さきに現存量•生産量について報告した
18)約15年生の Abies 幼樹林において, 生長に伴なう炭水化物経 済のありさまを明らかにした.
炭水化物は, 生材料から80%熱エタノールで糖を, 残さから熱水ででんぷんを, さらに残さから2%HCl でヘミセルロースを抽出し定量した. 糖の含有量は各器官とも生育期間の開始とともに低下し, 9月以降ふ たたび上昇して冬期は高いレベルを保つ. でんぷんおよびヘミセルロースは生育期間の初期に増加し, 新芽 の展開に際し減少し, 以後秋冬を通じて低いレベルを保つ. 以上を合計した”可溶性 quot;炭水化物の季節変 化は増加, 減少, 増加の3相をもつ. この3相について, 光合成, 呼吸, 貯蔵炭水化物の蓄積と消費の諸項 からなる物質収支表がつくられた.
第1相は5月および6月前半の期間で, 新芽の展開は開始されず, 光合成産物のほぼ半分が呼吸により消 費され, 他の半分が植物体中に蓄積される. この炭水化物蓄積は越冬葉の光合成能力の回復によりもたらさ れる. 第2相は6月後半より8月末までの期間で, 新芽の展開と貯蔵炭水化物の急激な消費がみられる.この 消費量は第1相における蓄積量のほぼ2倍に達し,この期間中の新成植物体乾重量の1/3-1/4は貯蔵炭水化 物よりの転換によると推察された. 消費の60%は越冬した旧葉でおこった. 第3相は9~11月の期間で, 貯蔵炭水化物の再蓄積が器官の生長を上まわる. このような解析を通じて, 前報で報告したこの群落の年間生長量, 年間純生産量等の実現過程が明らかにされた.
また, 以上の結果にもとずき, 寒冷な冬期をもっ環境下での常緑葉の生態学的意義が論議された. すなわ ち, このような環境下の常緑葉は, 1)冬期には新芽に最も近い位置にある容量の大きい貯蔵器官としての 役割をはたし, 2)生育期間の初期に光合成能力を急速に回復し, 貯蔵物質を大きく増加させる. この貯蔵 物質が初夏の新芽の急激な生長を可能にさせると考えられた.
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