多還芳香族の酸化的開環反応は石炭液化に関する基本反応の一つであろう。このモデル反応としてアントラセン (ANT) やフェナントレン (PHT) の酸化的開環を探究した結果, 工業的にも意味のある方法として, 水素存在下におけるアントラキノン (ANQ) やフェナントレンキノン (PHQ) の熱的脱カルボニル反応を見い出した
1)~5)。
ANQやPHQの脱カルボニルは水素存在下500~600°Cで Reaction (1) に従って進行する。この反応には副反応としてキノンのオリゴメリゼーションおよび脱水反応が伴い, ANQでそれぞれ約10%および2~5%, PHQでそれぞれ15~20%および約2%に達する。そこでANQやPHQのほかに, Reaction (1) の中間生成物であるフルオレノン (FLR) やビフェニル (BPH) を出発原料とした実験も合わせ実施し, これらの結果を総合して副反応をも含めた複合反応経路を設定した
6)。この複合反応経路について, 各段階の1次反応速度定数および速度パラメーターを求めた。各段階の活性化エネルギーの比較から, ANQやPHQの脱カルボニル反応は高温ほどオリゴメリゼーションや脱水反応より優勢になることがわかった。
実験方法は既報の通りである
1)。
ANQ, PHQ
7), FLRおよびBPHについて行った代表的な実験の条件と結果をそれぞれ
Tables 1, 2, 3および
4に示した。この結果から Reaction (1) に示した逐次反応が起こっていることは明らかであろう。ANT, PHTおよびフルオレンの生成は副反応である脱水にもとづくものと思われる。
表中の物質収支 (MB)%は, 原料の質量に対する反応後glcで測定できた物質の質量の比である。酸素収支 (OB)%は, 原料中に含まれる酸素量に対する反応後のglcで測定できた物質中の酸素量の比である。H
2Oはglcのピークとして測定されなかった。そこでこの報文では, ANT, PHTおよびフルオレンが1モル生成すると, 当然それぞれ2, 2および1モルのH
2Oを生成するとの考えの下にMB%およびOB%を算出した
8)。
MB%の不足分はglcカラム内にたまったキノンオリゴマーの量に対応する。実際, 数種のオリゴマーが高速液体クロマトグラフで求められており, その一例を
Table 5に示した。これら高分子量物質の中には, キノンオリゴマーのほかにそれが脱カルボニルや脱水したものも含まれていると考えられる。OB%の不足分は脱水したオリゴマーの量に対応する。そこで(100-MB)-(100-OB)=(OB-MB)%はオリゴマーから脱カルボニルして生成したCOの量に対応する。
表中CO
obsはglcで測定できたCO量を原料100モル基準で示したものであり, CO
calcは表中のFLR, BPHおよびベンゼンの生成量から Reaction(1) の量論を考えて算出したCO量である。そこで (CO
obs-CO
calc) はオリゴマーから生成したCO量に対応する。そに故, 本実験の誤差が小さければ, ANQと PHQの反応では, (OB-MB)%の数字は1/2(CO
obs-CO
calc) と等しく, FLRの実験では, (OB-MB) %の数字は (CO
obs-CO
calc) と等しくなければならない。この関係から実験の精度が検定でき, オリゴマーの量的取扱いの根拠とそれに含まれる誤差が示される。
以上の考察のほかに, ANQやPHQの反応におけるANTやPHTの生成がキノンが無くなってから起こること, 一方, ANQ, PHQおよびFLRの反応におけるフルオレンの生成はほぼアンプル中のFLRの量に比例していること, なども本反応の特長としてあげられる。すべての事実を総合して, 本反応の経路として Reaction (2) を提出した。
k1A,
k5A,
k6A,
k7AはANQの,
k1P,
k5P,
k6P,
k7PはPHQの, また
k2,
k3,
k4は両者に共通する各反応段階の1次速度定数である。1次速度式の仮定は
k1A,
k1P,
k2,
k3,
k4以外の反応には無理があるけれども, 反応全体をまず把握する意味で単純化した。
Figs. 1と
2は, 600°CにおけるANQと570°CにおけるFLRの反応について, RUNGE-KUTTAの方法で計算した結果と実測したプロットとを対比したものである。反応開始の時間が不明確なのはアンプルを用いたバッチ式実験操作のためである。図で不一致の部分を較正しなかった訳は
k値の最適化をANQ, PHQ, FLR, およびBPHの各温度の実験結果すべてについて同時に行ったためである。
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