背景: 心血管関連死のリスクファクターである左室肥大 (left ventricular hypertrophy: LVH) は透析導入時の70%にみられる。海外からは, 慢性腎臓病 (chronic kidney disease: CKD) において, 高血圧や貧血がLVHのリスクであると報告されている。しかし, これは純粋な体液因子を評価に含んでいない。
方法: 当施設通院中の保存期慢性腎臓病のクレアチニンクリアランス (Ccr) が10~60mL/minの患者で, 明らかな心血管病変, 不整脈を有さない90例について, 心エコーにより left ventricular mass index (LVMi) を算出し, LVHに関する因子について心筋バイオマーカーを含め cross-sectional study を行った。
結果: LVH罹患率は全体で40.0%と高率であった。また, stage 3で22.7%, stage 4で43.6%, stage 5 (Ccr>10mL/min) で48.3%であり, 罹患率はCKDの stage が進むごとに有意差はないものの増加傾向であった。LVH有無の2群間での単変数の比較では, ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP), アルブミン(Alb), ヘモグロビン(Hb), 収縮期血圧, 脈圧とβプロッカー, 利尿剤の使用頻度で有意差を認めた。ステップワイズ法による重回帰分析では, LVMiは ln hANP (β=0.471, p<0.001) とA1b
2(β=-0.331, p<0.001) に相関した。変数減少法によるロジスティック回帰分析ではhANPがLVHに対する有意に独立した危険因子として選択された (p<0.001)。
考察: 腎専門医受診の段階ですでにLVHの併発頻度は高く, その後も体液過多, A1bの低下とともにLVHは進行する可能性がある。CKD早期からの厳密な体液・栄養管理がLVH進展を抑制し, ひいては心血管疾患のリスクを軽減する可能性が示唆された。
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