ニッケル担持Y型ゼオライト触媒 (Ni°Y) によるチオフェンの水素化脱硫反応 (HDS) をパルス反応器を用いて反応温度400°Cで行った。この結果, Ni°YはチオフェンのHDSに対して高い活性を示し, 生成物は硫化水素, エチレン, プロピレン, ブテンなどであった (
Fig. 1)。Ni°Yの初期活性はNiYの焼成温度が700°C以下では焼成温度によりあまり変化がないが, 800°Cではゼオライトの構造破壊のため急激に低下した(
Fig. 2)。さらに450°C以上の温度でNiYを水素還元したところ, Ni°Yの初期活性は水素還元温度が上昇するにつれて低下する傾向にあった (
Fig. 3)。またNi°Yはエチレンの水素化およびベンゼンの水素化分解に対して高い触媒活性を示すことにより, NiY中のNi
2+イオンは金属ニッケルに還元されていることが明らかであったが, 反応の途中で少量の硫化水素を注入すると両者の反応は著しく抑制された(
Fig. 1)。
一方, 赤外吸収スペクトルで水素還元によるNiYの表面構造の変化を検討したところ, 200°C付近の還元温度よりNiYは還元され始め, 3,640cm
-1に新たに水酸基が生成した。この水酸基に基づく吸収強度は還元温度の上昇とともに増加するが, 400°C以上ではほぼ一定となった (
Fig. 4)。ピリジン吸着のIRスペクトルよりこの3,640cm
-1の水酸基は酸性質を有していることがわかった (
Fig. 6)。また450°Cで水素還元したNi°Yを300°Cで硫化水素で硫化しても水酸基領域にはほとんど変化はみられず (
Fig. 5), また硫化水素処理後のピリジン吸着のスペクトルでもNi°Yとほとんど変化がみられなかった (
Fig. 6)。これらのことより, Ni°Yを硫化水素で処理するとNi°Y中のNi°はNiSまたはNi
3S
2に変化するが, 触媒の酸性質は変化しないことがわかった。
以上の結果より, チオフェンのHDSが定常的に進行している状況ではNi°YはHDSの生成物である硫化水素で硫化され, HY型ゼオライトに硫化ニッケルを担持した触媒と類似の構造に変化しているものと考えられた。さらにこのような状態にあるNi°YによるチオフェンのHDS機構を考察した。
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