重金属, 硫黄, 窒素を含有するヘテロ環状化合物が, 石油の重質留分中に多く存在し, 更に, この留分を熱分解にかけた場合には主として熱分解残さ中に濃縮される傾向のあることは既に報告されている。
本研究報告は, 原料油中に存在するこれらS, N, Ni, Vが熱分解残さ中のヘキサン可溶分と不溶分中にどの様に分配されるかについて, 原料油の種類および熱分解の過酷度との関係において定量的に整理できることを示したものである。
原料油としてはイラニアン•ヘビー, オーマン (中近東), ロマシキノ (ソ連), マヤ (メキシコ), セロ•ネグロ, ティア•フアナ (ベネゼェラ) およびコールド•レーク•オイルサンドビチューメン (カナダ) の常圧, あるいは減圧残油を用いた。
熱分解反応は1,000m
lのオートクレーブを用い, 反応温度410°C, 圧力118torrの一定条件下で行い, 反応の過酷度 (分解率) は反応時間を変えることによって広範囲に変えた。上記の反応圧力下では反応温度410°Cにおいて沸点500°C以下の油留分が常に蒸発することにより, 二次反応を防止している(
Fig. 1)。
熱分解残さは
n-ヘキサンを用いて溶媒分別を行い, 可溶分と不溶分に分離した。原料油, 熱分解残さおよび残さのヘキサン可溶分中のS, N, Ni, Vの分析に基づき, これら各元素のヘキサン可溶分および不溶分中への分配率を算出した。
異なる原料に対する熱分解過酷度の指標としてR/CCR
fを用いた。ここでRは熱分解残さの原料に対する得率 (wt%) であり, CCR
fは原料中のコンラドソン残炭分 (wt%) である。
原料の分析値, R/CCR
fの値および各元素の分配率計算値を
Tables 1, 2にまとめて示した。
これらを図によって整理すると以下の結論が得られた。
(1) 熱分解残さ油中のヘキサン可溶分の含有率は原料の種類によらずR/CCR
fによって整理され, 極めて良い相関関係を持っている (
Fig. 3)。
(2) 原料油から熱分解残さ中のヘキサン可溶分へのNi, Vの分配率は, R/CCR
fの値が3以下の比較的高い分解率下で原料油の種類によらずR/CCR
fとの相関で整理され, しかもこの領域で急激に減少する (
Figs. 4, 5)。即ち, 不溶分への濃縮がこの領域で顕著となる。
(3) 原料油から熱分解残さ中へのS, Nの分配率は原料油種によってかなり異なるが, この原料油別の差異は残さ中のヘキサン不溶分への分配にのみ反映し, ヘキサン可溶分への分配はR/CCR
fの値が3以下の領域ではR/CCR
fのみによって決まる (
Figs. 6~11)。
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