天然ガスや石油随伴ガスを石油に替えて石油化学工業の出発原料にすることが重要となってきているが, 従来技術では, 低級オレフィン類は得られてても, 基幹原料として重要なベンゼン, トルエン, キシレンなどを効率よく得ることはできなかった。したがって, 低級パラフィン類から直接芳香族を生成する研究が最近, 活発に行われるようになった。また, ナフサ留分を芳香族などのより有用な炭化水素に変換する課題も石油の有効利用の見地から重視されている。
当初, H-ZSM-5のHの一部をZnやGaでイオン交換した触媒が低級パラフィンの芳香族化に有効であることが報じられたが, これらの触媒は, 600°C付近の反応条件の環境では, 還元され揮発してしまい, 永久劣化することが問題とされていた。本研究では, こうした難点を回避して, 芳香族を高選択的に生成しながら触媒劣化の少ない触媒系の開発を目的とした。
まず, ゼオライト触媒の細孔構造とコーク析出による劣化の程度を, 広狭型のモルデナイト (M) とYゼオライト, ならびに中孔型のペンタシル型ゼオライトについて, セタンの変換反応によって比較した。MやYの劣化は極めて速やかであったが, ペンタシル型ゼオライトの劣化はほとんど認められなかった (
Fig. 1)。MやYでは, 生成物中に芳香族はわずかしか認められない (
Fig. 2) のに劣化が著しいのは, 細孔内に多量のコークを析出したためであることが確かめられた (
Fig. 3)。これは, 細孔口径だけではなく, 細孔の連結次元数や内部に存在する大きなキャビティに関係し, コークの前駆体である縮合芳香族が生成する空間の存在の有無に密接に関連することを示している。
ペンタシル型ゼオライトZSM-5をプロトン型としたものについて, 種々の遷移金属でイオン交換した後, プロパン転化性能を比較し, ZnやGa種が芳香族化能に効果のあることを確かめるとともに, Ptには著しい活性増大効果のあることを見い出した (
Table 2)。Ptの効果は0.5wt%程度が効果的で (
Fig. 5), それ以上では水素化分解能が優勢となった。Ptは転化活性を増大させるだけでなく, 芳香族化能も幾分増大させたが, 生成物は芳香族のほかは主としてエタンになるという特徴的な結果を与えた (
Fig. 6)。
一方, 芳香族化能を増す金属種の安定化を図るため, ZSM-5中のAlの替わりにGaやZnを結晶内に取り込むことを行った。固有の迅速結晶化法により, これらの成分を高濃度にまで取り込むことができた (
Fig. 7)。これらの触媒は, イオン交換法で取り込んだものよりも, 活性, 芳香族選択性とも良好となった (
Table 3)。原料飽和炭化水素の炭素数を1から20までに変えた結果, 芳香族選択率はC
4, C
5付近で極小値をとり, C
6以上で回復してほぼ60(wt%) を与えた(
Fig. 8)。C
6以上では, C
6留分から直接転化するルートが加わるためと見られる。
Ptの担持は, コークの析出による劣化の進行を著しく緩和する (
Fig. 9) とともに, コークの焼却による再生時にも顕著に燃焼速度を速くした (
Fig. 10)。コンピューター制御による寿命試験では, Pt/H-Ga-シリケート触媒によるプロパンの転化の場合, 同温度における短い再生時間を含んで1,000時間の計測期間中, 触媒の永久劣化は認められなかった (
Fig. 11)。Pt/H-Zn-シリケートでは, 約600時間使用以降, 永久劣化の傾向が認められたが, 少量のGaとAlをZn-シリケート結晶に取り込ませた結果, 1,500時間の試験でも変化を認めなかった (
Fig. 12)。
触媒表面上のPtは約30Åの粒子となって安定化しており, その状態をコンピューターグラフィックスによって描写した(
Fig. 13)。Ptはシリケートの結晶外表面にあって, シリケート結晶内の固有の活性を妨げることなく, Ptの触媒特性が発揮されることを示唆する。
反応ガスにあらかじめO
2やH
2を添加したが, いずれも転化率, 選択率を下げる結果となった (
Fig. 14)。これは, Ptが関与する脱水素反応と水素化反応の特性のバランスが重要であることを示している。
以上の結果を総合して, Ptの脱水素, 水素化能 (パラフィン転化時) と酸化能 (コーク焼却時), Ga, Znの水素吸引能, 固体酸点の炭化水素変換能, ペンタシル細孔の形状選択性, からなる多元触媒機能が明らかとなり, その作動状態における機構を図示した (
Fig. 15)。
こうした多元触媒機能は, 広範な飾和炭化水素の効果的変換反応プロセスに適用できるものと期待できる。
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