アメリカ産のカンボク (
V. prunifolium) の植ナ皮抽出物は, 子宮筋の痙れんに対して鎮静作用があり, 今日なお医学的興味の対象となっている•今までに一連の物質が単離されているが, その作用物質は不明のままである•またヨーロッパに普通の
V. opulusを, その成分と薬理作用から考えて, 同様に薬種として扱ってよいかどうかも確かでない. この2つの薬種のメタノール抽出物を薄層クロマトグラフィーで調べると, かなり大きな差異が認められる. (第2図) まず
V. prunifolium の成分として, 第2図の物質Hは, メタノール抽出物を石油エーテルで抽出し, シリカゲルのクロマトグラフィーで単離すると, 化学的性質, UV, IR, NMRスペクトルから刈米らが単離したアメントフラボンであることがわかった. つぎに物質Fもアルミナによるクロマトグラフィーでとり出し, スコポレチンと同定した. メタノールに抽出物を酸で加水分解すると, グルコースとスコポレチンが生ずることからスコポリンの存在も確かめられた. またろ紙および薄層クロマトグラフィーにより,エスクレチンも証明された. 次にエーテル抽出物をアルミナで分別し, 第1,2図に示した物質A~Fを単離することができた. Aは無色油状物のポリエンであるが, 少量のため最終的な構造決定にはいたらなかった. Bはメタノールから結晶化し, 元素分析値, 分子量, IRスペクトルから, α-およびβ一アミリンの混合物と考えられる. CはIRからトリテルペンと考えられ, 水解するとオレアノール酸, ウルソル酸および酢酸になることから前二者のアセチル化物と考えられる. Dもメタノールからえられ融点, 元素分析, アセテートの融点およびジギトニン沈澱反応などからβ-シトステリンである•またEは, オレアノール酸とウルソル酸の混合物, Fは元素分析値, 化学反応から構造未知のジケトーステリンあるいはジノルージケトートリテルペン化合物と考えられる.一方
V. opulusおよび
Viburnum祝の他の17種にはいずれにもアメントフラボンが検出されず,スコポレチンも少数のものに見出されただけであった
V. opulusの薬種には常にバニリン塩酸でフロログルシン誘導体に特有な呈色反応を示す物質が見出され, これはメタノール抽出物をエーテルで処理し, シリカゲルのクロマトグラフィーで単離された, ろ紙クロマトグラフィーで調べると, カテキン90%とエピカテキン10%の混合物であった. Evans らによると
V. prunifoliumの樹皮にはサリシンが含まれており,これがこの薬種の有効物質であるという.われわれは抽出液を濃縮しろ紙クロマトグラフィーで注意深く調べたが,その存在を確認することはできなかったからはアルブチンも単離されたが, モルモットの小腸および子宮には作用がなかった•予備実験によると, 酢酸エチル抽出物が最も鎮痙作用が強く, その不溶物からえたメタノール, 水, 石油エーテルおよびエーテルの抽出物はいずれも全く作用を示さなかった•酢酸エチル可溶部には, スコポレチンおよびエスクレチンが多量にあるので, この2物質のモルモット小腸の筋肉に対する作用を調べたところ, 第2表に示すように, いずれもパパベリンの1/8-1/10の効果を示した•またアピゲニンおよびルテオリン型のフラボンは鎮痙作用があることが知られているので,われわれはアメントフラボンの作用も調べてみたが, パパベリンに対して1/5。の作用しか示さず,水あるいはアルコール抽出物の全薬理作用におけるアメントフラボンの関与は小さいものと考えられる.
V. prunifolium と
V. opulusはこのように親水性の物質についてかなりの差があり, 後者の抽出物は前者のそれに対して全く薬理作用を示さないから, 少なくとも鎮痙効果に関しての両者の差異は,以上述べたような成分の差によるものと考えてよいであろう•また逆に, これら成分の差を, 薬種の有効性に関する優れた鑑別法とすることもできる.
V. prunifolium におけるアメントフラボンの存在は, 植物学的に興味のあることである.すなわち従来唯一の例外を除けば裸子植物にのみ知られていたビアピゲニン型の化合物が被子植物にも存在することがわかったわけである•この例外というのは,
Casuarina strictaで, 葉が鱗片状の構成をしていることと花が非常に簡単な点で裸子植物にある程度の類縁が考えられ, 最近, 被子植物群の中ではかなりかけ離れた属と見なされているものである. また
Viburnumの属する
Caplifoliaceaeの分類学上の位置についても意見が分れている. さらにアメントフラボンが,
V. prunifolium のみに見られたこと,今までは葉だけで樹皮には説明されたことがなかった点も注目に価する事実である.
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