1. マイズルソウは外部形態の変異において著しい地理的勾配を示すことが明らかとなった. 北米西部沿岸からアリューシャン列島, カムチャッカ半島, 千島列島, サハリン (樺太), 北海道, 本州東北より北陸地方, さらに朝鮮半島にかけては全体剛壮で, 大型, 心臓型の茎葉をつける集団群が広く分布する. 草丈,花序の長さ, 花の数, 茎葉の長さ, 巾, 葉面積, 葉柄の長さなど, 各形質の変異の巾は, これら北方の集団群では一般に非常に広く, 変異は固定していない. 一方, 本州太平洋岸に面した山岳地域, 中国地方, 四国九州にかけての地域からは全体非常に小型で, 卵型もしくは三角状卵型の茎葉をつける, 非常に変異の巾のせまい, 固定した集団群が分布することが明らかとなった.
2. マイズルソウは生態的には温帯性夏緑樹林および亜寒帯針葉樹林林床にその主な生活は “場” があるが, 分布の南限近くでは必然的に高い山岳部の林床にとじこめられていることが多く, 集団も小さい. しかも, 各集団間には地理的, 生態的に強い隔離が働いているといえる. 本州北陸から東北にかけての地域以北ではマイズルソウの生活圏は海岸近くの林下より高山帯下部にかけての広い地域にまたがっており, 連続した“.iche”.占有する.
3. 千島列島, 海馬島, 御蔵島, 屋久島, ウツリョウ島など, 離島の集団からは著しい変異の浮動が見出された. しかし, 北海道登別, 本州日光, 赤城山などの地域集団にみられた著しい地域変異は, 離島以外の集団においても変異の浮動があることを示している. 現在, こうした変異の要因を明らかにする資料は多くないが, 過去における日本列島を含む北太平洋地域全域の地史的および気候的変遷を土台として考察してみると, 温帯林, 亜寒帯林の氷期における南下と後氷期における北上とが, マイズルソウの種内分化, 隔離の背景をなしていることがわかる.
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