近年石油などの化石資源の枯渇化が叫ばれるにつれ, 唯一の再生可能資源であるバイオマスが注目をあび, その燃料や化学原料への有効な利用が望まれるようになってきた。木材は三つの異なる構成要素, すなわちセルロース, ヘミセルロース, リグニンより成るが, そのいずれもが高い酸素含有率を示し, 石油代替燃料として実用化するにあたり, 酸素の効率的な除去が必要となる。
前報で, コナラ木粉を水素や一酸化炭素などの還元性ガスを用いずに, NiCO
3あるいはK
2CO
3存在下で水に懸濁させて直接液化し, 重質油状の油を得たことを報告した。本報では, この液化反応におよぼす圧力, 温度, 滞留時間, 木粉/触媒/水の比の影響を系統的に調べた。実験に用いたコナラの分析値を
Table 1に示す。得られた油の収率とCHR (炭素と水素の回収率) はおのおの以下のように定義した。
回収率(%)=生成油の重量/木粉の重量×100
CHR(%)=生成油中のCとHの重量/木粉中のCとHの重量×100
また油の発熱量
Qhは Dulong の式より求めた。
Q
h=338.3C+1442(H-O/8)
(C, H, Oはおのおの重量%,
Qhの単位はJ/g)
Table 2に圧力の収率などにおよぼす影響を示す。収率は圧力に依存し, 4.0MPa付近で最高となる。しかし4.0MPa以上の圧力で得られた油は空気中に放置すると固化し, 一度固化した残さの一部はアセトンに不溶となり, 以後の処理が大変困難となる。元素分析からは圧力が高くなると酸素含有率も高くなり, それにつれ発熱量も下がってくることがわかる。平均分子量の246~342という値は, ホロセルロースとリグニンが効率よく分解したことを示す。2.0MPaで得られた油の平均分子組成はC
19H
22O
3であり酸素が効率よく除去されている。得られた油をPERCないしLBLプロセスで得られた油と比較すると収率的には少し劣るものの他の性状はほとんどかわらず, H
2, COの還元性ガスなしで, はるかに温和な条件で性状の似た油が得られることがわかる。したがって初圧は2.0~4.0MPaで十分である。
Table 3に温度変化の影響を示す。収率は15.0%から28.4%にわたり300°Cで最高を示す。300°C以上では375°Cの場合を例外として, 温度の上昇とともに収率は減少し酸素含有率も低下する。375°Cで得られた油は他の温度で得られた油とはきわだって異なる特徴を示す。すなわち他が空気中で徐々に固化していくのに対し,この油は流動性に富み時間がたっても固化しない。これは水の臨界温度が374°Cであり, 反応が超臨界条件下で進行していることと関係があると考えられる。
Table 4に滞留時間と収率などとの関係を示す。滞留時間0の時に収率は最大に達し, それ以後収率は減少していく。時間の経過とともに油中の酸素含有率は低下する。また酸素含有率の変化から, 液化の初期の段階で酸素の除去がよりすみやかに起こっていることがわかる。
Table 5に温度変化による生成油の物質収支の変化を示す。時間の経過にともない油の収率が低下していくことは, COやCO
2ガスの生成のみでは説明ができず, 液相から固体残さの形成によるものと考えられる。
Table 6に木粉/触媒/水の比の収率などにおよぼす影響を示す。液化反応は触媒の存在しない場合には非常に収率が悪いが, 触媒の対木粉重量比が2~20wt%の範囲では重量変化による収率の大きな変化はみられない。PERCプロセスと同様に4~5wt%の触媒で反応は収率よく進行する。
Table 6の下段に, より高い収率を得るために
Tables 2~5の結果を参考に, 温度, 圧力, 滞留時間, 木粉/触媒/水の比をかえて行った実験の結果を示す。三つの実験で収率は45%をこえ, CHRは60%以上にも達している。2.0MPa, 300°C, 0分で得られた油は収率的には最高であるが, 酸素含有率が比較的高く, したがって発熱量も低い。それに対し375°Cで得られた油は収率としては中位であるが, 低い粘性と高い発熱量を示した。
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