目的 認知症初期集中支援チーム(以下,支援チーム)による支援効果や課題など,支援チームを対象にした研究は多数見られるが,支援チームの活用者である地域包括支援センター(以下,包括センター)を対象にした研究は見られない。そこで,包括センターを対象に運営者と活用者の双方向から,支援チームの活用実態や活用課題を検証し,支援チームの活用促進に向けた検討を行う。
方法 全国の包括センター5,625か所から等間隔抽出法で抽出した2,000か所に質問紙郵送調査を実施した。調査期間は2022年11~12月である。調査内容は,基本属性(設置機関,支援チーム併設の有無)と支援チーム活用件数および活用実人数,支援チーム活用課題である。分析は,支援チームを併設する包括センター(以下,併設センター)を運営者,併設しない包括センター(以下,単独センター)を活用者とし,支援チームの併設有無別に分け行った。基本属性や支援チーム活用件数,活用実人数は単純集計を行った。活用課題の自由記述はテキストマイニングを用いた。
結果 773票(回収率38.8%)を回収し,有効回答数は754票(37.7%)であった。内訳は「単独センター」が441件(58.5%),「併設センター」が313件(41.5%)であった。支援チーム活用割合は,「単独センター」が79.4%,「併設センター」が86.6%であった。2021年度の支援チーム活用実人数は,併設有無にかかわらず「1~5人」が最も多かった。
支援チームの課題として,単独センターでは,支援対象者要件や活用ルールの【活用の仕組み】,チーム医のかかわりやチーム員の専門性の【支援機能】,協働支援関係や事業の周知の【活用体制】が挙がった。併設センターからは,支援対象者要件や運営ルールの【運営の仕組み】,チーム医のかかわりや医療との連携の【支援機能】,チーム員の役割認識や人材不足の【運営体制】が挙がった。
結論 包括センターの多くは,支援チームを頻繁に活用してはいない現状にあることが示唆された。支援チームの活用促進を図るには,第一に,支援チームの仕組みであるルールの簡素化や支援対象者要件の緩和など運営・活用者双方の立場で仕組みを見直すこと。第二に,認知症支援体制について運用者である市町村を中心に,認知症支援者全員で定期・継続的に協議することが必要である。
目的 保健師には,健康課題の改善・解決のため,エビデンスに基づき保健事業を導入(事業実装)する力量が求められている。本研究の目的は保健師の事業実装力に関連する要因をキャリアレベル群別に明らかにすることである。
方法 都道府県・保健所設置市の保健師を対象に自記式質問紙調査を行った。対象を保健師としての経験年数や役職の有無に基づき,保健師経験5年以下:新任期群,6年以上役職なし:役職無群,6年以上役職あり:役職有群の,キャリアレベル3群に分けた。従属変数を保健事業実装点検シート(以下,IDAS)得点,独立変数を新規事業化経験・学習経験・横展開の経験・保健師のコンピテンシー尺度得点として単回帰分析を行い,その後単回帰分析において有意であった変数を独立変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。コンピテンシー測定尺度は専門性発展力(PDS),省察的実践力(RPS),研究成果活用力(RUC)を用いた。
結果 配布数966のうち有効回答数は702,有効回答率は72.7%であり,キャリアレベル群別の人数と全体に占める割合は,新任期群が87人(12.4%),役職無群が192人(27.4%),役職有群が423人(60.3%)であった。IDAS得点の平均点は全体が115.7点,新任期群107.6点,役職無群111.3点,役職有群119.6点と,役職有群が最も高かった。重回帰分析の結果,新任期群のIDAS得点に〈RPS得点〉(β=0.450),〈PDS得点〉(β=0.336),〈横展開の重要性認識〉(β=0.233)が,役職無群のIDAS得点に〈RUC得点〉(β=0.305),〈横展開の現状実施認識〉(β=0.237)が,役職有群のIDAS得点に〈RUC得点〉(β=0.225),〈PDS得点〉(β=0.219),〈RPS得点〉(β=0.206)が,関連していた。
結論 保健師の事業実装力向上には,新任期群では,リフレクションの実施,専門的知識・技術の向上,事業実装の重要性の理解の向上が,役職無群では,最新の研究の知見等の情報収集・吟味・活用が,役職有群では,保健師経験を経て培われた能力の継続的な向上が,それぞれ重要であることが示唆された。この結果に基づき,キャリアレベル別の特徴に応じた事業実装研修の実施,および実践や自己の活動を省察し習得度を点検する機会の設置が必要であると考えられる。
目的 健康無関心層に対するアプローチの必要性が重要となっている。先行研究において,健康への関心の程度を評価する「健康関心度尺度」が開発されている。この尺度は,健康への意識,健康への意欲,健康への価値観の3つのサブスケールより構成される。本研究は,12項目からなる健康関心度尺度の汎用性を高めるため,その短縮版の作成を行った。
方法 800人を対象としたウェブ調査のデータを用いて,12項目の健康関心度尺度の質問項目の因子分析の結果より,各サブスケールから因子負荷量が大きい順に2項目ずつ選択し6項目版の尺度と,健康への価値観のサブスケールに属する2項目を除く4項目版の尺度を作成した。作成した短縮版の信頼性と,12項目版との相関や,ヘルスリテラシー(CCHL尺度)や生活習慣(食事,運動,飲酒,喫煙)との相関を比較することで妥当性を確認した。
結果 Cronbach’s αは6項目版0.72,4項目版0.80であった。12項目版と6項目版および4項目版の相関係数は0.94と0.88であった。ヘルスリテラシーとは12項目版:0.28,6項目版:0.27,4項目版:0.22であった。4つの生活習慣との相関係数も3つの尺度で同程度であった。
結論 12項目と同程度の信頼性と妥当性を持つ6項目版と4項目版の尺度を作成することができた。健康関心度を測定する場合,3つのサブスケールを含む6項目版が望ましいが,利便性の観点から健康への価値観を除く4項目版を使用することも可能である。
はじめに 私たちが生活する環境には自然放射線がある。このうち,吸入により被ばくする放射性物質としてラドンがある。日本では商業的にラドン温泉として利用されている。
ラドンの吸入によって肺がんを引き起こす証拠は疫学研究でも示されている。海外では公衆衛生の課題として対策が講じられている。日本では,屋内ラドンは規制対象ではなくガイドラインもないが,第159及び160回放射線審議会総会で取り上げられ,公衆衛生の課題であるとの意見があった。本研究の目的は,公衆衛生分野での屋内ラドン対策に関する現状と課題を整理することである。
方法 国際的な状況,国内の状況,これまでの研究の経緯,ラドンのリスク情報や対策法の提示等について2024年1月から11月にかけて公開情報を調査した。
結果 屋内空気,建材,一般消費財,食品,飲料水と言った環境中の自然放射性物質に対する対策が国際的に講じられる中,温泉を大切にする我が国特有の文化的な背景から,対策としては屋内ラドンに関する情報提供にとどまっていた。ただし,国内の米軍基地では国際的な基準に準拠した対応がなされており,高濃度の居住環境で改善が得られていた。
結論 屋内ラドン対策に関する現状と課題が明らかとなった。とくに換気が不十分な地下において相当時間を費やす場合には,ラドン濃度モニタリングの有用性を伝えることの優先度が高いと考えられた。ただし,日本の特性として原子力事故による被害を矮小化させていると誤解されないようにすることやラドン温泉からの放射線ばく露を好む独特な文化的な背景にも配慮が必要である。