日本公衆衛生雑誌
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70 巻, 4 号
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特別論文
  • 吉益 光一, 井上 眞人, 原田 小夜, 藤枝 恵, 池田 和功, 小島 光洋, 山田 全啓
    2023 年 70 巻 4 号 p. 225-234
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/25
    [早期公開] 公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    目的 「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」(以下,「にも包括」)について現状の課題を明らかにし,改善策を探ること。

    方法 2019年から2022年までの間に日本公衆衛生学会モニタリング・レポート委員会精神保健福祉分野の活動として,「にも包括」の構築に関する情報を収集して報告書を作成した。これら一連の報告書と厚生労働省が2021年3月に公表した検討委員会のレポートを基にして,適宜必要な情報を追加した。

    結果 厚生労働省が公表した検討委員会の報告書には「にも包括」についての基本的な考え方と具体的な構成要素について,詳細に記述されている。精神障害者の地域定着に関して,とくにメンタルヘルス・ファーストエイドを基軸とする基本的姿勢は,長年の懸念であった精神障害者への差別や偏見を抜本的に解決できる可能性がある。しかしながら,2020年から続くCOVID-19パンデミックの影響を受けて,精神医療の提供体制や住まい,社会参加,人材育成など,「にも包括」の様々な構成要素が,その出だしから大きな制約を受けている。

    考察と結論 「にも包括」は長期在院精神障害者の地域社会への復帰と定着を主目標としている。これを達成するためには,従来の国が主体となるトップダウン方式から,現場が主体となるボトムアップの視点が不可欠になる。また,長引くCOVID-19パンデミックが精神障害者の生活様式の変化と,それに伴う精神状態に及ぼす影響について注意深く見守る必要がある。

原著
  • 小林 周平, 陳 昱儒, 井手 一茂, 花里 真道, 辻 大士, 近藤 克則
    2023 年 70 巻 4 号 p. 235-242
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/25
    [早期公開] 公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

    目的 高齢者の歩行量を維持・増加させることには多くの健康上望ましい効果が期待できる。しかし,健康日本21(第二次)中間評価では,高齢者の歩数が目標値まで達成できなかったことが報告されている。そのため,従来とは異なるアプローチに建造環境(街路ネットワーク,施設や居住密度,土地利用など人工的に造られる環境)を通じた身体活動量や歩数の維持・増加をもたらすゼロ次予防が注目されている。本研究では,建造環境の1つである生鮮食料品店の変化と歩行時間の変化との関連を明らかにすることを目的とした。

    方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が27市町の要介護認定を受けていない65歳以上を対象に実施した自記式郵送調査データを用いた2016・2019年度の2時点での縦断パネル研究である。目的変数は,歩行時間の2時点の変化(増加あり・なし)とし,説明変数は追跡前後の徒歩圏内にある生鮮食料品(肉,魚,野菜,果物など)が手に入る生鮮食料品店の有無の2時点の変化を5群にカテゴリー化(なし・なし:参照群,なしとわからない・あり,あり・あり,あり・なしとわからない,その他)したものである。調整変数は2016年度の人口統計学的要因,健康行動要因,環境要因,健康要因の計14変数とした。統計分析は,ロバスト標準誤差を用いたポアソン回帰分析(有意水準5%)で歩行時間の増加なしに対する歩行時間の増加ありとなる累積発生率比(cumulative incidence rate ratio:CIRR)と95%信頼区間(confidence interval:CI)を算出した。分析に使用する全数のうち,無回答者などを欠測として多重代入法で補完した。

    結果 歩行時間の増加ありが13,400人(20.4%)だった。追跡前後で徒歩圏内の生鮮食料品店の有無の変化が「なし・なし」(6,577人,10.0%)と比較した場合,「なしとわからない・あり」(5,311人,8.1%)のCIRRは1.12(95%CI:1.03-1.21)だった。

    結論 徒歩圏内の生鮮食料品店が増加していた者で,高齢者の歩行時間が増加した者の発生が12%多かった。暮らしているだけで歩行量が増える建造環境の社会実装を目指す手がかりを得られたと考える。

  • 追立 のり子, 北澤 克彦, 小川 知子, 佐藤 眞一
    2023 年 70 巻 4 号 p. 243-251
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/25
    [早期公開] 公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

    目的 2015年に千葉県で発生した生後10か月の日本脳炎患者事例を受け,千葉県小児科医会と千葉県医師会は,生後6か月での日本脳炎ワクチンの接種を推奨した。本研究では,患者発生地域における早期接種と標準的接種の児について調査し,早期接種推奨前後での接種開始時期の変化および感染防御免疫の獲得とその維持について検討した。

    方法 2015年の患児を診療した第二種感染症指定医療機関の協力を得て,2018年10月から2020年3月までの間に同病院を受診した児のワクチン接種歴と接種時期を調査し,検体として血清を採取した。ワクチン接種時期の調査は,本研究で得られたデータと厚生労働省地域保健・健康増進事業報告を参照し比較した。血清中の中和抗体価はフォーカス計測法により測定し,ワクチン接種回数,接種量,接種後経過日数について検討した。

    結果 ワクチン接種群89例,未接種群65例,合計154例の検体を得た。初回接種年齢の割合は,2015年度までは全国,千葉県,研究対象者で差はなかったが,2016年度以降,研究対象者,千葉県,全国の順に早期接種児の割合が高かった。ワクチン接種回数別の抗体保有率は,未接種9.2%,1回接種87.5%,2回接種95.1%,3回接種100%だった。2回接種群において,ワクチン量が半量だった児の抗体価が通常量接種児の抗体価よりも有意に低かった。

    結論 本研究の対象地区では,早期接種推奨前と比較して3歳未満の接種児が有意に多かったことが明らかとなり,早期接種推奨の効果が示唆された。そして,早期接種でも標準接種と同等の抗体価を得られることを確認できた。また,ワクチン未接種児の抗体陽性率が高かったことから,日本脳炎罹患リスクの高い地域では,早期接種のさらなる推進が重要と考えられた。本研究では,早期接種後の長期経過による抗体価の減衰は認めなかったが,対象地域が流行地域であることから,早期接種修了児に病原体暴露によるブースターが起こり,抗体価を維持できた可能性が残る。

  • 児玉 悠希, 芳賀 邦子, 時田 礼子, 大山 一志, 岸田 るみ, 金子 仁子
    2023 年 70 巻 4 号 p. 252-260
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/25
    [早期公開] 公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

    目的 本研究ではヘルスリテラシー評価尺度であるHLS-Q12を高齢者に対し使用した場合の内的一貫性と因子妥当性評価を行うことを研究の目的とした。

    方法 2022年1~2月をデータ収集期間とし,地域で生活を営む高齢者を対象に質問紙を用いた郵送調査を行った。日本語版HLS-Q12によって高齢者のヘルスリテラシーに関するデータを取得し,尺度の内的一貫性と因子妥当性を評価した。分析方法としては,Cronbachの α 係数によって内的一貫性を評価し,確証的因子分析によって因子妥当性の評価を行った。また,ラッシュモデルを用いて各質問項目の詳細な分析を行った。

    結果 3,572人に対し質問紙を配布し,1,082人の高齢者より質問紙の返送があった。そのうちHLS-Q12の質問項目に欠損があった者を除外し,984人のデータで分析を行った。Cronbachの α 係数では0.8以上を示し内的一貫性に問題はなかった。確証的因子分析では,CFI=0.933,AGFI=0.876,RMSEA=0.092であり,いずれの指標も一定の評価水準を満たしていた。しかし,RMSEAの値に関しては複数ある適合基準の一つからの逸脱が確認され,尺度によって算出される推定値と真値との誤差が比較的大きいことが示唆された。また,ラッシュモデルによる各質問項目の分析では,すべての質問項目でInfit MSQの基準を満たしており,概ね適合のよい質問構成となっていた。

    結論 高齢者を対象としたHLS-Q12の尺度評価として,一定の水準で信頼性と妥当性が認められる尺度であることが確認された。しかし,RMSEAの値が大きく,尺度によって算出される推定値と真値との誤差においては比較的大きいことが示唆された。

資料
  • 野末 みほ, 石田 裕美, 由田 克士, 原 光彦, 阿部 彩, 緒方 裕光, 岡部 哲子, 吉岡 有紀子, 高橋 孝子, 坂本 達昭, 佐 ...
    2023 年 70 巻 4 号 p. 261-274
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/25
    [早期公開] 公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は保育所等を対象に,栄養士・管理栄養士の雇用の有無別による栄養管理の実態を把握することを目的とした。

    方法 2019年に国内8市の1,538の保育所等を対象に質問紙を郵送し,回答が得られた979施設のうち950施設を解析対象とした。栄養管理については食事提供のPDCAサイクル12項目,保護者への栄養・食生活に関する情報提供8項目を尋ねた。栄養士・管理栄養士の雇用の有無別とPDCAサイクルおよび情報提供との関連をカイ二乗検定で検討した。次に,栄養士・管理栄養士の雇用の有無を独立変数とし,PDCAサイクルと情報提供の各項目を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。

    結果 PDCAサイクルの実施状況について公立と私立ともに栄養士・管理栄養士の雇用あり群となし群の間に有意差が認められた項目は,身体活動レベルの把握,生活習慣の把握,成長曲線の作成であった。私立における管理栄養士の雇用あり群は,対象市と施設分類を調整後,肥満ややせの判定のオッズ比は3.07(95%CI: 1.72-5.46),給与栄養目標量の設定のオッズ比は4.10(95%CI: 1.48-11.38),給与栄養量の計算のオッズ比は3.51(95%CI: 2.03-6.08),成長曲線の作成のオッズ比は2.73(95%CI: 1.60-4.64),給与栄養目標量の設定の見直しのオッズ比は2.45(95%CI: 1.21-4.95)と栄養士・管理栄養士の雇用なし群に比べてオッズ比は有意に高くなるという関連が示された。情報提供について公立と私立ともに栄養士・管理栄養士の雇用あり群となし群の間に有意差が認められた項目は献立の栄養量の情報提供と給食の試食会の実施であった。私立における管理栄養士の雇用あり群は,対象市と施設分類を調整後,献立の栄養量の情報提供ありのオッズ比は2.09(95%CI: 1.30-3.35),栄養・食生活に関する情報提供ありのオッズ比は1.89(95%CI: 1.07-3.34),給食の試食会の実施ありのオッズ比は2.90(95%CI: 1.81-4.67)と栄養士・管理栄養士の雇用なし群に比べてオッズ比が有意に高かった。

    結論 栄養士または管理栄養士の雇用あり群は栄養士・管理栄養士の雇用なし群に比べて栄養管理が良好であり,このことは公立よりも私立において明らかであった。

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