日本泌尿器科学会雑誌
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101 巻, 1 号
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原著
  • 東 治人, 伊夫貴 直和, 稲元 輝生, 小山 耕平, 右梅 貴信, 勝岡 洋治
    2010 年 101 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/16
    ジャーナル フリー
    前立腺全摘術における術後の尿失禁は,腹腔鏡下前立腺全摘除術に限らず,本術式における最も大きな課題の一つである.腹腔鏡下手術における器具や技術の向上に伴い,より確実なcancer controlが可能となりつつある今日,今後の焦点は,ますます術後のQOL,特に尿失禁にあてられると考えられる.我々は2007年7月から,2009年3月までに53例の限局性前立腺癌患者に対して腹腔鏡下前立腺全摘除術を施行し,尿失禁の改善に焦点をおいて試行錯誤を繰り返してきた.本稿では,我々の施設で行っている,“術後尿失禁軽減のコツ6項目”(1)骨盤底筋膜を可及的に温存する;(2)膀胱頸部を可及的に温存する;(3)両側神経温存術を施行する;(4)恥骨前立腺靭帯を可及的に温存し,膀胱頸部前面と縫合する(膀胱頚部吊り上げ法);(5)膜様部尿道を可及的に温存する;(6)Denonvillers筋膜を修復する(桿状尿道括約筋,Denonvillers筋膜切断端,および,膀胱裏面を縫合する);に焦点をあて,その術式の詳細につき紹介するとともに,これまでの手術症例を本術式施行前と,施行後の2群に分け,それら2群間における,手術所見(手術時間,出血量,病理所見),術後合併症,および,尿失禁を含めた臨床経過について比較検討した.
  • 古屋 亮兒, 舛森 直哉, 古屋 聖兒, 小椋 啓, 武藤 雅俊, 小林 皇, 久末 伸一, 塚本 泰司
    2010 年 101 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/16
    ジャーナル フリー
    (目的) シロドシンの有効性と,有害事象,服用継続率について後ろ向きに検討した.
    (対象と方法) 発売(2006年5月)より2008年10月までに当院でシロドシンを1日8mgで投与した全症例256例中,前立腺癌などを除外した前立腺肥大症に伴う排尿障害の195例を対象とし,国際前立腺症状スコア(IPSS),QOLスコア,尿流測定および残尿測定について投与前後で比較し,全般重症度,全般治療効果,および有害事象と服用継続率について検討した.
    (結果) 年齢は平均68.1歳,平均投与期間は3.1カ月で,全般重症度は全例が中等症以上であった.シロドシン投与前後にIPSS,QOLスコア,尿流測定および残尿測定のすべてが施行された90例で検討した結果,それら全てのパラメータは投与後有意に改善し,蓄尿症状と排尿症状の双方の改善が認められた.一方で,全般治療効果は不変・悪化が46%を占めた.シロドシンの有害事象は28.7%に見られ,射精障害が10.8%と最も多かった.有害事象がある症例は有意に年齢が低く,投与後のIPSS,QOLスコアが低かった.Kaplan-Meier法によるシロドシンの服用継続率は1年で12.0%であった.有害事象のある症例で有意に中止した症例が多く,また中止症例はQOLスコアが服用継続症例に比べ,有意に高かった.
    (結論) シロドシンを継続するには減量する等投与法の工夫が必要と考えられた.
  • 大枝 忠史, 久住 倫宏, 高本 篤
    2010 年 101 巻 1 号 p. 18-24
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/16
    ジャーナル フリー
    (目的) 尾道市立市民病院人間ドックでのPSAによる前立腺癌検診の有用性について検討した.
    (方法) 1997年4月から2007年12月までの10年9カ月の間に当院人間ドックにおいてPSA単独による前立腺癌検診を施行した延べ1,234例(中央値59歳)を対象とし,PSAの陽性率,二次検診受診率,生検施行率,癌発見率および癌症例の治療成績と臨床的重要度について検討した.
    (結果) PSAが高値を示したのは82例(6.6%)で,年齢は42~87歳(中央値64歳),PSA値は3.1~66.5ng/ml(中央値5.4ng/ml).生検は35例に施行し15例に癌を検出した.生検陽性率は42.9%,癌発見率は全体の1.2%であった.癌が発見された症例の年齢は58~81歳(中央値70歳),PSA値は4.2~66.5ng/ml(中央値10.3),臨床病期はT1cN0M0が12例,T2aN0M0以上が3例,生検でのグリソンスコア(GS)は3+3が4例,3+4以上が11例であった.初期治療は前立腺全摘除術12例(術前内分泌療法併用1例,術後放射線外照射併用2例),内分泌療法2例,放射線外照射1例であった.予後は観察期間8~107カ月(中央値 60カ月)で全例生存,再発・再燃なしでコントロール良好14例,再燃あり1例であった.いわゆる「臨床的に重要でない癌」(触知しない限局癌かつ腫瘍体積0.5ml未満かつGS6以下)は1例のみであった.
    (結語) 人間ドックで発見された前立腺癌はほとんどが臨床的に重要な癌であり,PSA検診は過剰治療に結びついていない.したがって人間ドックでのPSA検診を行うことは有意義である.
  • 篠原 陽一
    2010 年 101 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/16
    ジャーナル フリー
    (目的) 2008年4月より特定健診が開始された.特定健診に尿蛋白は含まれるが,血清クレアチニンの測定が省略されている.これは高血圧や糖代謝異常を指摘された者に特定保健指導や受診勧奨をおこなえば,腎機能障害の拾い上げは可能であるとの見解に基づいている.特定健診でのCKDの拾い上げが可能であるかを検討した.
    (対象と方法) 検尿,血圧,血糖および血清クレアチニンの測定を行った931例を対象とした.特定健診では尿蛋白陰性のためにCKDと判定されない者のなかに,腎機能障害がどの程度含まれるか調査した.
    (結果) 931例中169例が尿蛋白陽性であった.尿蛋白陰性であった762例のうち226例でeGFR<60ml/min/1.73m2の腎機能障害を認め,尿蛋白検査のみでのCKDの見逃し率は57.2%(226例/395例)であった.この226例のうち高血圧かつ/または糖代謝異常を有する者で血清クレアチニンを測定すると,新たに156例の腎機能障害を拾い上げることができ,見逃し例を70例(17.7%)まで減少できた.しかしその感度,特異度はそれぞれ69.0%,43.7%に留まっており不十分であった.
    (結論) 特定健診でCKDを拾い上げようとすると395例のうち226例(57.2%)を見逃す結果となり,血清クレアチニン測定の必要性が示唆された.
症例報告
  • 座光寺 秀典, 宮本 達也, 神家満 学, 犬塚 秀康, 土田 孝之, 荒木 勇雄, 武田 正之
    2010 年 101 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/16
    ジャーナル フリー
    われわれはロタウィルス胃腸炎後に両側尿管結石による急性腎不全となった2幼児例を経験した.症例は2歳4カ月の男児と1歳1カ月の男児.4~5日続く下痢,嘔吐に引き続いて無尿となったため当院を受診した.便中ロタウィルス抗原陽性で腹部超音波検査と腹部CTで軽度水腎症と両側尿管結石を認めたため,ロタウィルス胃腸炎後の尿管結石嵌頓による腎後性腎不全と診断した.直ちに経皮的腎瘻を造設し,数日で腎機能は正常化した.尿アルカリ化を行い腎瘻カテーテルから砂状の結石の排出を認めた.結石分析の結果酸性尿酸アンモニウムであった.酸性尿酸アンモニウム結石は先進国ではまれであるが,近年ロタウィルス胃腸炎後の両側尿路結石による急性腎不全の報告が散見される.これまでロタウィルス感染後の急性腎不全の主因は持続する脱水症と考えられていたが,本例のような尿管結石による腎後性の要因も考慮すべきであると思われた.
  • 押野見 和彦, 島田 誠, 井上 克己, 椎木 一彦, 菅原 草, 永田 将一, 前田 智子, 小川 良雄
    2010 年 101 巻 1 号 p. 34-37
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/16
    ジャーナル フリー
    症例は46歳男性.発熱の遷延と頭痛,全身倦怠感を主訴に2007年1月,当院内科を受診.不明熱精査のため入院した.精査したところ,4カ月来の右陰嚢内容の無痛性硬結腫大の訴えがあり,当科を受診した.CT所見にて右傍大動脈リンパ節の腫脹を認め,右精巣腫瘍(Stage II)と診断し,右高位精巣摘除術を施行した.病理組織所見において,Diffuse large B cell lymphomaと診断した.CHOP療法,ステロイド治療を開始したが,術後第7病日頃より,呂律障害,眼球運動障害,体幹失調などが出現.さらに記憶障害や性格変化も生じた.これらの症状より精巣悪性リンパ腫による傍腫瘍性神経症候群と診断した.悪性腫瘍患者においては様々な神経障害を呈するが,そのうち腫瘍の直接浸潤や転移,二次的感染症,代謝障害,血管障害,治療に伴う副作用などによらない自己免疫的機序を介して生じた一連の神経症状を傍腫瘍性神経症候群と称する.傍腫瘍性神経症候群では,腫瘍細胞が神経組織に交差反応する抗原を発現し,それに対して生じた免疫反応が神経組織を攻撃する機序が考えられており,病型により各種の抗神経抗体が検出されるとされている.病勢や進行度とは無関係であり,悪性腫瘍を治療しても症状の改善がみられないことが多い.今回,我々は傍腫瘍性神経症候群のひとつである傍腫瘍性脳炎を呈した精巣悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.
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