ビフェニルおよびナフタレンのアルキル化におけるゼオライトの選択性を例に,形状選択性の発現機構を考察した。これらの反応では,最も小さい分子径を有し,形状選択性の指標である4,4'-ジアルキルビフェニル(4,4'-DABP)および2,6-ジアルキルナフタレン(2,6-DAN)の選択率は,ゼオライトの細孔構造およびアルキル化剤のかさ高さに支配される。ビフェニルのイソプロピル化では,一次元ストレート細孔を有する12員環ゼオライトMOR,AFIおよび14員環ゼオライトCFIのみが高い4,4'-ジイソプロピルビフェニル(4,4'-DIPB)選択率を与えるが,ケージ型細孔を有する12員環ゼオライトATS,IFR,14員環ゼオライトDON,SFH,および3次元ゼオライトFAU,BEA,CONの4,4'-DIPB選択率は低かった。これらの差は,細孔内においてかさ高い異性体を生成する遷移状態が規制されることに基づくと考えられる。すなわち,MOR等のゼオライトでは4,4'-DIPB以外の遷移状態が規制されるが,そのほかのゼオライトでは立体規制が十分行われないので,かさ高い異性体の生成が優先され,形状選択性は発現しにくい。この際,反応は,速度論的支配,または熱力学的支配を受ける。しかし,アルキル化剤を変え,かさ高い置換基を導入すると,MOR以外のゼオライトでも4,4'-ジアルキルビフェニルの選択率が向上した。このことは,置換基が大きくなると大きい細孔内でもかさ高い異性体の生成が抑制されると考えられる。
ナフタレンのアルキル化においても,ゼオライト細孔およびアルキル化剤により形状選択性の指標である
α,
β-および2,6-DAN選択率が変化した。イソプロピル化においてMORは高い選択率で
β,
β-および2,6-DIPNを生成したが,他のゼオライトでは
β,
β-および2,6-DIPN選択率が低かった。一方,かさ高いアルキル化剤を使用するといずれのゼオライトでも
α,
β-選択率が低下し,
β,
β-および2,6-DAN選択率が高くなった。この際,細孔径が大きい3次元ゼオライトFAU,BEAおよびCONによる
t-ブチル化では,
β,
β-ジ-
t-ブチルビフェニル(
β,
β-DTBN)の選択率はほぼ100%であったが,2,6-DTBN選択率は50~60%程度であることから,2,6-/2,7-体の差を認識できないことが明らかになった。
以上の結果は,ビフェニル,ナフタレンン等の多環芳香族炭化水素のアルキル化におけるゼオライトの形状選択性発現が,ゼオライト細孔内における立体規制に支配されることを示していると結論される。
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