中部日本における海抜高度650-3,100メートルの間にわたって分布する23地点の表層の大部分の花粉は, 基本的に, 各々の植物帯に生育している優占種によって特徴づけられる. すなわち, 高度の変化によって区別される花粉群落は次の様である: マツ(二葉松)-カシ属 (650-1,300メートル), ブナ-カンバ属 (1,300-1,700メートル), 亜高山性針葉樹-カンバ-ブナ属 (1,700-1,800メートル), 亜高山性針葉樹-カンバ属 (1,800-2,200メートル), 亜高山性針葉樹-カンバ-マツ (五葉松) 属 (2,200-2,500メートル), ハイマツ (2,500-2,700メートル), 飛来花粉 (2,700メートル以上). 高山帯では, 長距離飛来可能な花粉の百分比が一様化する傾向がある. 草本植物の花粉は一般に大部分の表層資料において高率である. これは今日, アカマツが温帯にカンバ属が亜寒帯で普通に見られる様に, 過去の極盛相林は, 人間によって著しく破壊されたためである. これらの基礎の上に立って, 中部日本の山地帯における過去12,000年間のおもな植生史は, 五葉松類亜高山性針葉樹林 (12,000-10,500年前)→カシ属-亜高山性針葉樹混合林 (10,500-4,500年前)→ブナ-カシ属温帯林 (9,500-4,500ないし4,000年前)→亜高山性針葉樹林-スギの増加 (4,500ないし4,000-1,500年前)→二葉松類またはカンバ属-草本性植物 (1,500-現在) の順序である.
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