すでに報告したと同じ北海道ワイスホルン岳のチシマザサ, および場所と種を異にする二, 三のササのよく発達した純群落地で, 生産構造の季節的変化と年純生産量を調べた. 単位面積当たりの現存量, 葉量, 桿 (主桿+枝) 量は一年の間ほぼ一定の値を維持しており, ササ群落の生産構造も積雪期をのぞいてほとんど変化がなかった。すなわちチシマザサ群落では年間を通じ現存量は乾量で約11kg.,葉量約0.45g.,桿量約7.3kg./m.
2葉面積指数は約5であった. これはおもに (1) 桿の強い弾力性のために, 冬期, 雪下に常緑の葉が低温と乾燥から保護されており, 雪解けとともにただちに桿が立ち前年とほぼ同じ生産構造に回復するため, (2) 7月上旬群落上方に新生葉が展開するに伴って群落内部の光条件が低下し, 下部にある二年生葉の大部分と一年生葉の一部は枯死し, これら粘死葉をつけた桿や枝もまた枯死し, 新生量と枯死量とがほぼ均合っているためであることが明らかになった。また個々の主桿の直径と乾量の対数との間に直線関係がみられた. ササ群落内部の相対照度は積雪期をのぞいて
ほぼ一定で, 平均2~3%, 変動の巾も1~7%という低い値を示した. 一方, ササの新生器官が急速に生長する6月下旬から8月上旬まで地下部の重さは急速に減少し, チシマザサ群落では8月中旬最小値3.0kg./m.
2を示した. その後地下部の重さは増大し, チシマザサは11月上旬最大値の4.0kg./m.
2に達した. これはおもに地下部に含まれる貯蔵物質量の変化によっており, 桿についても同様の傾向がみられ, これら貯蔵物質の新生器官への転形率は約0.5であった. 葉, 桿, 地下部の乾量の増分から純生産量を求めた. チシマザサ群落では積雪期をのぞく約6ヵ月の間比較的高い増分が維持され,新生器官の1日当たりの増大の最大は約11g./m.
2であった. また年間の新生葉, 主桿, 枝の増分はそれぞれ230g.,390g.,245g./m.
2であり, 年純生産量は1.6kg./m.
2というかなり高い値が得られた. チシマザサ群落より現存最の小さいニッコウザサ群落でも年純生産量はほぼ同様の値を示した.
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