イクビゴケの完成した原糸体は, 糸状原糸体とろうと状原糸体から成り立つが, 現在までの観察では第17図のごとく, それらの発生位置関係の異なる6つの型を見ることができた. このろうと状原糸体は向日性を示しながら培養基から立ちあがった. 多くの場合, その基部周縁部に数本の長い仮根を生じ, この付近の細胞から茎葉体の芽が生じたが, 基部のみならずろうと状原糸体のろうと上縁部の表皮細胞からも生ずることがあった. しかし糸状原糸体の細胞や, こん棒状の枝の先端から直接に茎葉体の芽が生ずることはなかった. また第14図に見られるように, 第1, 第2, 第3のろうと状原糸体が連続的に生じた場合もあった. このような例では第1の原糸体の上縁部の表皮細胞から茎葉体の芽が生じたが, 第2, 第3の原糸体からは培養期間中には芽を生じなかった. 次にハリミズゴケの原糸体は紀焼板, 寒天培養基, または〓紙上の培養では2~3個の細胞から成り立っていた. 液状培養では非常に長い原糸体が生じる. この原糸体の頂端の細胞が大きくなり, かつ一定の分裂を行なって一層の細胞からなる葉状原糸体が生じる. この葉状原糸体は向日性が著しく, 成長するにつれて, その先端部は培養基面から立ちあがった. 液状培養, 寒天培養, または〓紙上の培養のごとく湿気の多い場合には葉状原糸体は掌状になるが, 素焼板上の培養ではリボン状になる. 仮根は胞子, 糸状原糸体および葉状原糸体の基部縁辺部のいずれからも生じるのは特徴的である. この培養では胞子をまいてから, 約2ヵ月目に葉状原糸体の縁辺細胞に突起を生じ, この突起が細胞分裂を続けて茎葉体になる. 1個の葉状原糸体には1~2個の茎葉体が生育した.
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