東南アジア各国で導入されている参加型森林管理制度により,地域住民に付与される資源の利用権は,住民が森林資源を継続的に管理し利用するための基盤であると考えられている。しかし現実には,限りある森林資源や土地をめぐって住民同士の紛争あるいは地域住民と企業や政府との紛争が起こり,権利は絶えず脅かされている。
本稿では,フィリピン国ボホール州の沿岸森林資源であるニッパヤシについての現地調査を通し,資源紛争が住民の資源管理に対する意識と権利確保の行動に与える影響を分析することとした。
資源をめぐる地域内部での紛争を避け自分の利用権を確保するため,住民は法的権利の維持のほか様々な対策を講じてきた。また,養殖池開発企業との紛争を契機としてコミュニティとしての沿岸資源に対する保全意識が高まった結果,地域住民は抗議行動をとって企業を退け,最終的には政府から共同管理権を取得した。
紛争を予防し資源を持続的に利用するためには法的権利を付与するのみでは十分とは言えない。行政による適切な管理とともに地域社会での規範の形成等が重要と考えられる。さらに,内外との紛争を回避するためには,共同管理権と個別管理権の重層化,すなわち共同管理権の対象地域内に個別管理権を設定して個人の権利を明確化するほうが適切な場合があることが示唆された。
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