(背景) 近年去勢抵抗性前立腺癌治療薬が複数登場し,予後の延長が期待される一方,治療は高額になる可能性がある.そこで,当院で行われた去勢抵抗性前立腺癌治療薬の費用を検討した.
(対象と方法) 2014年から2017年に当院で診断された前立腺癌のうち,転移ありか前立腺特異抗原(PSA)が100ng/ml以上の進行性癌症例を中心に,手術か薬剤で去勢治療を行った.去勢抵抗性が確認されたのちはドセタキセル,カバジタキセル,アビラテロン,エンザルタミドによる治療を行い,治療経過と費用を検討した.
(結果) 257例に前立腺癌が検出され,進行性癌は56例(21.8%)だった.81例(31.6%)に去勢治療が行われ,進行性前立腺癌の30例が中央値10カ月(範囲3~39)で去勢抵抗性癌となった.去勢抵抗性癌治療薬は,25例に中央値20カ月間(範囲3~50)投与された.診断からの観察期間中央値48カ月(範囲13~75)で,15例が前立腺癌で死亡した.薬剤による去勢治療のみの症例では,治療費は中央値で年間23.4万円(範囲5.0~31.5)だった.一方,去勢抵抗性癌症例では,去勢抵抗性癌治療のみでも中央値で年間204.1万円(範囲34.6~501.7)に達した.
(結論) 去勢抵抗性癌治療の費用は非常に高額で,医療費抑制の観点から,去勢抵抗性癌に至りやすい進行性前立腺癌を減らすことは重要と考えられた.
(目的) 膀胱癌患者の高齢化について検討した.90歳以上の超高齢の膀胱癌患者の治療成績を調査した.
(対象と方法) 2008年から2018年の間に当院で臨床的に膀胱癌と診断し経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を施行した症例を対象とした.64歳未満・65歳から74歳未満・75歳から89歳未満・90歳以上の群に分け,症例数・割合を算出した.TUR-BTを施行した症例のうち,90歳以上の症例についてカルテ記載に基づいて評価した.
(結果) 75歳以上の膀胱癌患者は症例数・割合ともに増加傾向がみられた.90歳以上のTUR-BT症例はのべ39症例あり,初発膀胱癌として治療された症例は22症例であった.年齢の中央値は91歳であった.術後経過でGrade III以上の合併症は認めなかった.pT1の6例に対してセカンドTURを実施したのは2例であった.pT1またはCISの7例に対してBCG膀胱内注入療法を実施したのは2例であった.観察期間中に死亡した症例は6症例であり,膀胱癌が原因で死亡したのは2症例であった.22症例の全生存率はTUR-BT施行後1年で80.4%,3年で68.9%であった.
(結論) 高齢の膀胱癌患者は経時的に症例数・割合ともに増加していた.高リスク非筋層浸潤膀胱癌の標準治療であるセカンドTUR-BTや膀胱内BCG注入療法は,90歳以上の超高齢者では実施された症例は少なかった.
(目的) 帝京大学附属病院において,過去10年間にフルニエ壊疽と診断・加療された15例の患者背景,臨床的指標および予後に影響を与える因子を明らかにすること.
(対象と方法) 2009年5月から2019年4月までの10年間に,帝京大学医学部附属病院においてフルニエ壊疽と診断・加療された15症例を対象とした.患者背景およびFournier Gangrene Severity Indexを含めた臨床的指標を記述した.生存例と死亡例における臨床的指標の比較を行い,予後に影響を与える因子について検討した.
(結果) 15例の年齢中央値は67才,全例が男性であった.糖尿病合併例は9例(60%)であった.14例(93%)に対して外科的デブリドマンが施行された.精巣摘出術を要したのは5例(33%),膀胱瘻造設術を要したのは3例(20%),人工肛門造設術を要したのは3例(20%)であった.死亡例は3例(20%)であった.生存例と比較して,死亡例は有意に高齢であり(p=0.043),BMI低値であった(p=0.038).Fournier Gangrene Severity Index等の予後予測指標は死亡例で高い傾向を認めた.
(結論) 当院における過去10年間のフルニエ壊疽15例の死亡率は20%であった.2010年代においても,フルニエ壊疽は死亡率の高い疾患であった.
(緒言) 経皮的膀胱瘻造設術は日常的に行われている泌尿器科的手技であるが,本邦において多数例での経皮的膀胱瘻造設術について検討された報告は非常に少ない.今回我々は,当院において膀胱瘻造設術を施行した症例について検討した.
(対象・方法) 2010年4月から2019年3月の間に当院で施行された経皮的膀胱瘻造設術症例95例を対象とし患者背景,合併症の種類や頻度,穿刺トラクトの安定しない初回カテーテル交換までの事故抜去について,使用した3つの手技毎に比較検討した.
(結果) 原因疾患は尿道狭窄症が55.8%と最も多く,神経因性膀胱が13.7%,前立腺肥大症が11.6%と続いた.合併症としては,血尿,腹膜損傷,有熱性尿路感染症,穿刺針によるカテーテル破損を認め,全症例における合併症の発生頻度は10.5%であった.手技別では,cannula型穿刺針を用いた手技による膀胱出血が25.0%と有意に高率で,膀胱瘻造設後早期の事故抜去はSeldinger法で17.0%と最も高率であった.事故抜去を含めた合併症発生率は3つの手技間で25.0%から25.4%であった.
(結論) 当科では穿刺時の出血リスクを考慮して細径のピッグテールカテーテル留置を第一選択としているが,血管損傷と事故抜去を回避出来るのであれば,試験穿刺した上でcannula型穿刺針を選択しても良いと思われる.
(目的) 尿管膀胱新吻合術後の続発性膀胱尿管逆流(VUR)の症例に対して行った,内視鏡的DefluxⓇ注入療法(DefluxⓇ注入療法)の治療有効性を検討した.
(対象と方法) 2010年から2018年までに,当院でDefluxⓇ注入療法を行った,尿管膀胱新吻合術後の続発性VURの4例を後方視的に検討した.手術適応は有熱性尿路感染症あるいは腎瘢痕の新生とし,DefluxⓇ注入療法による治療成績を評価した.
(結果) 症例は男性2例と女性2例,3例は原因不明の下部尿路機能障害で,全例が清潔間欠導尿を行っており,3例はChoen法による尿管膀胱新吻合術が行われていた.術前検査では,全例が片側VURの症例で,VUR gradeはGrade IIIが1例,Grade IVが3例であった.初回手術は中央値12.8歳で,全例とも片側の尿管にDefluxⓇ注入療法が施行された.DefluxⓇの注入方法は,HIT法とSTING法の併用が2例,HIT法のみが2例で,注入量は中央値2.4mlであった.初回のDefluxⓇ注入療法による治療成績は,VUR消失が1例(25%)で,3例にVURの残存を認めた.VUR残存の3例中2例に2回目の治療が行われ,1例にVURの消失を認めた.
(結論) 尿管膀胱新吻合術後の続発性VURにおけるDefluxⓇ注入療法の初回成功率は25%と低く,その治療選択は慎重に決定する必要がある.
(背景) 高齢者が多く,他癌に比べて比較的進行が遅い前立腺癌では,男性ホルモン除去療法(ADT)のみで加療することが少なく無い.その副反応として骨や体組成の変化,血液学的障害なども無視できない.
(対象と方法) 病理学的に前立腺癌の診断を受け,初期治療としてADT療法を行った185例を対象とした.主要評価項目はADTに伴う副反応の頻度と重篤度の解明.副次評価項目はこれら副反応の変動率が全生存率(OS)に及ぼす影響の解明とした.
(結果) 年齢中央値は75歳.ADT開始1年後には中央値で3%,2年後には6%のbone mineral densityの有意な低下を認め,body mass indexは1年後には中央値で2.1%と有意に増加した.Total cholesterol値は1年後に有意に上昇し,hemoglobin値は有意差を持って低下した.副反応としては,注射部位の皮下腫瘤形成を39%の症例に認め,hot flashesも21.6%に認めた.加療1年後の有意な副反応変動因子を用いた解析の結果,いずれの因子もOSには有意な影響を与えなかった.
(結論) ADT副反応の頻度は高いものの重篤度は比較的軽微で外来で対応可能であり,加療1年後の副反応変動率がOSに及ぼす影響は認めなかった.
(目的)膀胱尿路上皮癌に対する膀胱全摘除術の治療成績・予後因子・術後補助化学療法について,後方視的に検討した.
(対象と方法)2005年2月から2019年2月までに,膀胱尿路上皮癌に対して,開腹膀胱全摘・回腸導管造設術を施行した179例を対象とした.術中および術後早期合併症,術後からのOSとCSS,OSに関する予後不良因子について検討した.さらに,深達度pT3以上またはpN1~3であった症例を対象とし,術後補助化学療法の有無別にOSとCSSを比較した.
(結果)Clavien-Dindo分類Grade 4以上の重篤な合併症は認めなかった.5年,10年OSは71.1%,57.4%であり,5年,10年CSSは76.5%,71.5%であった.男性(HR=2.70,95%CI[1.07~7.51]),深達度pT3以上(HR=1.83,95%CI[1.05~3.21]),pN1~3(HR=2.85,95%CI[1.62~5.03])が多変量解析で独立した予後不良因子であった.所属リンパ節転移陽性例に対する術後補助化学療法はOS(p=0.03),CSS(p=0.017)を有意に改善した.
(結論)膀胱全摘・回腸導管造設術は有効な術式であり,術後補助化学療法は所属リンパ節転移陽性例に対して有効な可能性があると考えられた.
症例は78歳男性,PSA 10ng/mlにて受診され,MRI撮像したところ,尖部側移行域領域にPI-RADS version2にてcategory 5を指摘.経直腸的+経会陰的前立腺針生検を計20カ所行い,経会陰生検の右辺縁域腹側にGleason score 3+3の病変を認めた.明らかな転移を認めず,ロボット支援根治的前立腺摘除術(RARP)実施(病変1:両葉移行域に30mmでGleason score 4+5,EPE1,RM1,ly0,v0,pn1,sv0 病変2:左葉辺縁域に4mmでGleason score 3+3,EPE0,RM0,ly0,v0,pn0,sv0).別に提出された前立腺前脂肪組織内にリンパ節転移を認めた.
前立腺前脂肪組織の除去は簡便な手技であり,断端の評価にも有用と考えて当院ではルーチンで病理診断を行っている.前立腺前脂肪組織の中にリンパ節を認める可能性は非常に低く,その中にリンパ節転移を認める可能性はさらに低いとされている.
当院にて偶発的に認めた前立腺前脂肪組織内のリンパ節転移に関し,若干の文献的考察を加えて報告する.
症例は54歳女性.肉眼的血尿,排尿困難を主訴に受診した.膀胱鏡検査で膀胱頂部に石灰化を伴う4cm大の広基性結節型腫瘍を認め,経尿道的膀胱腫瘍切除術でadenocarcinomaと診断された.腫瘍マーカーの上昇は認めなかった.開腹尿膜管摘除術・膀胱部分切除術・骨盤内リンパ節郭清術が行われ,病理診断はurachal carcinoma,pT3b,ly1,v0,pN1,RM0であった.左閉鎖リンパ節転移を認めており,TS-1+CDDP(TS-1 100mg/day×day 1~21,CDDP 60mg/m2×day 8)によるアジュバント化学療法が行われた.Day 13に意識障害(Glasgow Coma Scale E2V1M4)で救急搬送された.血清Na 109mEq/l,尿中Na 109mEq/lと低Na血症およびNa排泄過多を認め,化学療法によるSIADHと診断された.3%食塩水が投与され,血清Na値の上昇とともに意識障害は改善し,意識清明となった.化学療法は中止され,経過観察中であるが術後6カ月現在,転移・再発は認めていない.CDDPを含む化学療法によるSIADHは比較的まれではあるが,重症化する危険性がある.CDDP投与数日後に発症する傾向があり,特に初回化学療法でリスクが高く注意を要する副作用の一つである.
症例は65歳男性.20XX年4月に腹部CTで右腎に8×6.7cm大の腫瘍と傍大動脈リンパ節転移を指摘され当科紹介となった.精査の結果,下大静脈浸潤,多発肺転移,左腸骨転移を認め,腎細胞癌(cT4N1M1b)と診断した.切除不能癌として,まずはPazopanibを導入したが病勢進行を認めた.2ndラインとして20XX年6月下旬よりNivolumabを導入.しかし,初回投与した直後より腰痛増悪による歩行困難が出現し,MRIで新たに腰椎多発骨転移とL2圧迫骨折が判明.Oncologic emergencyと判断して,8月に他院へ転院.右大腿骨頭置換術や放射線治療などの集学的治療を行い,症状は軽快した.10月に帰院した際のCTでは病勢進行を認めず,リハビリを行いながらNivolumabを再開した.計20回投与したところで,腎腫瘍は70%縮小し,肺転移巣および骨転移は著明な縮小・消失を認めた.原発巣は切除可能と判断し,20XX+1年8月に根治的右腎摘除術を施行した.病理結果はmarked effects of chemotherapyの診断であり,viable tumor cellsは見られなかった.
切除不能癌がNivolumabで手術可能となり,完全奏功を認めた症例を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する.
74歳,女性.X年6月,右腎癌,多発肺転移に対して開腹右腎摘除術を施行され,淡明細胞型腎細胞癌,pT3bN0M1と診断された.X年7月よりイピリムマブ・ニボルマブ併用療法が開始された.X年9月,食思不振を主訴に来院.血液検査で血清Cr 8.58mg/dL,BUN 71mg/dLと腎機能の急激な悪化と,CTで左腎腫大を指摘された.臨床診断により免疫チェックポイント阻害薬によるGrade 3の間質性腎炎と診断され,治療が開始された.ステロイド治療と服用薬の中止により腎機能は徐々に改善し,3週間でベースラインまで回復した.その後,ステロイドは慎重に漸減され,第52病日に投与終了された.第60病日にニボルマブ単剤で治療が再開された.現在まで5サイクル投与されたが間質性腎炎の再発はなく,病勢は安定している.本邦における免疫チェックポイント阻害薬による間質性腎炎の報告は,調べ得た限り38例であった.ほとんどの症例で組織学的に診断がなされていたが,免疫関連有害事象は早期治療介入が重要であるため,臨床的に診断し速やかに治療を開始すべきであると考える.
78歳男性.67歳時に前立腺癌cT3bN1M0(Gleason score 5+5)の診断でアンドロゲン除去療法を開始した.その後,去勢抵抗性前立腺癌に移行したため,去勢術,ドセタキセル27コース,さらにエンザルタミド,アビラテロンを投与したが,新たに傍大動脈リンパ節転移が出現したため,カバジタキセルを25コース施行した.しかし,傍大動脈および骨盤内リンパ節の増大と,原発の増大による直腸圧排と尿閉,さらに全身状態も悪化したため,初診から約10年目に治療継続を断念,膀胱瘻を造設しBest Supportive Careとした.治療中止後から全身状態が改善傾向になり,約6カ月後にはPSA値が55.5ng/mlから19.3ng/mlまで下降し,リンパ節の縮小が確認された.そこで局所放射線照射を行ったところ,腫大した腫瘍が消失し自尿可能になった.現在,治療中止から約2.5年が経過したが,傍大動脈リンパ節,骨盤内リンパ節ともに1cm未満になりPSA値は0.008ng/ml未満が継続している.