FeCl
3-グラファイト層間化合物 (LCG) を種々の条件で処理した後, Fischer-Tropsch (F-T) 合成の触媒として用い, その触媒活性におよぼす層間内のFe量およびFeCl
2量の影響について検討した。反応は固定床流通反応装置を用いて400°C, 20atmにて行った。生成物はC
1-C
7炭化水素, 二酸化炭素および水であった。触媒活性は原料COの炭化水素への転化率X
HC (%) で示した。FeCl
3-LCGをAr中400-700°Cで処理した後これを触媒として反応に用いたところ
Fig. 1に示すように活性は経時変化した。700°Cで処理した触媒を除いていずれも経時時間とともに活性上昇を示した。これはAr処理によって生じた層間内のFeCl
2が合成ガス気流中で除々に金属鉄に還元されたためと考えられる。
Fig. 2はH
2中400-600°Cで処理した時の触媒活性の経時変化を示したものである。Ar処理の場合と同様に活性は, 経時時間とともに増加したが, 処理温度が高い程活性の経時変化は少なかった。
これら種々の前処理を施したLCG触媒の定常状態における触媒活性, 炭化水素分布および層間内の組成を,
Table 1に示した。層間内のFeCl
2量および金属鉄量は処理温度の上昇とともに減少した。H
2中400°C, 8時間処理し, その後Ar中800°Cで処理した触媒では, 金属鉄量が比較的多いにもかかわらず低活性であった。これらのLCG触媒のX線回折測定を行ったところ, いずれの触媒の場合もα-Feに帰属する回折ピークは認められなかった。このことはLCG触媒中の金属鉄は層間内で高分散状態に保たれていることを示している。H
2中500°C以上で処理した触媒の活性は金属鉄量よりむしろFeCl
2量と良い相関関係を示した。LCG触媒の活性点は層間内の金属鉄であることを前報1)で示したが, これらの結果からLCG触媒中のFeCl
2は金属鉄と同様, LCG触媒の活性に対して重要な役割を果しているものと思われる。
しかしながら, FeCl
2の市販品試薬を触媒として用いても炭化水素の生成はみられず, 一方層間内のFeCl
2とグラファイトの間には相互作用がないことが知られていることからLCG触媒中のFeCl
2もF-T合成に対して不活性であると考えられる。Vor'pin ら
3),5)によるとFeCl
2-LCGの層間距離(9.51Å) はFe-LCGのそれ (5.9Å) よりも広く, LCG触媒中のFeCl
2は層間距離を広げるスペーサーの作用をしているものと思われる。
抄録全体を表示