日本公衆衛生雑誌
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71 巻, 12 号
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原著
  • 平田 浩二, 長尾 青空, 田渕 紗也香, 大倉 光帆子, 伊藤 美樹子
    2024 年 71 巻 12 号 p. 735-744
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/09
    [早期公開] 公開日: 2024/09/13
    ジャーナル フリー

    目的 本研究では,死亡率・罹患率ともに高い大腸がんに対して,対策型がん検診事業の実施主体である市町村のストラクチャーとプロセスを評価することを目的とした市町村単位の生態学的研究を行った。ストラクチャーとしては市町村の保健事業の対象となる人口構成の特徴とサービス提供の人的基盤となる保健師数に着目した。またプロセスは対策型がん検診受診率と新規がん発見指標によって評価した。

    方法 研究データは,政府統計の総合窓口(e-Stat)より市町村の人口,面積,国民健康保険加入者数を得た。また市町村保健師数は保健師活動領域調査から,市町村の大腸がん検診に関する情報は地域保健・健康増進事業報告から,新規がん発見指標は国立がん研究センターに利用許諾を得た全国がん登録情報より得た。1万人以上の1,234市町村を分析対象として保健所設置の有無,人口5万人以上かどうかで3群に分類し,内部構造を比較して検討した。

    結果 市町村保健師数(人口10万人あたり)は,5万人未満群(42.9)>5万人以上群(24.3)>保健所設置群(16.4)であった。集団検診と個別検診の実施割合は5万人未満群では96.2%,47.7%,保健所設置群69.1%,91.5%と対照的であった。対策型検診受診率の各群の平均は10.6~13.7%,対策型検診による精検受診率は68.4~75.3%で,いずれも5万人未満が高く,保健所設置群で低かった。ただし早期がん発見割合はいずれも42%台で有意差は認められなかった。

    対策型検診受診率と大腸がん発見指標を従属変数とした重回帰分析の結果,集団検診が中心の5万人未満群では,対策型検診受診率に対して市町村保健師数が有意に関連し,また検診受診率は検診での発見割合と正の関連が認められた。これに対して保健所設置群では対策型検診受診率と市町村保健師数とは関連がなかったが,対策型がん検診による精検受診率の高さは早期がん発見割合と有意な正の関連が認められた。

    結論 保健所非設置自治体では市町村保健師数は受診率と正の関連を示し,集団検診を軸とした検診受診率の向上ががん発見指標と関連していることを明らかにした。また個別検診が中心である保健所設置群では対策型検診による精密検査の受診率ががん発見指標と関連していることを明らかにした。

  • 岡本 玲子, 岸 恵美子, 松本 珠実, 臺 有桂, 村嶋 幸代, 麻原 きよみ, 佐伯 和子, 荒木田 美香子, 井口 理, 和泉 比佐子 ...
    2024 年 71 巻 12 号 p. 745-755
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/09
    [早期公開] 公開日: 2024/09/13
    ジャーナル フリー

    目的 本研究の目的は,変遷する社会の健康課題の解決・改善に資する日本の保健師のコアバリューとコアコンピテンシーを,実践者・教育研究者を含む保健師関連団体の合意形成に基づいて明確にすることであった。

    方法 原案は,保健師の実践・教育・研究各領域に携わる団体の役員と被推薦者20人による項目収集と分類,精錬を繰り返す5回の協議により作成された。専門家パネルは,保健師関連6団体より534人の推薦を得て,3ラウンドのデルファイ調査が行われた。合意基準は,70%以上を合意,80%以上を強固な合意とした。

    結果 第1ラウンドでは272人(50.9%)の回答を得,全ラウンド回答した者は217人であった。原案は,各ラウンドで得た意見をもとに修正され,第3ラウンドでは,すべてのコアバリューとコアコンピテンシーの項目と定義について,90%以上の合意を得た。

    結論 デルファイ調査により,非常に強固な合意水準のもと,コアバリューの3項目,【健康の社会的公正】,【人権と自律】,【健康と安全】,コアコンピテンシーの8項目,【プロフェッショナルとしての自律と責任】,【科学的探究と情報・科学技術の活用】,【ポピュレーションベースのアセスメントと分析】,【健康増進・予防活動の実践】,【公衆衛生を向上するシステムの構築】,【健康なコミュニティづくりのマネジメント】,【人々/コミュニティを中心とする協働・連携】,【合意と解決を導くコミュニケーション】,およびそれらの定義が明確化された。今後は,これらを各領域の保健師や保健師関連団体の合意基準を満たした見解として,全国的な保健師の実践・教育・研究に係るスタンダードを作成する際の基盤として活用することを推進する必要がある。

  • 岩瀬 絵里奈, 大和 浩, 田淵 貴大, 十川 佳代, 片野田 耕太, 中村 正和
    2024 年 71 巻 12 号 p. 756-765
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/09
    [早期公開] 公開日: 2024/10/23
    ジャーナル フリー

    目的 タバコパッケージの警告表示について,喫煙者の認識を画像の有無およびデザイン別に明らかにし,我が国の警告表示のあり方を検討することを目的とする。

    方法 我が国における喫煙状況や喫煙対策についての現状を知るため実施されたJASTIS研究2020年2~3月の調査データに回答した15~74歳の喫煙者2,372人を対象とした。2020年4月以前の旧パッケージ(文字3割),現行パッケージ(文字5割),および日本では使用されたことがないタバコの害を伝える画像(受動喫煙被害を受ける“乳児”,喫煙で汚れた“肺”,禁煙を促す“女の子”の画像)を含む3種の合計5つのパッケージについて,「若者に喫煙開始を思いとどまらせる効果がどれくらいあると思いますか」「警告表示を目にした場合に,どれくらい禁煙したいと思わせる効果があると思いますか」「喫煙の危険性を伝える効果がどれくらいあると思いますか」「見た人に過度に不快感を与えると思いますか」の4点を質問し,それぞれの質問に対して,5つのパッケージでの認識を比較した。回答は,「1.まったく効果がない~5.きわめて効果がある」あるいは「1.まったくそう思わない~5.強くそう思う」の5件法で求め,それぞれの質問に対する回答に対してt検定を行った。

    結果 t検定の結果,「若者の喫煙開始を思いとどまらせる効果」「禁煙したいと思わせる効果」「喫煙の危険性を伝える効果」において「効果あり(きわめて・やや)」と認識した喫煙者は,文字3割と文字5割では差がなく(P=0.740–0.987),乳児や肺の画像を含むパッケージと文字のみのパッケージでは有意な差があった(P<0.01)。「過度に不快感を与える」において「そう思う(やや,強く)」と認識した喫煙者は,文字のみのパッケージと乳児や肺の画像を含むパッケージでは有意な差が見られた(P<0.01)。

    結論 乳児や肺を使用した画像付き警告表示は,喫煙の危険性を伝え,喫煙者の禁煙行動や禁煙意思を生じさせる効果,非喫煙者の喫煙開始を防ぐ効果があると喫煙者によって認識されていた。我が国においても,「たばこ規制枠組条約」に基づいて諸外国ですでに導入されている画像付き警告表示を導入すべきである。

  • 山田 秀彦, 森山 信彰, 岡本 なつみ, 中山 千尋, 佐藤 香代子, 岩佐 一, 安村 誠司
    2024 年 71 巻 12 号 p. 766-774
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/09
    [早期公開] 公開日: 2024/10/23
    ジャーナル フリー

    目的 新型コロナウイルス感染症拡大により,2020年4月7日に緊急事態宣言が発出され,不要不急の外出の自粛が要請された。外出自粛要請による高齢者の生活や健康に及ぼす影響は,国内外で多く報告されている。高齢者の健康づくりに必要な睡眠への影響も報告されているが,国内の高齢者において,新型コロナウイルス感染症拡大における生活の各種変化と睡眠との関連についての知見は多くない。そこで,本研究では,高齢者における新型コロナウイルス感染症拡大前後の睡眠,とくに睡眠時間の変化の関連要因を検討した。

    方法 福島県福島市在住の65歳から84歳までの男女1,808人を無作為抽出し,郵送調査法による無記名自記式調査を実施した。新型コロナウイルス感染症拡大前と比較して「睡眠時間」が減少したか否かを従属変数,基本属性,新型コロナウイルス感染症拡大前と比較した生活における各種変化,ストレス,地域との関わりの各調査項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。

    結果 調査対象者1,808人のうち,1,305人(回答率72.2%)から回答があり,従属変数に欠損のあった108人を除外した1,197人(有効回答率66.2%)を分析対象とした。睡眠時間が減ったと回答した人は155人(12.9%)であった。睡眠時間減少と有意な関連を示したのは,「社会活動・人とのつながり(減少)」〔オッズ比(以下,OR):2.55,95%信頼区間(以下,95%CI):1.54–4.22〕,「運動を行う日の平均運動時間(減少)」(OR:2.69,95%CI:1.38–5.24),「最近1か月間のストレス(感じる)」(OR:2.41,95%CI:1.43–4.06)の3項目であった。

    結論 新型コロナウイルス感染症拡大禍において,高齢者の睡眠時間の減少に,社会参加や社会活動の減少および運動不足,ストレスが有意に関連していた。睡眠時間の減少を避けるためには,感染対策を講じた上での社会参加や社会活動の継続,および個人で簡単にできる運動やレクリエーションを日々実施して,運動時間の確保とストレスの解消につなげることが重要であると考えられる。

公衆衛生活動報告
  • 関 なおみ, 三上 愛, 國府 隆子, 日下 田鶴, 山口 加代子, 高橋 千香, 伊津野 孝, 齋藤 智也
    2024 年 71 巻 12 号 p. 775-786
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/09
    [早期公開] 公開日: 2024/09/13
    ジャーナル フリー

    目的 大田区は東京都特別区内で最も面積が広く,管内にある羽田東京国際空港を中心に全国各地への交通網が発達し,各種宿泊施設が多数散在している。新型コロナウイルス感染症のオミクロン変異株(以下,オミクロン)が海外で報告された後,日本で実施された水際対策が国際空港を管轄する保健所の業務や人員体制へ与えた影響を分析し,新興・再興感染症発生時に取るべき有効かつ効率的な水際対策の在り方について,現場から提言することを目的とする。

    方法 水際対策強化に係る厚生労働省通知の変遷,オミクロン陽性者の航空機内接触者(以下,機内濃厚接触者)およびオミクロン陽性者の状況,大田区保健所の状況について分析を行った。また国際空港を管轄する4保健所に対し,水際対策強化時の応援体制と,関係機関との連携,課題,次の感染症危機発生時に水際対策を実施する際の提案についてアンケート調査を行った。

    結果 機内濃厚接触者への対応に関する自治体への通知は2021年11月30日から発出され,国内感染の濃厚接触者と同等の対応とされた2022年1月14日まで頻回に更新された。大田区保健所が2021年12月1日~2022年1月12日に調査した機内濃厚接触者は720人,検査対応件数は470件で,うち陽性(オミクロン)は1件だった。同期間中に機内濃厚接触者以外で対応した検体件数(ゲノム解析のため回収した陽性検体57件含む)は136件で,オミクロン陽性が確認されたのは40件だった。4保健所に実施したアンケート調査の結果では大田区で抽出された課題や提案と大きな相違はなく,課題の大半は,日本に居住実態を持たない一時帰国者の多くが国際空港周辺の宿泊施設に滞在するために生じていた。

    結論 水際対策は病原体の急激な国内流入を防ぎ,市中感染に備える時間を稼ぐために実施するものであり,国内感染への対応を主とする保健所に負荷が生じることは望ましくない。病原性や感染力が不明の状況において対応方針が都度変更されることはやむを得ないが,逐次実務に対応している検疫所や保健所といった現場からの情報を集約し,国の政策レベルでそれらに基づいた合理的な判断ができる体制を整備しておく必要がある。また感染症危機管理における緊急時対応が集中する可能性がある地域には,指示の統一と円滑な情報共有のため,国等からリエゾンを配置するといった支援体制も重要と考えられた。

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