含浸用の硝酸Co水溶液にニトリロ三酢酸(NTA)あるいはシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)を添加してCo/SiO
2を調製すると,Fischer-Tropsch合成(FTS)活性が向上することを見出しているので,本研究ではこれらのキレート剤がFTS活性種の形成に及ぼす影響を各種分光法ならびに活性試験によって検討した。まず,拡散反射FTIR測定から硝酸Co水溶液へのキレート剤の添加によりCo
2+との錯体が形成し,これらの錯体は含浸過程においてSiO
2のOH基と結合して担持されることが示された。引き続く乾燥過程でNTA錯体とOH基との結合が切れ,錯体自身も一部分解するのに対して,CyDTA錯体はOH基との結合を保ったまま保持されていることが明らかとなった。さらに,焼成過程において硝酸Co種は416 Kで分解するのに対して,NTA-Co
2+錯体とCyDTA-Co
2+錯体はそれぞれ515 Kと573 Kで燃焼することも示された。これらの触媒の焼成後のCo K-edge EXAFSを参照物質(CoO,Co
3O
4,α-Co
2SiO
4)のものと比較したところ,硝酸Co水溶液にキレート剤を添加すると,高分散状態のCo
3O
4(NTA)あるいはα-Co
2SiO
4(CyDTA)類似のCo種が形成することが明らかとなった。NTAを用いて調製した触媒のFTS活性は触媒の焼成温度に強く依存し,NTA-Co
2+錯体の燃焼温度より高い温度で焼成してはじめて高活性が得られることも明らかとなった。以上の結果から,触媒調製過程におけるキレート剤とCo
2+およびSiO
2表面との相互作用が活性向上のための重要な因子と言える。NTAは触媒調製過程においてCo
2+およびSiO
2表面と適度に相互作用するため,焼成後に分散性の高いCo
3O
4類似のCo酸化物種を形成し,活性向上をもたらすと推定された。
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