本邦フロラのアントシアン調査を目的として, 著者の研空室ではすでに平地植物, 山地植物, 高山植物, 紅葉植物の色素調査を行なってきたが, 今回, これを補足するために, 数年来集積したデータを報告する. 調 査した植物は84種 (34科, 65属)である. 色素の配糖体構造を決めることは容易ではないので, アグリ コンの同定に重点を置いた. 被検植物84種中では, cyaniding 植物52%, delphinidin 植物 24%, malvidin 植物17%, pelargonidin 植物10であった. 一般に野生植物ではアントシアニジンの成分組成 は単 純である. 2種類のアントシアニジンが共存する場合でも, 水酸基 (またはメトキシル基) 1個の相違にと どまることが多い. このことは色素生合成の終末段階で置換反応の起ることを暗示しているように思われる. 牧野新植物図鑑に載っているアントシアン植物は1000余種類であり, 著者等のこれまでの調査結果を集計 すると, アグリコンが判明した植物は約250種となる. 今後ともこの研究を続けて, できるだけ完全なアン トシアン地図を作り分類学や生態学の分野にも貢献したい.
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