環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
15 巻
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
巻頭エッセイ
特集 環境ガバナンス時代の環境社会学
  • 脇田 健一
    2009 年 15 巻 p. 5-24
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2018/12/04
    ジャーナル フリー

    本稿では,環境ガバナンスが人口に膾炙する時代における,環境社会学の課題や役割について明らかにしていく。以上を明らかにするために,まず,環境社会学会の二大研究領域である〈環境問題の社会学〉と〈環境共存の社会学〉の代表的な研究として,舩橋晴俊の環境制御システム論と鳥越皓之らの生活環境主義を取り上げ,それらの理論的射程を再検討する。そして,両者の議論と関連しながらも,その狭間に埋もれた環境ガバナンスに関わる新たな研究領域が存在することを指摘する。そのような研究領域では,以下の2つが主要な課題になる。①多様な諸主体が行う環境に関する定義(=状況の定義)が,錯綜し,衝突しながら,時に,特定の定義が巧妙に排除ないしは隠蔽され,あるいは特定の定義に従属ないしは支配されることにより抑圧されてしまう状況を,どのように批判的に分析するのか。②そのような問題を回避し,実際の環境問題にどのように実践的にかかわっていくのか。以上2つの課題を中心に,政策形成をも視野に入れながら,「環境ガバナンスの社会学」の可能性について検討を行う。

  • 茅野 恒秀
    2009 年 15 巻 p. 25-38
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2018/12/04
    ジャーナル フリー

    現代の環境問題は,ローカル・グローバルにかかわらず,関係するアクターが増加せざるをえない問題構造を抱え,それがガバナンス構造の変化をもたらしている。その中で,環境社会学者がさまざまな問題解決のプロジェクトに,メンバーとしてかかわる事例が増加している。

    筆者が2003年から運営に関与している赤谷プロジェクトも,その一例である。筆者は環境社会学を専門としつつ,自然保護団体に所属してプロジェクトの運営を担当し,地域住民・自治体,林野行政,自然保護団体,研究者,サポーターなど,多様な主体の協働で進むエコシステムマネジメントや自然再生事業の総合調整を行っている。

    本稿では,筆者の赤谷プロジェクト運営の経験から,環境社会学がプロジェクト・マネジメントに果たしうる役割について考察した。プロジェクト・マネジメントには,「聞く」という技法から多元的な価値を合意形成のテーブルに引き上げるとともに,主体の意図やおかれた状況の理解を進め,また社会関係に基づく見取図を作り,問題を全体として把握し構造を明らかにすることができるという,社会学が特徴としてきた技法が有効である。環境ガバナンス時代にあって,環境社会学は積極的に組織者の役割を担っていくことで,問題解決志向性を強く文脈形成されている学問の個性をより引き出すことができると指摘した。

  • 佐藤 仁
    2009 年 15 巻 p. 39-53
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2018/12/04
    ジャーナル フリー

    環境ガバナンスの実践に伴い人間社会が統治・編成されていく過程には見過ごしてはならない重要な側面がある。それは,環境ガバナンスの推進が特定の知のあり方を特権化したり,逆に無力化する側面である。今日の環境ガバナンスに先行した中央政府による自然資源管理は,為政者による操作を容易ならしめるような知の生成と強化を伴った。文脈を捨象することで成り立つ形式知は,統治を支える知として特権化され,人間がその場に応じて文脈を読み取る暗黙知の地位は低下を強いられてきた。現在の民主国家では,説明責任や透明性への圧力から,公共政策を特定個人の利益追求のためにあからさまに利用することは難しくなった一方で,政策選択を正当化する基準として「効率」や「技術的優位性」が幅を利かすようになった。それがかつての「統治」過程と同じように,人間の経験に基づく知のあり方を隅に追いやる効果をもつことはほとんど看過されている。環境社会学の重要任務の1つは,知の階級性がもたらす効果を検証し,近代科学が軽視してきた暗黙知や判断の役割を回復することにある。

  • 浅野 耕太
    2009 年 15 巻 p. 54-67
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2018/12/04
    ジャーナル フリー

    環境問題を扱う社会科学の分野として,環境社会学と環境経済学は隣同士のようなものである。日常生活でも隣同士は親密になったり,喧嘩したりととても喧しい。経済学は社会科学のなかで最も「教科書化」の進んだ分野として知られ,研究の作法にやかましく,研究の細分化も進み,現実を研究者に都合よく切り取った数理パズル解きに終始していると批判されることも多い。環境経済学にもその側面がないわけではない。とくに私の専門とする評価研究などはその側面を強くもっているのかもしれない。しかし,経済学で進められている方法論の練磨はその目的に照らし,まだまだ十分といえる段階にはない。それは観測を基本に社会における因果関係を明らかにするという目的においては現在の方法論はやっと緒に就いたにすぎないという意味である。じつは,科学が科学的推論の道具として依拠してきた統計学において因果関係を問うことは一種鬼門であり,とりわけ観測データに関して因果関係を扱いうる枠組みが正しく認識されるようになってきたのはつい最近のことなのである。この方法論の展開を平易に紹介しながら,隣の環境経済学者として環境社会学について考えてみることにしたい。

小特集 東アジア環境社会学の到来
論文
  • 西谷内 博美
    2009 年 15 巻 p. 89-103
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2018/12/04
    ジャーナル フリー

    本稿が紹介する慣習の事例は,地域社会に埋め込まれた「古き良き」慣習の中に優れた環境保全能力を見出すという性質のものではない。この事例においては,古き慣習,すなわち地域をよりよく運営すべく地域社会構成員に共有されてきた社会のルールが,現代社会において環境問題を助長し,かつその問題解決を困難にしている障害要因として立ち現れる。

    事例に即して言い換えると,共同空間の衛生環境を維持するために機能してきた地域社会のゴミ処理のしくみが,もはや都市のゴミ処理という公共的課題に対応しきれなくなっている。それどころか,そのしくみを含め,ゴミの処理をめぐって成員に共有されてきた信念と行動のパターンが,成員個々人の反衛生的行動を助長し,地域の新しいゴミ処理システムの構築を阻害する制約要因として作用している。本稿は,インド北部のブリンダバンという地方都市を事例に,ゴミ処理の慣習が地域の衛生管理に逆機能しているメカニズムを明らかにする。

    ところで本稿は,この事例をもって環境政策における慣習理解の有効性を否定するものではまったくない。反対にこの事例を通して,問題の当事者である成員の行為選択に大きく影響を与えている集合的な信念体系,反復経験,期待される行為標準を歴史性に踏み込んで解明することが,現実的な問題解決への道のりを照らす重要な手がかりになることを示す。

  • 霜浦 森平, 山添 史郎, 植谷 正紀, 塚本 利幸, 野田 浩資
    2009 年 15 巻 p. 104-118
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2018/12/04
    ジャーナル フリー

    地域の水環境保全に取り組む地域環境NPOには,関連主体との協働のための多様な活動の展開が求められている。滋賀県守山市の琵琶湖流域において地域水環境保全を行うNPO法人「びわこ豊穣の郷」では,会員間の活動理念,および財源確保の方法に関する会員間の意見の相違により,活動の志向性をめぐる2つの異なるジレンマに直面していた。1つめは,住民主体による自立的な水環境保全,および地域の多様な主体との連携という2つの活動の両立のあり方を背景とする,「自立/連携」をめぐるジレンマである。2つめは,NPO法人化に伴い増加した委託事業と無償ボランティア性に基づく実践的な活動の両立のあり方を背景とする,「ボランティア性/事業性」のジレンマである。

    この2つのジレンマの要因について,会員を対象としたアンケート調査結果を用いて分析した。会員は3つの「活動の志向性」(「調査重視」「連携重視」「地域重視」)を有していた。「自立/連携」をめぐるジレンマは,「地域重視」,「連携重視」という2つの「活動の志向性」の間で生じていた。一方,「ボランティア性/事業性」をめぐるジレンマは,「調査重視」志向,「地域重視」志向という2つの「活動の志向性」の間で生じていた。

  • 保坂 稔
    2009 年 15 巻 p. 119-131
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2018/12/04
    ジャーナル フリー

    昨今の中国では市場経済化が激しく,大都市へ人口が流入している。これらの動きに伴い,とくに北京市では旧来の「単位」に代わって「社区」の導入が試みられている。本稿はこのような状況を踏まえ,中国北京市T区の環境保護意識を検討することを目的とする。検討にあたっては,日本で得られている環境保護意識研究の知見を参照する。北京市T区にあっては党所属やメディア効果といった視点よりはむしろ,「社区」が環境保護意識を論じるにあたって重要となる。社区の導入はコミュニティの観点を生み出し,環境保護意識を促進する。ただしこのコミュニティ意識は,権威主義的態度に促進されており,下からの自発的協力といった特徴をもっている。このような問題点はあるものの,環境保護意識を促進するためには,社区というコミュニティを生かしていくことが必要といえる。

資料調査報告
研究動向
feedback
Top