環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
13 巻
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巻頭エッセイ
特集・小特集 市民調査の可能性と課題
特集 市民調査の可能性と課題
  • 丸山 康司
    2007 年 13 巻 p. 7-19
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,市民参加型調査の活性化と対象の拡がりの背景を,環境問題の質的な変化という視点から明らかにすることである。

    市民参加型調査そのものは比較的長い歴史を持つが,現在では人文・社会科学的な分野を対象とした事例も存在する。また,調査事例そのものも増えている。その背景として,環境問題の質的変化との関連について考察した。具体的には,生物多様性の保全という課題を扱いながら,問題解決の対象や手法の拡張という変化が存在していることを指摘した。また,このことが問題解決過程の複雑化に影響しており,自然再生事業などにおいては社会的合意に基づく順応的管理の手法が定着しつつあることを明らかにした。その結果,問題解決に必要とされる情報の質も変化しており,これが市民参加型調査の活性化という現象の背景に存在しているとした。

    また,順応的管理の手法における社会的合意形成と科学的手続きの整理を分析し,自然科学者の役割の変化や当事者性を持つ主体の多様化という現状を明らかにした。さらに,この変化は環境社会学における従来型の「科学知」批判や「当事者視点」の自明性を相対化しつつあるとした上で,今後求められる役割についての考察を加えた。

  • 蔵治 光一郎
    2007 年 13 巻 p. 20-32
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    愛知・岐阜・長野にまたがる矢作川流域の森林において市民が主体となって行っている「矢作川森の健康診断」活動を事例として,市民調査の新しいあり方について考察した.矢作川森の健康診断には,これまでの市民調査にはあまりみられない「効率を追わない」「市民と専門家が対等な立場で関わる」「科学的精度よりも参加者の楽しみを重視」「参加費を取って運営する」の4つの特徴があり,このような活動に参画できる専門家の条件として「専門分野のずれ」「分野外への踏み出し」「社会提言」が必要であった.矢作川森の健康診断には「既存林業関係組織」「専門家」からの批判や「無断立入り」への批判があるが,参加者の楽しみを追求することにより,これまで関心の薄かった流域圏市民を人工林の現場に誘う機会を提供するという点での意義は大きいと考えられた.矢作川森の健康診断は不健康人工林の治療には直接関与しないが,行政や森林組合などと連携することにより間接的にその治療に寄与しており,希望者には直接関与へ向けての多様な選択肢が用意されていた。

  • 立澤 史郎
    2007 年 13 巻 p. 33-47
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    市民調査は,観察会型,研究会型,運動型,政策提言型などに類型化でき,専門性と能動性という二軸で整理できる。なかでも社会的意思決定過程という機能を重視するならば,政策提言型市民調査のあり方を議論する必要がある。そこで政策提言を目指した野生生物保全市民調査を事例に,政策提言や政策関与に至らなかった理由や,専門性と能動性の動態を振り返り,政策提言型市民調査が乗り越えるべき課題を整理した。

    カモシカ食害防除活動では,新たな事実や新たな技術を示した点で市民調査の成果はあったが,問題の変化や専門化に対応した目的や手法の再設定ができず,経路依存的状況に陥った。「奈良のシカ」市民調査では政策提言に至ったが,それを実際に政策化する仕組みがなかった。また両事例とも専門家が運営に深く関与したが,前者では専門家の主導が市民の能動性低下と結びつき,後者では政策化を研究者に任せたことで必要な制度作りに市民の関心が向かわなかった。これらの経験からヤクシカ調査では,まず市民参加型調査を行い,そこで高い関心と調査技術を有した島民による市民調査がアレンジされた。

    政策提言型市民調査では,調査技術だけでなく政策化技術の専門家との協働が必要であり,専門家は市民調査の目的や市民の専門性・能動性を踏まえた上で適切なアドバイスを行う必要がある。このような経験を共有しながら社会的意思決定過程としての市民調査の可能性が今後探られるべきだろう。

  • 近藤 隆二郎
    2007 年 13 巻 p. 48-70
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    参加型と称される計画づくりの現場では,「ワークショップ=正当な参加」という暗黙の了解があるため,ワークショップそのものが目的化してしまう危うさや,結果として,生活感と乖離した抽象的なビジョンが決められていく傾向がある。形式的な参加に行政も市民もが妥協しているとも言える。市民が何らかのかたちで継続的に「かかわる」ことができる計画が必要である。そのためには,決定と所有が必須となる。末石冨太郎が言うように,何をさせられているかがわからない=何が可能かがあいまいなことにも問題がある。その絡み合いを紐解くことが市民調査の必要性でもある。また,現場へのかかわり(実践)をいかに共有していくかが鍵となる。抽象的な指針を超えて,そこに具体的なかかわり方を導き,体験していかねばならない。

    そこで,身体的参加を提起したい。身体が地域にどうかかわるかを捉えたい。正統的周辺参加として,「身体で覚える」学習プロセスを重視したい。身体パタンのデータベース化と,計画に基づく新しい身体パタンとがどう関係するか,どう体得されていくかによって,計画の実効性が左右される。民俗学や社会学が蓄積してきた,ライフヒストリー的あるいは文化生態学的な蓄積もあらためて身体パタンとして解釈すれば,この身体的参加データベースに寄与することができる。

    ここで専門家に求められる役割は,(1)いかに現在のシステムが絡み合っているかをひもとく役割,(2)身体のパタン・ランゲージを見いだす役割,(3)創発する場をコーディネート/メディエートする役割,である。

小特集 市民調査の可能性と課題
論文
  • 土場 学
    2007 年 13 巻 p. 94-107
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    社会的ジレンマは,社会科学の諸領域においてさまざまな環境問題のメカニズムを定式化したモデルとして用いられている。ただし,経済学的アプローチや心理学的アプローチとは異なり,現実の環境問題を根拠にしてモデルの妥当性を問う社会学的アプローチのばあい,それぞれの環境問題が社会的ジレンマであるとはいかなることか,という問いから出発しなければならない。これについて舩橋と海野は,それぞれマクロ的アプローチとミクロ的アプローチと異なるものの,両者とも研究者(観察者)と当事者(行為者)の視点を区別することで答えようとしている。ただし両者とも,社会的ジレンマを経験科学的モデルとしてのみ捉えているがゆえに,対象としている問題状況を社会的ジレンマとして捉えることの妥当性はあくまで研究者のレベルで問われるものとみなしている。しかしながら,現実の社会は制度的(理念的)な実在であり,ゆえにそこにおける問題の解決は規範的解決とならざるをえない。したがって,現実の問題とその解決を社会的ジレンマとその解決として捉えるためには,その妥当性が行為者のレベルで問われうるものでなければならない。つまり,現実の環境問題を対象とする社会学的アプローチにおいては,社会的ジレンマ・モデルは現実の問題解決の場において研究者と行為者のあいだでその妥当性が問われるべき「公共的モデル」であるとみなさなければならない。

  • 竹原 裕子
    2007 年 13 巻 p. 108-124
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    近年,多くの企業により導入が進められているISO14001環境マネジメントシステムに関して,それが企業の環境経営に対してどのような機能を果たしているか,そのメカニズムを明らかにすることを試みた。本稿では企業の環境マネジメントシステムにかかわる要因連関をシステムと主体の視点から3レベルの枠組みに分け,①企業の環境マネジメントシステムの特徴とそれにかかわる主体(各階層)の意思決定や行為を規定した要因,②ISO14001制度の下での企業と審査機関の相互行為と,それが企業の環境マネジメントシステムに与える影響,③経済システムにおける他の主体に対する企業の認識と企業の環境経営戦略の関係を検討した。調査は総合電機A社の一事業部および審査登録機関を対象に行い,以下の結論を得た。すなわち,経営効率に適合的な環境保全活動の優先やイメージ先行の「環境適合製品」の開発といったEMSの取り組みは,環境市場をまだ不確実,未成熟とする経営者らの認識に基づく横並び,イメージ優先の環境経営戦略を反映したものと言える。同時に,低い目標設定や一部従業員による環境マネジメントシステムの運用効率優先の取り組みが一般従業員を傍観者にし,現状の追認につながっている。さらに,ISO14001の審査がシステム審査であることや,審査ビジネスにおける顧客獲得競争が企業に迎合した審査を生みやすく,それらが環境マネジメントシステムの運用効率優先を容認する結果を生んでいる。結果を基に,環境マネジメントシステムの進め方やISO14001制度に関して若干の提言を行った。

  • 田中 求
    2007 年 13 巻 p. 125-142
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,ソロモン諸島ビチェ村を事例に,「自然資源を共同利用するうえで正当とみなされてきた概念」すなわち「正当性概念」を把握し,「豊かさ」の獲得における正当性概念の内包する問題点を明らかにすることである。

    ビチェ村における正当性概念は,収穫物を他者に贈与する「気前の良さ」,また資源の共同利用を認め,他者への非難を禁忌とする「寛容さ」,自己の利益のみを追求しない「相互扶助」の重視,資源を共同利用するための「働きかけ」の重視,という4要素から形成されている。

    1915年以降,キリスト教布教団による境界設定や旅客船の来島,商業伐採などの影響により,ビチェ村の正当性概念は,「気前の良さ」ではなく利用集団の限定化という「利己的」な方向に,「寛容さ」ではなく有償利用化という「厳格さ」に,「相互扶助」ではなく「雇用労働」の重視に,「働きかけ」ではなく「境界」の強調という方向に揺らぐこととなった。ビチェ村の人々は,この揺らぎを修復しつつ,住民間の不和を解消し,さらには気前の良い漁獲物分配と相互扶助を活発化させながら現金収入を得ていく「豊かさ」を求めていた。しかしながら,「寛容さ」は盗漁や利益の着服を厳しく非難できないという負の側面を持ち,また「気前の良さ」は収入増加を妨げた。さらに「働きかけ」の重視は,「働きかけ」なかった者に対する利益や収穫物の提供という「相互扶助」を阻害した。正当性概念は,その強調が「豊かさ」に結びつくと同時に,負の側面をも内包するという困難さを持っているのである。

  • 松村 正治
    2007 年 13 巻 p. 143-157
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    近年,全国的に里山を再評価する動きが広がっており,保全活動を実践するボランティア団体の数は急増している。しかし,市民による里山保全活動が盛んになるにつれて,いくつかの課題も指摘されるようになってきた。こうした背景を踏まえて本稿では,里山ボランティア活動において何が課題とされ,それをどのように解決しようとしているかを探ることにより,生態学的ポリティクスの存在を明らかにした。そして,その力に抗う方法として,今日の里山保全活動の興隆を,市民が里山との関係性を豊かにするための運動として位置づけ直す見方を提示した。さらに,ボランティアの活動意欲を生かした里山づくりの具体的な提案として,身近な環境調査を通して市民が里山をデザインするという可能性を示した。

  • 黒田 暁
    2007 年 13 巻 p. 158-172
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    本稿は,札幌市を流れるある小河川における,「住民参加」による河川改修事業について,複数のアクターが繰り広げるコミュニケーションのプロセスに注目しながら,その合意形成のあり方について議論するものである。河川改修事業によって策定された維持管理方針「西野川ワークショップ区間の維持方針」は,コミュニケーションが「合意」に至りまとめられたものというよりもむしろ,「不合意」が包摂されたプロセスのなかでかたちになっていったものであった。本稿は,「西野川ワークショップ区間の維持方針」がどのように成立していったのか検討し,従来の合意形成論において,あらかじめ「合意」が想定されていることによって軽視されがちな「不合意」の部分を含む合意形成のあり方について明らかにする。この河川改修事業においては,4回のワークショップがおこなわれ,その後さらに引き続いて参加者有志による改修計画の検討会「西野川を育てる会」がおこなわれたが,そこでの議論は足掛け3ヵ年にもわたった。その間「育てる会」の位置づけや役割をめぐる参加者とコンサルタント間の認識のズレ,「育てる会」と地域町内会の軋礫など,議論は錯綜していった。しかし西野川をめぐるコミュニケーションにおいては,参加者が「不合意」の認識を共有することで初めて,一定の「合意」を形成することが可能となり,参加や議論はさらに継続的なものとなった。このとき「西野川ワークショップ区間の維持方針」は,「不合意」をつねに課題として抱き続けているが,そのことがかえって河川改修工事終了後の継続的な参加の可能性をある程度担保していることを指摘した。

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