生細胞をすりつぶし法などで破壊して葉緑体を細胞外にとり出すと光合成は行われなくなるが, 最近Arnon ら(1954, 1955)は同じすりつぶし法で遊離したホウレンソウの葉緑体が完全な光合成系であることを唱え, 続いて Thomas ら (1955, 1957) はアオミドロの遊離葉緑体でも生細胞でと同程度の光合成を行うことを報じた。
私は1949年にオオカナダモやアオミドロの細胞を用いて, 超音波作用で葉緑体や葉緑体片を液胞内に遊離させ, それらが光でデンプン形成を行うことを予報した。
ここではその後に得た実験結果をも加えて, これらの遊離葉緑体の光合成によるデンプン形成について, より詳しく報じた。 その大要は次のごとくである。
1. 適当な強さの超音波作用でオオカナダモの葉の葉緑体や, アオミドロの葉緑体片を液胞内に遊離させることができる。
2. これらの遊離葉緑休は細胞質や核を伴う葉緑体の場合よりも多量のデンプンを形成する。
3. 遊離葉緑体は生きた細胞の液胞内で55日間も生きている。
4. オオカナダモの遊離葉緑体は正常な緑色であり, その母原形質内の葉緑体はしだいに小さく, また黄化し, 退化の徴候を示すが, アオミドロでは遊離葉緑体片だけでなく母原形質内の葉緑体も緑色のままである。
5. デンプン形成能をもつ遊離葉緑体が真に細胞質を伴っていなかったかどうか, また光合成能がないとされた遊離葉緑体は, 遊離に際してその微細構造に物理化学的変化をうけなかったかどうかについて論議した。
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