目的:近年,わが国の透析導入率は,高齢男性を除いて低下傾向にあるが,透析導入患者の既往や合併症の有病率が変化したかどうかは不明である。本研究は,公表されているデータを用いて,新規透析導入患者の導入年末時における既往・合併症(認知症,脳出血,脳梗塞,四肢切断)の有病率を,2010 年と2018 年で比較した。
方法:日本透析医学会発行の「わが国の慢性透析療法の現況」2010 年データと,2018 年データを比較した。40 歳以上の新規導入患者を対象に,性年齢階級別に既往・合併症の有病率を求め,2010 年の既往・合併症有病率を1とし,性年齢を調整した2018 年導入患者の標準化有病比(standardized prevalence ratio, SPR)を計算した。
結果: 2010 年,2018 年調査のいずれでも,脳梗塞,認知症,脳出血,四肢切断の順で有病率が高かった。2010年に比べて,2018 年新規導入患者では認知症の合併が有意に低く(SPR 0.80 [95% 信頼区間 (CI)0.77 ~0.83]),脳出血の合併が多かった(SPR 1.16 [95%CI 1.09 ~1.24])。一方,脳梗塞(SPR 0.97 [95%CI 0.94 ~1.01]),四肢切断(SPR 1.06 [95%CI 0.99 ~1.16])には有意な変化を認めなかった。性年齢階級別での検討では,特に高齢者で認知症有病率の低下が,脳出血では高齢男性での増加が目立っていた。研究の限界:本調査は,導入患者の導入年末時の既往・合併症の有無であり,導入時のものではない。
総括:性年齢で調整したわが国の40 歳以上の新規透析導入患者における,導入年末時の既往・合併症有病率は,認知症で有意に低下,脳出血で有意に増加,脳梗塞,四肢切断では不変であった。少なくとも現時点ではわが国一般住民での認知症の有病率低下を示唆する疫学データはなく,本研究で認められた認知症有病率の低下は,透析導入患者あるいは慢性腎臓病患者特有の要因が関与した可能性がある。
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