植物学雑誌
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77 巻, 912 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 倉石 晉, 八巻 敏雄
    1964 年 77 巻 912 号 p. 199-205
    発行日: 1964年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
    従来慣用されてきたアベナ屈曲テストは, オーキシンに対する感受性が強いのにもかかわらず, 方法が繁雑であるため, 使用にあたって不便なことが多かった. われわれはこの繁雑ないくつかの点を除き, テストに要する時間を約1/3に短縮する方法を考案したので報告する. 殼をむかないアベナ種子をおがくずに播き, 90時間27°暗所で発芽生育させる.子葉鞘が約3cmに生育したとぎ, その基部で切りとる. 一方あらかじめ0.75%寒天を流しこんで固めた容器を用意しておき,この寒天に切りとった子葉鞘の基部を下にして垂直に挿入する. この状態の子葉鞘を用いて通常と同じ方法のアベナ屈曲テストを行う. この方法は, 種子の脱殼, 浸漬, 砂または水への植えかえなどの手間をはぶき, アベナ屈曲テストに要する時間を短縮することができる. 本方法によれば, 切りとった子葉鞘のオーキシンに対する感受性は濃度勾配, 標準誤差ともに従来のア ベナ屈曲テストとほとんど等しく, Fe++による屈曲促進も従来の方法と同様に認められた. 寒天に子葉 鞘基部を挿入してから第1回戯頭までの時間は0~9時間の範囲内でオーキシンに対する感受性は不変である.またオーキシンを含む寒天片を子葉鞘にのせてから測定までの時間は90分が最適であると認めら れた. なお本方法で1×10-4Mトリプトファンは18時間後も屈曲を示さなかったが, 同濃度のトリプタミン は10時間後はじめて屈曲を示した. (東京大学教養学部生物学教室)
  • 戸塚 績, 門司 正三
    1964 年 77 巻 912 号 p. 206-215
    発行日: 1964年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
    土壌含水量低下に対するタバコの生態生理学的適応性を明らかにするために蒸散効率を解析した,発 芽後37日目のタバコを栽植密度を変えて鉢植えし,4,000luxの連続照射,温度29°,湿度64%,CO2濃度 0.035%のもとで28日間栽培した.湿潤区(M)の鉢の土壌含水量は実験期間中ほぼ野外容水量(65%)に保っ た.乾燥区(D)では実験開始時と,それより10日後とに85%になるまで給水した.土壌含水量は2回目の給 水より10日後にほぼ永久しおれ点(30%)に達した.土壌水分が減少するにつれてD区では葉の水分欠差が 高まり,単位葉面積あたりの葉乾重が増加した.また側根の直径がいくぶん減少した.相対生長率は実験 期間中M区ではあまり差がみられなかったが,D区では後期に著しく低下した.しかし純同化率は実験 期間を通'じて両区の問でほとんど差がみられなかった.実験開始後20日間の水消費量と乾物増加量とから 求めた蒸散効率はD区の方がM区より大きかった.蒸散効率に関する関係式をつくり,その要因を検討 した結果,単位葉面積あたりの茎(葉柄を含む)の生量減少と葉の蒸散率の著しい低下がD区の蒸散効率を 高めた主な要因であった.
    以上の結果,水供給が制限された植物では葉の蒸散率が著しく低下し,葉面積生長に比して地上部非 同化器官の生長が低下して植物体の水消費が抑制される.一方,単位葉面積あたりの側根の生量が増加し, 側根の直径が減少して葉の水分欠差の増加が抑制される.さらに単位葉面積あたりの葉の乾量の著しい増 加が葉の水欠乏による光合成能率の低下を軽減して,耐乾燥性が高められると推論される.
  • 伊野 良夫, 門司 正三
    1964 年 77 巻 912 号 p. 216-221
    発行日: 1964年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
    火山灰土壌は寒冷地で酸性の性質を示し,供給された多くの栄養塩類を非有効態にかえることが報告さ れている。本研究では火山灰土壌の一種,腐植質アロフェン土壌にN塩,K塩,P塩を加え,それらの(1)腐 植や鉱物コロイドに吸着される部分,(2)土壌中の微生物など生物体の構成分となる部分,(3)遊離態として土 壌溶液中に加わる部分への配分比率を調べた.塩類添加量の多少によって配分比率はいくらか増減するが, Nは増分の38-53%,Kは70-80%が遊離i態として残るが,Pはわずか3-7%が遊離態として残り, 70%以上は腐植や鉱物コロイドに塩類添加後すぐに吸着されることが推定された.本土壌に生育する植物 にとってPはきわめて吸収しにくい栄養元素であると思われる.
  • 中沢 信午, 木村 貞夫
    1964 年 77 巻 912 号 p. 222-227
    発行日: 1964年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
    シダの配偶体におけるTTCおよびヤヌス緑の還元 <極性との関係について>
    モエジマシダ(Pteris vittata),イタチシダ(Dryopteris varia)およびミズワラビ(Ceratopteris thalictroides)の若い配偶体についてTTCおよびヤヌス緑Bを用いてク酸脱水素酵素を検出し,つぎ の結果を得た.
    (1)TTCまたはヤヌス緑の還元はモエジマシダでは原糸体の先端からわずかに遠のいた部域でもっと も著しい.しかしイタチシダでは原糸体全体にわたって一様に,またミズワラビではとくに基部にこれが 著二しい.
    (2)還元はコハク酸塩で促進され,マロン酸塩で阻害される.還元の最適条件は30。,pH7.0~7.5であ る.還元力はアルコール固定後にも保存されるが,煮沸によって失われる.これらの事実はこのTTCとヤ ヌス緑の還元とがコハク酸脱水素酵素にもとつくことを示している.
    (3)還元力は通常は脂肪球のまわりで最も大きい.しかしアルコールで脂肪を除去しても還元力はのこ. る。したがってこの脱水素酵素は脂肪球と結合して脂肪一コハク酸脱水素酵素系を構成しているとみられる.
    (4)モエジマシダでは原糸体に分岐がおこるときにもコハク酸脱水素酵素の本来の位置は不変に保たれ る.この酵素を脂肪球とともに遠心力で移動させても発生の極性軸は変わらない.
  • 山本 光男
    1964 年 77 巻 912 号 p. 228-235
    発行日: 1964年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
    他の植物の種子と比較して調べた. 種子の発芽時の含水量の飽和含水量にたいする割合は,海岸植物の種子では低い.種子は初めの数時間 急速に吸水し,その後の吸水速度はゆるやかになるが,急速な吸水が終った附近で発芽時含水量に達する.
    海岸植物の種子は,より高濃度のショ糖液中で発芽時含水:量にまで吸水し,発芽しうる.
    海岸植物の種子は,吸水脱水ともにその速度が他の植物の種子より早い.しかし吸水比率は脱水比率よ りはるかに大である.
    これらのことから,海岸植物の種子は吸水および発芽について,乾いた環境条件に適応していると思わ れる.
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