イネ科植物において, 花(りん皮•雌ずい•雄ずい)およびえい果が系統的な相互関係をよく示す形質であることが, 最近の諸研究によって確かめられた. このことは, 染色体や葉の構造 ,あるいははいの構造などの諸形質を調査することなしに, 外部形態のみによっても, 換言すればおし葉標本の調査のみによっても, かなりつっこんだ群別(属のまとまり)がでぎることを裏づけるものである. この観点から, ウシノケグサ族の属をひとつひとつ検討し, 属のレベルでの分類に問題のある場合には, 主として花とえい果の特徴にもとづいてそれぞれの問題について考察した. その結果, 全世界で54属がウシノケグサ族に含まれることが明らかになった. 日本には native のものとしてヤマカモジグサ属, スズメノチャヒキ属, ヒロハノコヌカグサ属, チシマドジョウツナギ属, ハイドジョウツナギ属, スズメノカタビラ属 ,ウシノケグサ属, 帰化品としてドクムギ属, ナギナタガヤ属, カモガヤ属, コバンソウ属, ヒゲガヤ属がある.
ウシノケグサ族を構成する54属の分布をみると, そのほぼ半数が地中海地方およびその周辺に分布するものである. 全世界的に広く分布している属 (ウシノケグサ属, スズメノカタビラ属など) も少数あり, またそれらのあるものに強くむすびつくもので, 地中海地方から離れた地域に分布する属 (たとえば, 北米にみられる
Hesperochloa はウシノケグサ属に非帯に近い) も若干ある. ほかに, 世界のいろいろな地域に固有の小さな属がある. このような分布をみると, 地中海地方がウシノケグサ族の発祥地のようにみえる. しかし, ウルガイに固有の
Erianthecium, コロンビア~ボリビアに分布する
Aphanelytrum ,アンデスに固有の
Anthochloa, Juan Fernandez にみられる
Megalachne, ニューギニアの山地に特産の
Ancistragrostis などの小属は, 原始的な形質, または独特の形態をもっていて, 地中海要素と強くむすびついているものとは考えられず, 少なくともそのあるものは古固有の属とみるべぎものである. このような事実を考えると, ウシノケグサ族全体としては, 非常に古い複雑な進化の歴史をもっており, 地中海地方はいわばその “二次的” な分化の中心地とみるべきものと考えられる. また, スズメノカタビラ属, ウシノケグサ属, ヤマカモジグサ属のような全世界的に広がっている属は, 古く分化した種類と, 地中海 地方で “二次的” に分化した種類とが混合してできているものとみてさしつかえないように思われる.
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