植物組織より寒天片中に拡散されるオーキシンは, 生長運動などと密接な関係をもっていると考えられる。しかしそのオーキシン量がわずかなためこれについての研究はあまりなされていない。このような研究を容易にする方法の一つとしてオーキシンの検出法をより感度の高いものにすることが必要と考えられる。その試みとしてアベナ幼葉鞘切片, エンドウのエピコチル切片の生長に対し, またこれらにおよぼす生長素の作用に対し, 促進的に働らくことが知られている金属イオンを応用して見た。FeSO
4は0.025mg,/l.のIAAによっておこるアベナの屈曲に対し, 濃度3×10
-3~10
-2Mて約200% (最大) の促進作用を示す。またIAAを0.025, 0.050, 0.100mg./l.とすると, 5×10
-3MのFeSO
4はそれぞれ約200, 100, 33%の促進を示す。同じようなFeSO
4の促進作用はNAAによっておこる屈曲についても見られた。したがって5×10
-3MのFeSO
1を用いることにより, 屈曲試験による生長素検出の感度を高めることができる。そこでこの感度を高めた屈曲試験を使用しアベナ幼葉鞘先端より寒天片中に拡散される生長素の同定をペーパークロマトグラフィーを利用して行なった。約600本の幼葉鞘先端を2%の寒天片上に立て, 3時間拡散を行なわせた。まず拡散された物質のうちアベナ屈曲試験に働らきを示すものがすべてエーテル可溶であり, またこの物質による屈曲もFeSO
4により増大されることをたしかめた。つぎにこのエーテル可溶な部分をエタノール-水 (7:3, v/v), イソプロパノール-水-アンモニア (10:1:1, v/v), 水飽和
n-ブタノール-酢酸 (200:1, v/v) を用いて展開し, 3種類のクロマトグラムを作った。その結果FeSO
4を用いたアベナ屈曲試験に働らきを示す場所はどの場合でも, 対照とした濾紙上のIAAの場所と同じであった。アベナ幼葉鞘先端にはIAA以外の生長物質も存在しているが (Raadts 等, 1957), 上に述べたわたくしたちの実験結果は幼葉鞘の生長運動などに直接関係している物質はIAAだけであることを示している。
抄録全体を表示