純物質の臨界物性や標準沸点は, 化学プロセス設計に必要な種々の物性計算に不可欠である。したがって, 名種有機化合物を対象とした物性推算法が提案されており, このうち酸素を含む有機化合物を対象とした既往の臨界物性推算法1)-3),6),8),12)や標準沸点推算法7),10)の主流はグループ寄与法である。
本研究で推算式の検討の対象とした臨界温度, 臨界圧力および標準沸点の測定値を分子量に対してプロットしたのが,
Figs. 1-3である。酸素を含む有機化合物の正確な推算には, アルキル側鎖の枝別れ,
o-, m-, p-置換体などの異性体などを区別する必要がある。既往の臨界温度推算法ではこれらをグループパラメーターと標準沸点を用いて区別するものが多く, 臨界圧力では Jalowka と Darbert が式中に臨界温度と標準沸点の両方を用いている。また, 標準沸点の推算法には有機化合物を正確に計算できる方法は少ない。
著者らは先に, 物質の分子量と化学構造のみに基づいてアルカン, アルケン, 脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素の臨界温度, 臨界圧力および標準沸点の推算法を示した4),5)。本研究は同様の方法を拡張し, 酸素を含む有機化合物, すなわちアルコール, エーテル, カルボニル化合物, エステルおよびフェノールの臨界温度, 臨界圧力, および標準沸点の推算法を示し, 既往の方法による推算結果と比較検討したものである。なお, 本研究で用いた臨界温度, 臨界圧力ならびに標準沸点の実測値はすべて Reid, Prausnitz および Poling の成書13)のデータベースを使用した。
アルコールの臨界温度, 臨界圧力および標準沸点の推算式は1-アルコールと枝分かれ構造のアルコールとに分類し, 1-アルコールは
n-アルカンの推算式4)と同時の分子量のみからなるEq.(1) を採用した。なお, 各実測値に基づく推算式の定数決定には Marquardt 法を用い, 目的関数は Eq.(2) とした。次に, 枝分かれ構造のアルコールは化学構造式から計算する構造パロメーターを含む式を採用し Eq.(3)-Eq.(5) とした。実測値に基づいて決定したアルコールの各物性推算式の定数は
Table 1に示す。
エーテルについては2種のタイプに分類し, メチルアルキルエーテルには各物性とも同型式で分子量のみを用いたEq. (6), これを除くアルキルエーテルには分子量と構造より計算するパラメーターを用いた Eq.(7) を採用した。測定値より決定した定数は
Table 2に示す。
アルデヒドおよびケトンを含むカルボニル化合物ならびにエステルの標準沸点の推算式は, カルボニル化合物がその構造から2種のタイプ, またエステルでは3種のタイプに分類し, Eqs. (8)-(12) とした。
フェノールの臨界温度および標準沸点の推算式は, 共に同型式で分子量と構造パラメーターを用いた Eq.(13) を採用した。測定値より決定した定数は
Table 3に示す。
各物性の式中の定数決定には51種の臨界温度データ, 38種の臨界圧力データならびに96種の標準沸点データを用いた。本研究による計算結果は既往の推算法による計算結果とともに
Tables 4~7に示した。これより, 本方法によるアルコールの臨界温度の計算値と実測値との絶対算術平均偏差は2.1K, 最大偏差は7.2K, 同様に求めた臨界圧力および標準沸点についての偏差はそれぞれ0.049MPa, 0.163MPa, および1.6K, 5.6Kであった。次に, エーテルでは臨界温度の絶対算術平均偏差が2.2K, 最大偏差は9.2K, 臨界圧力および標準沸点についての偏差はそれぞれ0.035MPa, 0.128MPa, および1.6K, 4.2Kであった。また, カルボン酸の標準沸点の計算値と実測値との絶対算術平均偏差および最大偏差はそれぞれ1.9K, 4.3K, エステルの標準沸点は1.4K, 4.1K。フェノールの臨界温度ならびに標準沸点の絶対算術平均偏差および最大偏差はそれぞれ0.7K, 2.6K, ならびに1.7K, 3.9Kであった。
本研究の推算式による結果は, 既往の推算法による結果と比較して異性体を含む広い範囲で最も良好に一致した。
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