アラビアンヘビー常圧残油のビスブレーキング反応を行い, 生成油の構造解析にもとづいて, 反応の機構や共存する水素, テトラリンの効果について検討を加えた。原料および生成油は
Fig. 1に示すように, 留出油 (D), 残油 (343°C
+, AR) に分別後, ARを, 飽和分 (Sa), 単環芳香族分 (MA), 二環芳香族分 (DA), 三環芳香族分 (TA), 多環芳香族および極性分(PP), アスファルテン (As) に分離した。硫黄分の反応による変化をみると, 生成油全体としては大きな変化はないが, 反応の進行とともに, ARでは増加, Dでは減少する傾向がうかがえ, 分解の初期に生成するDが多くの硫黄分を含んでいることがわかる (
Fig. 2)。Sa, MA, DA, TAの収率はビスブレーキングによって減少し, PPでは初期に減少, 後期に増加する(
Fig. 3)。分子量はすべてのフラクションにおいて減少する。外周炭素 (C
p), 不飽和数 (USN) の値から, MA, DA, TAは芳香環を炭素鎖がブリッジした
Fig. 6のような重合体を含むことが示唆された (
Figs. 5, 7)。ビスブレーキング反応は例えば
Fig. 6の矢印で示すような最も弱い結合の切断により開始すると考えられる (
Table 3)。一方, アスファルテンは反応の進行に伴い増加するが, その分子量は顕著に減少する。その際, 単位シート構造の大きさには大きな変化がなく, 分子量の減少は重合度
mの低下によるものである (
Fig. 8)。PP等のフラクションに含まれるプレアスファルテンの脱水素, 縮合, アルキル側鎖の切断によりアスファルテンが生成するため, その量は増加するが, テトラリンはその生成を抑制する効果がある。これらのことから,
Fig. 9に示すようなビスブレーキング反応のスキームが導かれた。すなわち, 反応初期には解重合(a), ナフテンの脱水素およびアルキル側鎖の切断 (b-1), やパラフィンの分解 (b-2) が起こる。テトラリンや水素の存在はラジカル濃度を減少させるため, 分解留出油収率はそれらにより低下する。反応後期においてはアルキル側鎖の切断(b-1), パラフィンの分解 (b-2), 重縮合 (c) が主として起こる。とくに重縮合は水素供与体が不足の場合に起こりやすく, 解重合およびそれに伴う留出油生成に優先するため, 留出油収率はN
2<H
2<テトラリンの順に増加する。
抄録全体を表示