水素源として水蒸気を用い,石油系残油の接触分解を実施した。触媒はジルコニウムとアルミニウムを含む酸化鉄を用いた。まず,酸化鉄の格子酸素と重質成分が反応した後,水蒸気から生成した酸素種が酸化鉄格子へ組み込まれる。この酸素種が重質成分と反応し,軽質油や残査と二酸化炭素が生成する。水蒸気からは同時に水素種が生成し,軽質油へ添加されてアルケンの生成が抑制される。残油中の硫黄化合物はこの水素種と反応し,硫化水素が生成した。触媒中の鉄,ジルコニウム,アルミニウムの組成は不均一であり,触媒中の酸化鉄が主成分である領域においてほとんどコーク付着が見られなかった。この領域では,重質成分の酸化分解が有効に起こったと考えられ,水蒸気雰囲気下での残油分解において,本触媒は安定な活性を示した。
キレート剤を用いてフィッシャー · トロプシュ(FT)合成用Co/SiO2触媒を調製し,その活性 · 選択性を検討した。Co/SiO2触媒はCo担持量(金属Co量換算)が5~20 %となるようにCo硝酸塩を用い,キレート剤として,たとえばニトリロ三酢酸(NTA)やtrans-1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)等を用いて含浸法により調製した。Co/SiO2触媒のFT合成活性は,Coとキレート剤を共含浸するよりもむしろCoとキレート剤を分けて逐次含浸して調製すると高い活性を示した。Co担持量=20 wt%,Co2+/CyDTA=4 mol mol−1の条件で調製したCo(20)/CyDTA/SiO2が最も高い活性を示し,503 K,1.1 MPa(H2/CO/Ar=62/33/5)の反応条件でC5+収量で1500 g kg-cat−1 h−1,C10〜20炭化水素収量で815 g kg-cat−1 h−1を示した。キレート剤を用いて調製したCo/SiO2触媒の表面構造を各種キャラクタリゼーションにより検討したところ,キレート剤を用いることでCo2+とSiO2の相互作用を制御することができ,結果としてFT合成活性に大きな影響を及ぼしたと考えられる。
異なる表面濡れ性を持つ孔隙内を流動する粘性流へ壁面滑りが与える影響を,マイクロ粒子画像流速計測(micro-particle image velocimetry: μ-PIV)法を用いた実験で検証した。実験ではポリジメチルシロキサン(PDMS)で作成した深さ100 μmの透明なマイクロチャネル内の流動を可視化した。マイクロチャネル内には直径180 μmの円柱を並べて配置し,孔隙とした。O2 プラズマ処理によってマイクロチャネル表面の濡れ性を改変し,水濡れおよび油濡れの試料を準備した。測定した速度は数値計算結果と比較を行った。結果,実験および数値計算ともに濡れ性による速度分布の差は,流路中央付近において2.4 %以下であった。また,数値計算の評価では絶対浸透率に関する油濡れ条件での水濡れ条件に対する比率は1.2であった。本結果では油濡れ条件下で,壁面滑りが孔隙内の1相流動の速度分布および浸透率にもたらす影響の程度を示している。本結果は2相流における油の置換挙動の理解に関する研究を行う際のデータの妥当性評価への活用も期待できる。
メチルシクロヘキサン(MCH)脱水素触媒の高性能化を目的として,Pt触媒の活性に対する担体(Al2O3,TiO2,SiO2および活性炭(AC))の影響と第二金属(Ce,Ga,Mn,SnおよびZn)の添加効果について検討した。担体としてAl2O3を用いると,Ptは高分散担持され高いMCH脱水素活性を示した。第二金属として添加したZnの効果は添加量に依存するが,Al2O3にZnとPtの順に逐次含浸すると活性が大きく向上し,水素中メタン濃度が添加前の触媒よりも一桁ほど低くなった。Zn添加Pt/Al2O3触媒のTEM,XRDおよびCO吸着FT-IRの測定結果より,Znを添加してもPt分散度の変化は小さく,Ptの電子供与性が向上することが明らかとなった。したがって,Zn–Pt/Al2O3が優れた触媒性能を示すのはPtの高い分散性と電子供与能によるものと推測される。一方,Pt/ACにZnを添加すると触媒活性は低下した。AC上のPtとZnは凝集したPtZn合金を形成していることが分かり,これがPt/AC系でZnの添加効果が見られない要因と考えられる。
再生可能資源であるセルロース系バイオマスを原料としたバイオエタノールやバイオケミカルの普及のためには,セルロースの糖化に使用する酵素(セルラーゼ)のコストを低減する必要がある。酵素の使用量を低減する手段として,セルロース系バイオマス中の基質ではないリグニンへの酵素の吸着をタンパク質や界面活性剤等の添加剤によって抑制する検討が行われているが,添加剤の機能が十分に解明されたとは言えない。本研究では,リグニンへの酵素の吸着に影響している疎水性相互作用に着目し,高い疎水性を示すことで知られているグラファイトを使用して,添加剤の機能を検討した。ろ紙の糖化実験を行った結果,グラファイトによって酵素糖化は阻害されたが,牛血清アルブミン(BSA)あるいはTween80を添加した場合は,酵素糖化が促進された。一方,ポリエチレングリコール(PEG)には促進効果は見られなかった。BSAとTween80はPEGに比べてグラファイトへの吸着量が多かったことから,添加剤はグラファイトの表面を覆って疎水性相互作用による酵素の吸着を抑制し,吸着量の違いが添加剤の効果に影響したと考えられる。
気相および液相中のH2SのTiO2光触媒による分解反応について検討した。気相反応では,TiO2光触媒を用いることでH2が得られた。反応後,TiO2の色は白から黄色に変化した。さらに,SEM-EDSの測定より,TiO2表面に硫黄が析出していることを明らかにした。一方,液相反応におけるH2生成速度は気相中の場合よりも著しく高かった。これより,気相反応よりも液相反応がH2Sの分解反応からの水素製造に有効な方法であることが分かった。さらに,TiO2光触媒はH2Sの溶媒として用いたエタノールアミンをほとんど分解しないことが明らかとなった。したがって,TiO2光触媒はH2Sからの新たなH2リサイクルシステムを構築する可能性を有していると言える。