ポリマー系の相平衡すなわち気液平衡, 液液平衡, およびポリマーゲルの体積相転移についてレビューした。
まず, ポリマー系の気液平衡すなわちポリマーに対する気体や蒸気の溶解度の測定法として, 圧力法, 重量法, ガスクロマトグラフ法, および透過法について簡単に述べた。さらに, 気液平衡の推算および相関法として対応状態原理, 溶液モデル, および状態方程式について解説した。対応状態原理に基づく方法は, 溶質の臨界値を用いて相関するものであり, ポリマーがポリスチレン, ポリエチレン, ポリイソブチレン, ポリジメチルシロキサンなど, 溶解度のデータが多い系に適用可能である。溶液モデルによる方法は, Flory-Huggins 式が基本となっているが, この式では気液平衡を良好に相関することは困難なので自由容積寄与項を付加したモデルが提案されている。さらに, Oishi と Prausnitz によって, UNIFAC に自由容積寄与項を付加したUNIFAC-FVモデルが提案された。Iwai と Arai は自由容積寄与項として新しい式を提案し, UNIFAC-FVモデルで気液平衡が良好に推算可能であることを示した (
Table 1および
Figs. 1, 2)。気液平衡を状態方程式を用いて相関する試みは少ないが, Ohzono らは Perturbed-Hard-Chain 理論により, 溶質のヘンリー定数が良好に相関できることを示した(
Fig. 3)。さらに, Schotte は高圧におけるエチレン-ポリエチレン系の気液平衡を状態方程式により相関した (
Fig. 4)。ポリエチレンを33の成分に分割することにより, 液相および気相のポリエチレンの平均分子量も計算可能になっている (
Fig. 5)。
液液平衡の2成分系の測定例として, 岩井らによるシクロペンタン-ポリスチレン系の曇点法による測定を解説した (
Fig. 6)。さらに, 古屋らによって行われたデキストラン-ポリエチレングリコール-水の水性2相系の測定結果を多成分系の例として示した (
Fig. 7)。液液平衡の相関は気液平衡の相関に比べて困難である。岩井らは, 溶液モデルのパラメーターの一つがポリマーの分子量および温度の関数であるとすることで, シクロペンタン-ポリスチレン系のUCST以下の温度での液液平衡が良好に相関可能であることを示した (
Fig. 6)。また, 古屋らは, ビリアル展開式と Flory-Huggins 式の両者で水性2相系の液液平衡の相関を行い, ビリアル展開式の方が良好な相関結果を与えることを示した (
Fig. 7)。
最後に, ポリマーゲルの体積相転移の例として, スミカゲルS-50 (ビニルアルコール-アクリル酸ナトリウム共重合体) のアルコール水溶液中における体積測定の結果および Tanaka の式による相関結果を示した (
Fig. 8および
Table 2)。Tanaka の式では, ポリマーゲルに対する溶媒の選択的吸収は無いとしているが, スミカゲルS-50は水を選択的に吸収する (
Fig. 9) ため, このことを考慮にいれたモデルの開発が今後の重要な課題となる。
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