目的 都市部における妊娠中の夫婦への支援について示唆を得るため,妊娠への適応の観点からみた夫婦関係と,妊婦の産科履歴,および身体的・心理社会的要因,特性との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 関西地域の4指定都市で開催されたA公益財団法人主催の産前教室に参加した妊婦に対し,特性,産科履歴,身体的・心理社会的要因,日本語版Prenatal Self-Evaluation Questionnaire[夫との関係](J-PSEQ)を問う無記名自記式質問紙調査を実施した。778人に調査を依頼し,413人(53.1%)から回答を得た。除外基準を適用し,388人(有効回答率93.9%)を分析対象として,J-PSEQ得点による夫婦関係の不良群と普通・良好群の2群化を行い,ロジスティック回帰分析により,妊娠への適応の観点からみた夫婦関係に関連する要因を検討した。
結果 J-PSEQ得点による2群は,不良群93人(24.0%),普通・良好群295人(76.0%)であった。ロジスティック回帰分析の結果,不良な夫婦関係に対するオッズ比(信頼区間)は,「不妊治療による妊娠」2.54(1.38–4.66),「怒りやすく,イライラする」3.55(1.86–6.78),「夫の健康状態:やや悪い」3.54(1.06–11.87)であった。経済面,夫の労働状況,サポート不足を最もストレスに感じる要因と記述したのは,夫婦関係が不良な妊婦に多かった。普通または良好な夫婦関係に関連する要因は,妊婦に身体的不快症状があること,里帰り出産をしないこと,夫の産後休暇取得,夫の良好な健康状態であった。
結論 都市部における妊娠への適応の観点からみた不良な夫婦関係に関連する要因は,不妊治療による妊娠,妊婦の怒りや苛立ち,夫の健康不良であることが示された。専門職者は妊娠期にこれらの夫婦への支援を焦点にする必要がある。
目的 塩味味覚閾値の高値は高血圧との関連が指摘されているが,その規定要因は明らかではない。都市部地域住民集団で塩味味覚閾値の規定要因を明らかにするとともに,複数の規定要因が同時に存在した場合の塩味味覚閾値との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 がんや循環器疾患の既往歴がなく,高血圧,糖尿病,脂質異常症の治療中ではない40~74歳の健康な都市部住民を対象としたコホート研究である神戸研究のベースライン調査参加者1,117人のうち,塩味味覚閾値検査を実施し,尿検査から推定一日食塩摂取量の結果が把握できる1,116人を対象者とした。塩味味覚閾値調査はソルセイブ®を用いて塩味味覚閾値0.6%を正常群,0.8%以上を高値群と定義した。塩味味覚閾値高値を目的変数,問診票から得られた生活状況,家族状況,教育歴,喫煙状況,飲酒状況,塩干物摂取状況,ストレス指標,推定一日食塩摂取量を説明変数として,二項ロジスティック回帰モデルにて検討した。さらに,説明変数を塩味味覚閾値に影響を与える要因,目的変数を塩味味覚閾値(正常/高値)として強制投入法を用いた多変量解析にて二項ロジスティック回帰分析を実施した。この分析では,推定一日食塩摂取量との多重共線性を考慮して,尿中ナトカリ比を除いて実施した。
結果 平均年齢は男性60.9±9.0歳,女性58.0±8.7歳であった。塩味味覚閾値の正常群は80.9%(903人)(男性73.6%(251人),女性84.1%(652人)),高値群は19.1%(213人)(男性26.3%(90人),女性15.9%(123人))であった。多変量解析の結果,全対象者において現在喫煙習慣がある群は喫煙習慣が無い群と比較し,塩味味覚閾値高値となるオッズ比(95%信頼区間)が2.51(1.33–4.74)と有意な関連が認められた。また,推定一日食塩摂取量上位25%群では下位75%群と比較してオッズ比(95%信頼区間)が1.45(1.03–2.03)と塩味味覚閾値高値との有意な関連を認めた。男女別の解析では,男女ともに現在喫煙習慣と塩味味覚閾値高値との関連を認め,推定一日食塩摂取量は男性のみ関連を認めた。
結論 健康な都市住民において,喫煙習慣と推定一日食塩摂取量の多さが塩味味覚閾値高値と関連していた。
目的 介護保険法改正により基準緩和型サービスが創設され,地域住民が担い手として介護サービスに参加できるようになったが,その具体的な方法は示されていない。我々は通所型サービス事業所(以下,事業所)に教育機能を付加し,地域住民をサブスタッフ(介護予防の一定の知識・技術と守秘義務を持ち,職員の支援のもと自立に向けたケアを有償で提供する補助スタッフ)として養成する「サブスタッフ養成講座(以下,養成講座)」を開発した。本報告では,養成講座を自治体の介護予防事業等で実施するために,実践例の紹介と調査を通して,実現可能性と実施上の留意点を検討した。
方法 養成講座は4か月間のプログラムで,介護予防等の知識の教授を目的とした講義(1時間/回,全16回)と,サービス利用者のケアプランの目標や内容を把握し職員の支援のもと介護サービスを提供する実習(半日/回,全13回)で構成した。修了後の目標は事業所での活動や地域での介護予防活動とした。2015~2017年度に東京都A市,B市,千葉県C市の14事業所にて養成講座を実施した。評価は,修了率,養成講座参加前後の活動の自信・介護予防の理解度の変化と修了後の地域活動状況,サービス利用者が受講生から介護サービス提供を受けることによる精神的影響,事業所職員の仕事量軽減の認識について,受講生,サービス利用者へのアンケート,事業所職員へのインタビューにより行った。
活動内容 養成講座修了者は104人中96人(修了率92.3%)であった。受講生へのアンケートの結果,参加前後で事業所での活動の自信や介護予防の理解度が有意に向上し,65.3%が修了後に事業所での活動を含む新しい地域活動の実施に至った。サービス利用者へのアンケートの結果,受講生から介護サービス提供を受けた利用者は受けていない利用者と比べ負の精神的な影響が多くなかった。養成講座を実施した事業所の85.7%が地域住民のサービス参加により仕事量が軽減されたと回答した。
結論 養成講座は受講生の活動の自信・介護予防の理解度を向上させ,半数以上が新しい地域活動への実施に至っていた。受講生の介護サービスへの参加は利用者への負の影響が少なく,事業所にとっても仕事量軽減につながることが示唆された。これらのことから,養成講座の介護予防事業等での実現可能性は高いと考えられた。
目的 2016年に発生した障害者支援施設の事件をきっかけに精神科措置入院制度のあり方について検討がなされることになった。本研究では保健所職員による措置入院者への退院後支援の実態を明らかにすることを目的とした。
方法 精神保健福祉業務担当の保健所職員を対象とし,全国472保健所に対し郵送による自記式無記名質問紙調査を行った。調査内容は基本属性と文献を基に作成した措置入院者への退院後支援の実施程度3分類(本人支援,家族機能維持,関係者調整)41項目とした。実施程度の回答は「全くできてない」(1点)~「とてもできている」(4点)の4段階とし,得点が高いほど退院後の支援が実施できていることを意味した。基本統計量を算出後,措置入院者への退院後支援実施程度の3分類ごとに,基本属性による比較をMann-Whitney U検定,Kruskal-Wallis検定を用いて行い,有意水準は5%とした。
結果 回収数は609(回収率25.8%)で,そのうち関わったケース数を0と回答した対象者を解析対象から除外し,実施程度41項目を50%以上回答している582票を分析対象とした。対象の平均年齢は40.5±11.3歳,性別は男性18.2%,女性81.4%であった。本人支援に関して,精神保健福祉業務経験年数,精神保健福祉業務へのやりがい,学会,研修会の参加の有無に関して有意差が認められた。家族機能維持に関して,職位,資格の有無,所属保健所の設置主体,精神保健福祉業務へのやりがい,学会,研修会参加の有無に関して有意差が認められた。そして,関係者調整に関して,職位,資格の有無,所属保健所の設置主体,精神保健福祉業務担当職員数に関して有意差が認められた。
結論 退院後支援実施程度3分類と各属性の関連については,支援の経験,やりがい,自己学習への意欲,支援体制が影響していると考えられた。保健所職員が措置入院者への退院後支援を行いやすくするためには,学会・研究会参加の時間を確保すること,関わり続けることへの意義を感じられるようにすること,支援の効果をフィードバックしてもらうこと,そして関係者会議で情報共有する必要性が示唆された。