目的: 現在, 本邦において保存期CKD患者に対する腎性貧血管理のガイドラインはなく, 臨床的エビデンスにも乏しい。本研究は, 保存期CKD患者において腎性貧血治療の現状を明らかにし, エリスロポエチン (EPO) 治療の開始基準や目標Hb値などについて検討した。
方法: ヘモグロビン濃度 (Hb)10g/dL以下の腎性貧血を呈する保存期CKD患者に対してEPOを6カ月以上投与し経過観察した。EPOは皮下注で6,000IU/週で開始, 目標Hb値は11g/dL以上とした。鉄充足状態は鉄飽和率 (TSAT) 20%, 血清フェリチン濃度100pg/mL以上と設定し, 適宜鉄剤を補充した。
結果: 開始時のHb値は9.2±1.0g/dL, 最高値10.9±1.6g/dL (n=49, p<0.001開始時 vs. 最高時), 透析導入時9.0±1.6g/dL (n=49, p<0.001最高時vs. 導入時) であった。貧血改善度に関してはHb 10g/dL以上達成が71% (35/49), Hb 11g/dL以上達成では51% (25/49) であったが, 一方Hb 10g/dLに達しない症例が28% (14/49) 存在した。Hb 11g/dLに達する群を good responder と定義すると, その要因としては, 開始時の高いHb値 (ロジスティック解析, p=0.03) と低いCr値 (Cox比例ハザードモデル, p=0.015) が選択された。鉄充足状態に関しては, 開始時のTSATは33.6±13.6%, 最高値34.0±19.9%, 透析導入時24.7±11.6%であり, 透析導入時に有意に低下した (n=49, p=0.0383, 開始時vs. 導入時)。一方, 血清フェリチン濃度は開始時140.7±139.5pg/mL, 最高値107.9±110.8pg/mL, 透析導入時131.9±112.4pg/mLと三者は同等であった。
結論: 保存期CKD患者のEPO治療は, 現行の保険診療下の用量では貧血改善が不十分な患者が多くみられ, 必ずしも適切な用量設定とは言えない。また, 保存期CKD患者のEPO治療開始のタイミングは早期が好ましいと思われる。
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