得点(女性)は正の関連をみとめた。

    結論 主食・主菜・副菜が揃う頻度と野菜摂取の改善には,情報収集段階に留まらず自己決定など,より高いレベルのヘルスリテラシーの獲得と食環境整備の充実を両輪で推進する必要性が示唆された。

  • 栗田 淳弘, 中村 好一
    2023 年 70 巻 1 号 p. 16-26
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/18
    [早期公開] 公開日: 2022/09/02
    ジャーナル フリー

    目的 高齢者の健診結果と死亡・要介護発生との関連を明らかにする。

    方法 栃木県の後期高齢者医療被保険者のうち,2020年度に健診を受診し,要支援・要介護認定を受けていない75歳以上の男女53,651人(男24,909人,女28,742人)を対象とし,健診受診日から2021年8月末までの死亡,自立喪失(死亡又は要介護2以上)の発生について観察した。健診結果について特定健診の受診勧奨判定値等を基準に2群に分け,カプラン・マイヤー法による1年生存率および1年自立率の算出,コックスの比例ハザードモデルによる死亡ハザード比および自立喪失ハザード比の推定を行った。

    結果 観察期間中の死亡は424人(男281人,女143人),自立喪失は1,011人(男529人,女482人)であった。1年生存率および1年自立率は血清アルブミン低値が0.920~0.958で男女ともに最も低かった。コックスの比例ハザードモデルで年齢階層・BMI階層・後期高齢者質問票の回答を調整変数として解析した結果,男では血色素低値の死亡ハザード比が3.05[2.00-4.64],自立喪失ハザード比が2.58[1.87-3.56]で最も高く,女では血清アルブミン低値の死亡ハザード比が5.87[2.45-14.07],自立喪失ハザード比が3.00[1.70-5.29]でとくに高かった。高齢者健診の受診者の自立喪失等について分析した先行研究では,後期高齢者における低アルブミン血症の死亡ハザード比は2.7[1.2-6.0],貧血の死亡ハザード比は1.8[1.1-2.9]であり,本研究の結果は先行研究よりも高い傾向であった。血清アルブミン低値と脳卒中との関連を示す先行研究および血色素低値と死亡との関連を示す先行研究等があり,栃木県は脳血管疾患や心疾患の年齢調整死亡率が高いことから,これらの疾病のリスク因子を有する者に低栄養が加わることで,先行研究と比較して血清アルブミン低値や血色素低値のハザード比がとくに高い結果となった可能性が考えられる。

    結論 本研究により,栃木県において高齢者の低栄養は死亡・要介護発生との関連が高いこと,および地域によって高齢者の死亡リスクおよび自立喪失リスクの傾向が異なることが明らかになった。

資料
  • 佐々木 晶世, 叶谷 由佳, 柏﨑 郁子, 榎倉 朋美
    2023 年 70 巻 1 号 p. 27-38
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/18
    [早期公開] 公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    目的 要介護者の介護を含む多重介護を担う家族介護者の現状と課題を明らかにすること。

    方法 6都府県の居宅介護支援事業所3,123件の介護支援専門員を対象とし,無記名自記式質問紙を送付し,497件から返送,490件を有効回答とした。

    結果 83.1%の介護支援専門員が多重介護を支援していた。多重介護事例の被介護者数は「2人」215件(53.3%)が最も多かった。多重介護の課題解決に主介護者の生活も守る視点・介護者ケアが必要と回答する者が多かった。被介護者の最大事例は6人だった。対象者が担当した被介護数の多い事例の主介護者は50代,女性,既婚が最も多く,通院者が36.9%いた。被介護者は80代が多く,被介護者数が多くなるにつれ,18歳以下の子育てや世話も含まれた。回答者が印象に残った多重主介護者の困難・問題は『介護に対する認識による影響』『主介護者の生活が守られない状況』『今後の人生設計の見通しの立たなさ』『サポートネットワークからの孤立』『制度のアクセシビリティとユーサビリティの課題』だった。

    結論 従来の被介護者ベースの支援だけでなく,多重介護を担う家族介護者の視点での支援体制を検討する必要性が示唆された。

  • 谷 直道, 竹内 研時, 福田 治久
    2023 年 70 巻 1 号 p. 39-47
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/18
    [早期公開] 公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    目的 近年,糖尿病と歯周病には双方向の関連性があることが多数報告されている。しかしながら,歯周ポケットの深さと糖尿病の新規発症に関する縦断的な関連性についてはさらなる議論の余地がある。従って,本研究は地域住民における成人歯科健診データを用いて,歯周ポケットの深さと糖尿病の新規発症の関連性を検証することを目的とした。

    方法 本研究は,東京都某区で2016年4月から2019年3月までに成人歯科健診を受診した20歳以上の成人5,163人(57.4±13.9歳,女性66.3%)を対象として,歯科健診の歯周ポケットコードを用いて歯周ポケット健全群,4~5 mm群,6 mm以上群の3群に分類し2020年3月末日まで追跡を行った。さらに同区の国民健康保険および後期高齢者医療保険の医科レセプトデータ傷病名から,疑い病名を除く糖尿病のICD10コードを抽出し,歯科健診の受診日以降に発症した者を糖尿病ありと定義してアウトカムに用いた。糖尿病発症率の比較にはログランク検定及びCox比例ハザード回帰分析を用いた生存時間分析と感度分析を行った。

    結果 ログランク検定の結果,3群間の糖尿病累積発症率は有意に異なっていた(P<0.01)。また,性別,年齢,喫煙習慣,現在歯数,口腔清掃状態を調整したCox比例ハザード回帰分析の結果,歯周ポケット健全群に対する6 mm以上群の調整ハザード比(95%信頼区間)は1.44(1.04-2.00)倍の有意な関連性が認められた。さらに40歳以上を対象とした感度分析の調整ハザード比(95%信頼区間)は歯周ポケット健全群に対して6 mm以上群が1.55(1.11-2.16)倍,40歳以上の男性では1.72(1.04-2.85)倍の有意な関連性を認めた。しかし,40歳以上の女性には有意な関連性は認められなかった(1.39[0.89-2.18])。

    結論 本研究の結果,地域住民において歯周ポケットの深さと糖尿病の発症に関する縦断的な関連性が示唆された。特に,40歳以上の男性においてその関連性が顕著であったことから,40歳未満の若年層とりわけ若い男性に対して適切な歯科保健指導を実践し口腔状態を良好に保つことは口腔衛生の観点のみならず,将来的な糖尿病予防の観点からも重要であると考えられる。

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