石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
27 巻, 6 号
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  • 藤元 薫
    1984 年 27 巻 6 号 p. 463-471
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    白金等の水素解離能を持つ物質を担持した炭素は比較的高温において多量の水素を吸着する。吸着される水素量は担持される金属量よりはるかに多く, 金属原子1個に1個の水素が吸着すると考えた場合の10倍以上に達し, 炭素上に水素があふれ出したと考えざるを得ない (Fig. 2)。この現象は通常スピルオーバー現象と称される。活性炭におけるスピルオーバーの主たる特徴は以下のようにまとめられる。すなわち, (1) 水素の入口となる gate 物質は必ずしも金属である必要はなく硫化金属等水素を解離する能力を持てば良い。(2) スピルオーバーに関与するのは水素原子であり300°C以上で顕著となる。(3) スピルオーバーは可逆現象であり高温, 低圧の条件では炭素表面の水素は金属を経由して気相へ脱離する。(4) 炭素表面上の水素受容サイトは表面ラジカルと推定される。
    活性炭の表面そのものは400°C以上においてパラフィン炭化水素から容易に水素を引き抜いてオレフィンあるいは芳香族炭化水素とするが, 活性炭表面での水素原子の再結合, 脱離は遅い。しかしこの反応系にエチレンなどの水素受容体を導入すると表面水素は再結合することなくエチレンと反応してエタンとなり脱離する (Fig. 4)。このため水素の脱離が促進され, その結果反応速度が数倍向上するとともに活性化エネルギーも約10kcal/mol低下する。この現象は表面水素とエチレンとの反応の活性化エネルギーが脱離の活性化エネルギーより低いとの前提で理論的に解析された。
    コバルト, ニッケル, モリブデンあるいはその硫化物を担持した活性炭を触媒としてイソペンタンおよびシクロヘキサンの脱水素反応を行うと450°Cの触媒活性はおのおの5~10倍向上した(Table 1, Figs. 6, 7)。興味深いことに触媒活性は金属の担持率とともに上昇するが, 担持率1~2%程度で頭うちとなり, その天井値は金属の種類によらなかった。各種触媒の脱水素活性と400°Cにおけるスピルオーバーの初期速度の間には良好な関係が存在し, 水素の移動速度と触媒活性の間に密接な関係が存在することが明らかにされた。これらの事実から金属担持活性炭の高い活性はパラフィン炭化水素から移動した水素が炭素表面上を移動して金属表面に移行し, そこに濃縮され, 次いで再結合して分子となり気相へ脱離するいわゆる逆スピルオーバー効果によって水素の脱離が促進されていることに基づくことが明らかとなった (Fig. 8)。この考察は活性炭上の水素の昇温脱離ピークが金属の担持によって低温側ヘシフトする事実によっても支持された。
    炭化水素中の水素を用いて脱硫反応を行ういわゆる水素移行脱硫に上記の逆スピルオーバー現象を応用することを試みた。すなわち逆スピルオーバー効果によって炭化水素から炭素へ移動し, 次いで金属上へ濃縮された水素を硫黄化合物と反応させる方法である。硫化処理金属-活性炭系触媒によりシクロヘキサン, あるいはデカリンを水素供与体として, 気相•液相で350~450°Cで反応がスムースに進行することが示された。チオフェン-デカリン系の液相反応において気相に水素が存在しないと390°Cではチオフェンの水素化分解に必要な水素の2.3倍の水素がデカリンの脱水素によって供給された。しかし適当な圧力の水素を共存させるとデカリンの脱水素量とチオフェンの水素化分解量とが一致し (Fig. 14), 反応前に仕込んだ水素とほぼ同量の水素が反応後に回収された (Table 3)。すなわちこの反応系では気相中の水素と炭化水素中の水素が触媒を介して可逆関係にあり, 硫黄化合物によって触媒上の水素が消費されると, 逆スピルオーバー効果により炭化水素から水素が補給される (Fig. 15)。
  • 平川 誠一
    1984 年 27 巻 6 号 p. 472-479
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    本論文は油•ガス田開発で考慮されるべき特色のある研究内容を示している。重要な数種の記事が説明され, 検討吟味されており, これらは, つぎの項目, すなわち (1) 貯留岩の性質, (2) 水攻法, (3) 天然ガス地下貯蔵, (4) 石油の可採埋蔵量および石油開発の経済性にわたっている。
    相対浸透率曲線に対する粘土および粘土鉱物の影響が明らかにされている。頁岩質砂岩しんの新らしい孔隙率測定法が考案されている。申川油田の水攻計画段階で, 貯留層工学データに加えて地質学的および地球物理学的情報を利用することによって, 同油田のAおよびBブロックが水攻法計画対象として優先度の高いことを示した。関原ガス田の貯留層工学的研究は天然ガス地下貯蔵の検討に貢献した。ガス田の隣接水層とガス貯蔵部の水移動に伴う問題は比較的小規模ガス層にとり必要であることを示した。確率モデルによる原油天然ガスの埋蔵量算定法および石油開発の経済性評価法を開発し吟味した。
  • 国井 大蔵
    1984 年 27 巻 6 号 p. 480-488
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    1950年代の初頭において, 流動層反応装置を用いるコークス粉粒のガス化を行ったが, 粒子全表面積を基準とする総括反応速度係数実測値はグラファイトにくらべて1~2桁小さく, しかもその程度は粒径が小なる程, 見かけ流速が小なる程はなはだしいことがわかった。著者はこれを粒子濃厚相と気泡相間の物質移動抵抗が原因であるとして理論式を提出した。
    1963年に Davidson が上記の物質移動速度を与える理論式を発表したので, 著者らは前の考え方にこの理論式を応用し, 流動層反応装置においてガス側の反応率を予知するための気泡流動層モデルを提出した。この理論式は KL Model として多くの触媒反応および固体が反応にあずかる反応プロセスの開発•設計に実用されている。
    1974年に国井•功力はコークスを熱媒体とする流動層循環系を用い, 重質油を熱分解してオレフィンを製造する方法の研究を開始した。(KKプロセス) この際に行ったコークス粒径制御のための理論的研究の一例を紹介し, つづいて本プロセスが1967年に通産省工業技術院大型プロジェクトとして採用された経緯を述べている。
    5t/dayの重質油を熱分解するテストプラントにおいて, コークス微粉が予想外に発生して種コークスの供給を余儀なくされたが, これは再生塔内流動層に送入される空気気泡中に分散したコークス粒の着火現象のためであるという事実を突きとめ, 燃焼方法の改善を提案することによって上記問題を解決した経験を述べている。
    KKプロセスに使用された粗粒循環系は固形廃棄物の無公害処理を目的とするガス化プロセス (Pyrox Process) に応用されたが, その開発の経緯と実用化の現状が述べられている。
    上記の2プロセスに応用された粗粒循環系は, ハンドリング上重質油と固形廃棄物の中間にあると思われる石炭に対しても効果的に使えるはずである。沖合人工島において輸入石炭を大量に処理して, きれいな液体•気体燃料に転化する事を目的とし, 大容量の石炭乾留ガス化反応装置へ応用することが提案されている。
    二つの流動層間に粉粒体を循環する方式は大処理量の各プロセスには向いているが, 例えば局地的に小量発生するバイオマス, プラスチック廃棄物などをその場所でエネルギー化する場合にはコスト高となる。そこで機能的には同じでありながら単一塔内で循環するプロセスが提案され, バイオマスのガス化実験の行われている事が紹介されている。
    以上の経験によれば, 流動層における気体側•固体側の反応率は理論的に予知出来る程度に進んでいるが, 粉粒体の循環に関しては理論的研究はわずかであり, まだまだ研究が必要である。
  • コンドル産シェールオイル灯軽油留分の水素化処理
    高橋 至朗, 佐藤 信也, 松村 明光, 榎本 稔, 中村 悦郎
    1984 年 27 巻 6 号 p. 489-495
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    コンドル産オイルシェールから得られたシェールオイルの灯軽油留分を, Ni-Mo-Al2O3系工業触媒により水素化処理を行い, 主として脱窒素精製について検討した。その結果, 反応温度の上昇, 水素圧力の増加, LHSVの減少に伴い, 脱窒素率およびH/Cは高くなり, 比重および粘度は小さくなった。脱窒素率は一次で整理され, その活性化エネルギーは, 水素圧力25, 50, 100kg/cm2でそれぞれ10.6, 17.4, 30.1kcal/molであった。また, シェールオイルの灯軽油留分の脱窒素反応は, 窒素含有量が石炭液化油などと比較して多いにもかかわらず容易であることを明らかにした。
  • コンドル産シェールオイル灯軽油留分とアラビアンライト灯軽油留分との混合水素化処理
    佐藤 信也, 高橋 至朗, 松村 明光, 榎本 稔, 中村 悦郎
    1984 年 27 巻 6 号 p. 496-499
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    コンドル産シェールオイルとアラビアンライトの各灯軽油留分の等量混合物を反応温度310-350°C, 水素圧力25-100kg/cm2, LHSV 1hr-1で水素化処理し, 反応条件と生成油の性状との関係について検討した。反応温度の上昇, 水素圧力の増加に伴い, 脱窒素率, 脱硫率は増加し, 比重, 粘度は減少した。本反応において脱硫率はシェールオイルを単独で処理した場合と変らなかったが, 脱窒素率はいずれの条件でも大きくなり, 脱窒素反応では石油留分との混合処理が有利であることが明らかになった。本反応における脱窒素反応の活性化エネルギーは水素圧力25, 50, 100kg/cm2でそれぞれ11.9, 22.4, 33.7kcal/molであった。
  • 比重を用いる感度係数の算出法
    松沢 貞夫, 中村 悦郎
    1984 年 27 巻 6 号 p. 500-505
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    飽和分, 1環芳香族分および2環芳香族分の感度係数 (Calibration factor: Area/mg•ml-1) を試料の比重から算出できるようにするため, 前報で求めた各炭化水素タイプの示差屈折率 (Δn) を感度係数に変換する方法, さらに得られた感度係数の正確さについても検討した。各炭化水素タイプのΔnは, 特定の6種の標準物質について成立するΔnと感度係数の関係を用いて感度係数に変換した。この感度係数は, 従来法で実測した感度係数とよく一致した。本法を用いると, 従来の感度係数算出法で指摘されていた問題点が解決でき, また芳香族の環数別定量も可能になる。
  • 長浜 邦雄, 加藤 完司, 大場 茂夫, 平田 光穂
    1984 年 27 巻 6 号 p. 506-511
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    石油の3次回収における二酸化炭素攻法の開発には, 二酸化炭素と沸点の比較的高い炭化水素との高圧気液平衡が重要である。本研究では, 沸点差の大きな系について, その臨界点付近までの精度の高い気液平衡データを得るために, 新しいサンプリング機構を持った可視式静置型気液平衡測定装置を開発した。この装置は, Fig. 1に示す様に四つの部分より構成されている。
    (1) 厚さ40mmのガラス窓つきのセル本体 (SUS-316製), およびサンプリング部, 設計圧力45MPa
    (2) 試料仕込用ポンプ
    (3) 圧力測定系
    (4) サンプル分析系
    新しいサンプリング部は, Fig. 2に示す様に, Bae, 長浜, 平田1)によるサンプル機構を改善し, 特に気相サンプル中への液相同伴を低減する様に考えられている5)。
    ここでは, まず2成分系として, 二酸化炭素-ペンタン, および二酸化炭素-ヘプタンを選び, 343K一定の条件下で, 前者については, 0.95~9.13MPa, 後者では, 2.37~10.76MPaの圧力範囲で測定した。温度は, セル本体を空気循環式恒温槽内に設置することで, 0.1K以内に制御され, 補正済み白金抵抗測温体を用い, 0.05K以内の誤差で測定した。圧力は, 検定済み死荷重式圧力計を用い, 5kPa以内の誤差で測定された。組成分析は, ガスクロマトグラフを用い, 検量線には純物質を既知量注入して作成された絶対検量線を用いた。その際のガスクロマトグラフの条件をTable 1に示した。
    Table 2およびFig. 3には, 二酸化炭素-ペンタン系の測定結果を示した。Besserer, Robinson2)は, 同系の344.2Kでの実験データを発表しているが, 相互に良好な一致を示し, モル分率で±0.005以内の差であった。この結果より, 本装置が熱力学的に健全であることが示された。同様に, 二酸化炭素-ヘプタン系の実験結果をTable 2およびFig. 4に示した。
    さらに, 343Kでのこれら二つの2成分系構成成分をすべて含む3成分系, すなわち二酸化炭素-ペンタン-ヘプタンについて, 圧力7.85MPa, 9.09MPaおよび10.15MPaにおける気液平衡を測定した。その結果をTable 3およびFig. 5に示した。
    一方, これらの実験データを相関するため, Peng-Robinson 状態式6)を用いて計算を行った。ここでは, 2成分相互作用パラメーター(Kij) として以前著者ら4)が提案した, 二酸化炭素とC1からC10までのn-アルカンにより構成される2成分系データに対して一般化された式を用いた。本条件下では, そのKijは二酸化炭素-ペンタンに対して0.1257, 二酸化炭素-ヘプタンに対し0.1120であった。相関結果をFigs. 3, 4および5の点線で示した。2成分系では, 臨界点近傍を除いて実験値と相関値は実験誤差以内で一致している。一方, 3成分系実験値の相関は, ペンタン-ヘプタン2成分系の相互作用パラメーターをゼロとしたが, 実験値と計算値の一致は, 臨界点近傍を除いて比較的良好であった。
    これらの相関結果より, 二酸化炭素とn-アルカンの2成分系について一般化された相互作用パラメーターを用いて, 二酸化炭素とn-アルカンにより構成される多成分系高圧気液平衡を推算する手法の妥当性が検証されたといえる。
    結論として, 本研究において以下の3点が明らかになった。
    (1) 沸点の大きく異なる系の高圧気液平衡の測定に対し, 新たに開発した装置を用い, 精度の高いデータが得られた。
    (2) 今まで, ほとんど報告されていない, 二酸化炭素-ペンタン, 二酸化炭素-ヘプタンの2成分系および, 現在まで報告値のない二酸化炭素-ペンタン-ヘプタン3成分系の343Kでの気液平衡データを得た。
    (3) 一般化された2成分相互作用パラメーターを用い, 二酸化炭素とn-アルカンによる多成分系高圧気液平衡を推算する手法の検証を行い, その妥当性が示された。
  • 液化触媒の評価
    横野 哲朗, 伊山 彰一, 真田 雄三, 山口 力, 飯塚 時男
    1984 年 27 巻 6 号 p. 512-518
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    本研究では石炭液化触媒の簡便かつ迅速な評価法を確立するために石炭-金属酸化物触媒系で常圧下における脱水素反応を行い, ガスクロマトグラフィーにより脱水素量を定量し, 触媒の脱水素能を検討した。その結果と高温, 高圧下でのオートクレープ実験により求めた触媒の液化能を比較した。
    種々の鉄系酸化物触媒存在下での赤平炭からの脱水素の結果をFig. 1に示す。鉄系触媒の中では, Fe2O3-SO42-が高い脱水素能を示すことが明らかとなった。しかし, メタン, 一酸化炭素の発生に関しては触媒の効果は顕著ではない。(Fig. 2)
    高温高圧下の液化実験でもFe2O3-SO42-が高い液化収率を示し, Table 1に示したように, 500°Cまでの総脱水素量が多いことと良い対応を示した。また, 総脱水素量と液化生成物の組成分布の間にはFig. 3に示すような関係が認められた。また, 種々の触媒の常圧下での赤平炭からの脱水素量と液化収率 (100-BI%) の間にはFig. 4に示すような良好な直線関係が成立した。
    脱水素反応を種々の多環芳香族化合物のモデル物質を用いて行った。(Fig. 5) Fig. 6に示した通り, モデル物質についても, 触媒を添加することにより脱水素反応が加速されることが明らかとなった。その結果を速度論的に解析して速度定数 (k)および活性化エネルギー (ΔE) を求めた。(Table 2)
    種々の酸化物触媒存在下で Big Brown Lignite の水素化分解反応を400°C, 450°Cの温度で行い, その液化収率を Tables 3, 4に示した。その結果をFig. 7のように縦軸にガスおよび生成水の収率, 横軸に100-BI(%) より算出した転化率をとりプロットし, 原点と各点を結ぶ直線の傾き (tan φ) で整理すると触媒活性の評価が容易に行えることがわかった。その関係を用いると, Big Brown Lignite の液化反応では, MoO3-CoO/Al2O3とMoO3/TiO2は水素化分解に対して高い選択性を示し, また, Fe2O3/MoO3-SnO2, Fe2O3-SO42-はクラッキング能が高いことが判明した。(Fig. 8)
  • 吉田 俊男, 井上 清, 渡辺 治道
    1984 年 27 巻 6 号 p. 519-524
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛 (IPZDP) の酸化防止能をCaスルホネートおよびコハク酸イミドなどの清浄分散剤が共存する系で評価した。酸化試験, クメンヒドロペルオキシド分解実験およびラジカル捕捉能の測定結果から, IPZDPに期待される二つの酸化防止能 (ラジカル捕捉能とヒドロペルオキシドのイオン分解能) のうち, ラジカル捕捉能は清浄分散剤が共存しても影響をうけないことがわかった。一方, ヒドロペルオキシドのイオン分解能は条件によっては著しく抑制されてしまうことがわかった。したがって清浄分散剤共存下でのIPZDPの酸化防止能は主にラジカル捕捉剤としての機能であり, ヒドロペルオキシド分解剤としての機能は弱いと推察される。
  • 安福 幸雄
    1984 年 27 巻 6 号 p. 525-532
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    -50°Cから-60°Cの温度範囲で, 深冷脱ろうされたパラフィン系変圧器油から析出されるパラフィンワックス量を見積るために, 尿素アダクト法によって油よりパラフィンワックスを分離した後, 油, パラフィンワックスおよび油残部について流動点を測定するとともに, 示差走査熱量測定 (DSC) による熱量測定も行った。油残部に人工的に本パラフィンワックスを溶解せしめた試料油についても同様に測定した。更に, 本パラフィンワックスをガスクロマトグラフ (GC) 等を用いて分析し, そのノルマルパラフィン含有量を測定した。
    尿素アダクト法によって分離されたパラフィンワックスのノルマルパラフィン含有量は42%で, 平均カーボン数は17であった。(Table 2) 深冷脱ろうパラフィン系変圧器油のDSCのデータより, その融解熱は0.7cal/gのように小さい値が得られた。(Fig. 2) 油残部に溶解したパラフィンワックスの量が多い程, 冷却および加熱条件でのDSCカーブにおける結晶化および融解による熱量変化が著しい。(Figs. 3, 4) パラフィンワックスの融解熱は33.1cal/gであって, 文献値3)とほぼ一致した。(Fig. 6) パラフィンワックスの添加によって, 流動点の上昇やDSC結晶化ピーク温度の上昇が明らかに認められた。(Table 3) なお化学的に純粋なノルマルドデカンの融解熱を本方法で正確に測定して50.9cal/gが得られ, 文献値9)とよく一致したことにより本DSC測定技術の高い水準が確認された。(Fig. 9)
    パラフィンワックスの相転移については, C12H26からC20H42のノルマルパラフィンの融解熱が50から60cal/gと実測されているのに, イソパラフィンのそれは全く測定されていないために, 任意のパラフィンワックスの融解熱を無条件には定義することはできないので, パラフィンワックスを分離してその融解熱を測定することによってのみパラフィン油中のパラフィンワックスの挙動を解析することができた。(Table 4)
    パラフィン油中のパラフィンワックス量については, 深冷脱ろうされた変圧器油のパラフィンワックス量は2.1%と概算され, 実測されたパラフィンワックスの収率とほぼ一致した。このようにDSCデータより求めたパラフィンワックス量は実際に添加したパラフィンワックス量と近似的に合うと見なされた。(Table 3) かくして, 流動点とDSC結晶化ピーク温度の相関が得られた。(Fig. 11) また流動点と融解熱の相関も得られた。(Fig. 12) 更に, パラフィンワックス含有量と融解熱の直線関係も得られた。(Fig. 13)
    上記のように, パラフィン系変圧器油中のパラフィンワックス量をその融解熱を用いておおよそ見積ることができ, パラフィン系油の流動点はDSC結晶化ピーク温度や融解熱にそれぞれ関係づけることが可能であることが明らかにされた。今までパラフィン系変圧器油の低温特性はただ流動点とか低温粘度特性などで表されていたが, このようなDSC法を適用することによって, より科学的にその低温特性を表すこと, 例えばパラフィンワックス含有量を概算することなどができるようになって, このような方法をより広く適用することが示唆された。
  • 高塚 透, 佐藤 周三, 盛本 康之, 橋本 英夫
    1984 年 27 巻 6 号 p. 533-540
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    残さ油接触分解は最近の原料油の重質化に伴い, 重質油分解技術として重要な地位を占めつつある。従って, その評価, 解析に必要な反応モデルの確立が希求されている。接触分解反応モデルは, 既に Weekman らによって Three Lumps Model が提案されているが, これを残さ油分解向けに発展させ, 触媒の活性劣化をも考慮した Six Lumps Model (VR/CSO, VGO/HCO, LCO, Gasoline, Gas および Coke) を開発した。また, 反応器は多段完全混合槽列モデルによって表現した。その結果, 操作条件であるWHSV, Catalyst/Oil, 反応温度および反応器の逆混合特性などを与えて, 複雑な残さ油接触分解反応をシミュレートすることが可能となった。
  • 松原 三千郎
    1984 年 27 巻 6 号 p. 541-550
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    多種類の重質油について, それぞれの性状の類似性を比較するとともに, 類似する性状を有する重質油を, グループごとに分類するための合理的な手法を検討することを目的として, 減圧残油, 溶剤脱歴系重質油, 分解系重質油を含む広範囲にわたる性状を有する26種類の重質油の組成分析値, NMR分析値, および化学構造パラメーターを入力データとして, パターン類似性分析と主成分分析を行った。その結果, パターン間距離による樹状構造図, および主成分得点グラフが前記の目的に適切に使用できることが明らかとなった。また, これらの解析により, それぞれの重質油の組成と化学構造の特徴がより一層明確となり, これらの特徴を詳しく述べた。
  • Ni-Mo-Al2O3触媒による液化油中質油留分の水素化処理におよぼす硫黄の効果
    近藤 輝男, 請川 孝治, 松村 明光, 小口 勝也, 中村 悦郎
    1984 年 27 巻 6 号 p. 551-555
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    ワンドアン炭からの液化油中質油留分の水素化処理において, 硫黄 (硫化水素) の影響を調べるため, 原料液化油中質油留分に二硫化炭素 (0.03~1.19wt%) を添加したものを, Ni-Mo-Al2O3系触媒を用い小型流通式反応装置により370°C, 100kg/cm2, LHSV 1hr-1で水素化処理を行った。脱窒素反応, 脱酸素反応, 芳香環の水素化反応のいずれに対しても, 硫黄 (硫化水素) は促進効果を示した。硫黄濃度との関係では, 硫黄量が0.3~0.4wt%程度まではとくにその効果は大きい。原料油に添加した硫黄は反応系内では硫化水素に転化し, 触媒の金属硫化物の形態を維持, さらには硫化を促進させる働きがあるものと考えられる。
  • 担体組成の効果
    近藤 四郎, 村木 秀昭, 藤谷 義保
    1984 年 27 巻 6 号 p. 556-563
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    F-T合成により液状炭化水素 (C5+) を得る目的で, Al2O3担体 (3種) とAl2O3/MgO比の異なるスピネル担体 (6種) とに4wt%のCoを担持した触媒のCO転化率とC5+生成量とを評価した。スピネルが良好な担体であることを見い出し, さらに, 組成比の異なる担体の効果を明らかにするため, CO吸着量•COの水素化に対するパルス表面反応速度定数並びにCOの昇温脱離パターンを求めた。C5+生成には15~18mol% Al2O3過剰の担体が適し, これらの担体を用いた触媒ではCO脱離は高温で, 一方, CO2脱離 (COの不均化反応) は低温で起こる。F-T合成により得られる炭化水素はC1~C24の範囲にあり, C9とC16とにピークを持つ二つ山型の分布を示した。
  • CdNaYゼオライト触媒に対する硫化水素の促進効果におけるサイト選択性
    杉岡 正敏, 細坪 富守, 青村 和夫
    1984 年 27 巻 6 号 p. 564-566
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    硫化水素が優先的に相互作用するCdNaYゼオライト中のCd2+イオンの位置 (サイト) を検討するために, イオン交換率の異なる CdNaY を数種類調製し, 交換率とクメン分解反応に対する硫化水素処理効果との関係とを検討した。この結果硫化水素は CdNaY のSIIサイトに位置しているCd2+イオンと優先的に相互作用して, クメンの分解反応に対するCdNaYの触媒活性を著しく増加させることがわかった。さらにCdNaYに吸着した硫化水素のIRスペクトルより, 低交換率のCdNaY上では硫化水素は完全に解離して3,640cm-1の酸性OH基のみを生成するが, 中程度以上の交換率では吸着硫化水素の一部は不完全に解離して, 3,640cm-1と3,545cm-1の2種類の酸性OH基を生成することがわかった。
  • 難波 征太郎, 八嶋 建明
    1984 年 27 巻 6 号 p. 567-569
    発行日: 1984/11/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    Fig. 1 に示したような結晶の大きさの異なる3種のNa-モルデナイトを塩酸を用いてプロトン型にした。これらのH-モルデナイトの結晶の大きさの序列はつぎの通りである。
    HM1<HM2<HM3
    上記H-モルデナイトを触媒とし, m-キシレンの不均化を573Kで常圧流通系装置を用いて行った。生成物はトリメチルベンゼン (TMB), トルエン, o-, p-キシレンと少量のベンゼンとテトラメチルベンゼンであった。(Fig. 2) 触媒の活性は時間と共に低下し, TMB生成速度rと時間tの間にはつぎの関係が成立した。(Fig. 3)
    lnr0/r=kr
    ただし, r0は初期速度, kは劣化速度定数である。HM1, HM2, HM3に対するkの値が0.19, 0.24, 0.29h-1であることから, 結晶の大きなH-モルデナイト程劣化速度が速いことがわかる。
    生成TMB中の1,2,4-異性体分率は形状選択性の指標になる。この1,2,4-異性体分率は時間またはTMB収率の低下と共に増加した。Fig. 4に, 1,2,4-異性体分率とTMB収率の関係を示す。同じTMB収率のときでも, 1,2,4-異性体分率はHM1, HM2, HM3の順に高くなった。したがって, 結晶の大きなH-モルデナイト程形状選択性が高いことがわかる。
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