太平洋戦争中,雑誌は経済統制と物資不足で統廃合,廃刊が続いた。「薬学雑誌」は抄録だけのものが定期発行を許され,昭和20年にはガリ版刷りとなり,戦後の発行もなかなか正常化しなかった。「科学」は,戦争が終わると原爆,原子力の時代を告げる一方,登呂遺跡や昭和新山など戦時中の発見を遅れて掲載している。そしてローマ字書きの巻頭言が現れ,国語はなるべく簡潔にしようという運動を支持する。また,戦後すぐに創刊された「医学のあゆみ」は海外雑誌の翻訳記事が主体で,紙不足に苦しみながらも,戦争中に進展したサルファ剤の研究,また新たに発見されたペニシリン,ストレプトマイシンの情報を,世界から取り残されていた我が国の読者に紹介していた。
F1000Prime(現Faculty Opinions)は生物学,医学,心理学分野の学術論文を対象に,各専門領域において広く認められた研究者が優れた論文を推薦する論文評価システムである。F1000Primeの作成元であるF1000Groupが提供するF1000Researchは,学術論文をはじめとする研究成果をより速く,広く公開するためのプラットフォームである。本稿では,雑誌単位の評価から論文単位の評価への変化に伴うF1000Primeの利用と,オープンサイエンスの発展に伴うF1000Researchの活用について紹介する。
研究評価のあり方が,世界的に問題視されている。デジタル時代の恩恵として生まれた電子ジャーナルは,学術情報の共有を飛躍的に拡大する一方でコスト負担できない者を締め出し,また,研究評価に関わる量的指標を自動計測可能とする一方で研究者を果てなき論文執筆競争に追いやり,優れた研究を生み出す研究のエコシステムを破壊した。オープンサイエンスという新たな研究パラダイムを機に,研究活動は「競争」から「協調」ベースへ,研究評価は「学術上の優位性」から「社会への有用性」へと移行しつつある。本稿では,この新たなパラダイムシフトにおける学術情報流通と研究評価の関係性を吟味する。
商業学術出版が進出したのは1960年以降にすぎない。学術誌のランキングであるインパクト・ファクター(IF)競争が過熱したのは21世紀以降である。もともと学術誌は学術団体やアカデミーの成果を残すための媒体で,それぞれに目的や編集方針がある。その背景をよく理解せず目先の損得勘定で論文を投稿していると,将来のコストや科学政策の観点からはマイナスにすらなりうる。数値指標は研究の質を反映しないことを理解し,多様な方面からの評価軸を模索すべきである。
研究評価における数値指標(Metrics)への偏重は,ミスコンダクトや疑わしい研究活動の要因である。学術論文数は急増しているが,その一方で,捕食出版や,論文工場といった問題も生じている。Retraction Watchのような科学ジャーナリズム,PubPeerのような出版後査読,盗用検出ソフトウェアといったツールによる監視は,個々の研究者による告発とあわせて,不健全な研究活動に対抗するものである。Covid-19の世界的な流行は,査読システムの欠陥や,社会と学術出版との未成熟な関係性を浮き彫りにした。研究コミュニティを構成する各人の研究公正を推進する責務はますます大きなものとなっている。
現代におけるプレプリント投稿とは,査読前論文をインターネット上に公開する学術出版形態を指す。現行査読システムが内包する諸問題の解決や,オープンサイエンス潮流の後押し,コロナ禍における成果共有の迅速化などから,昨今,特に大きな注目を集めている。ChemRxiv(ケムアーカイブ)は,2017年に運用が開始された化学系プレプリントサーバである。2019年には日本化学会も運営サポートに関わり,我が国の化学分野でもプレプリント活用の活発化が期待される。本稿ではプレプリントの概論を紹介したのち,化学領域におけるプレプリント時代の学術出版スタイルについて論じていく。
大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)は2011年の設立以降,会員館を代表して,出版社との電子リソース提案交渉を行っている。近年,電子ジャーナルの購読契約が困難になってきていることや,研究成果をOA論文として出版することを推進する動きが世界的に広がってきていることを受けて,JUSTICEでは,従来の購読モデルの交渉と並行して,OA出版モデルの交渉も開始した。本稿では電子ジャーナル購読の現状と,OA出版モデル移行に向けた世界的な動きを概説し,日本においてOA出版モデル移行を検討するうえで,考慮すべき点や,検討が必要な課題について確認する。最後にJUSTICEが提案合意した移行契約の事例を紹介し,COVID-19による影響が続くなかでの,JUSTICEの2021年向け提案交渉についても言及する。
クリエイティブ・コモンズ(CC)は,米国で始まった,文章,音楽,写真,動画などの作品の自由な利用を促進するライセンス運動である。CCは,その目的を達成するため,主に「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」(CCライセンス)と「CC0」の2種類のツールを提供している。CCライセンスは,作品の作者が,著作権等を保持しつつ,他人に作品の自由な利用を許諾するためのツールである。一方,CC0は,作者が著作権等を放棄することにより,その作品の完全な自由利用を実現するツールである。本稿では,CCが学術論文のオープンアクセス化で重要な役割を果たしていることを述べるとともに,オープンアクセスとCCとの関係において,よくある質問とその回答例も解説した。