(目的)進行性尿路上皮癌(UC)に対するPembrolizumabの治療成績について臨床的検討を行った.
(対象と方法)対象は2018年4月から2021年12月までにUCと診断されPembrolizumabを投与された27例.診療録を後方視的に検討し,治療効果および副作用を検討した.
(結果)患者の年齢中央値は76歳,200mg製剤の投与回数の中央値は6回であった.全生存期間の中央値は8.8カ月であり,CR 1例,PR 7例,SD 5例,PD 14例であった.全生存期間(OS)悪化に関連するリスク因子として単変量解析で肝転移,Pembrolizumab投与前のLDH 200IU/L以上,TSH 4μIU/mL未満が挙げられた.Grade3の免疫関連副作用(irAE)は1型糖尿病1例のみで,Grade2は甲状腺機能低下症4例,1型糖尿病1例,間質性肺炎1例,皮膚障害1例であった.Pembrolizumab開始時のTSH 4μIU/mL以上は9例であり,その内4例で甲状腺機能低下症を認め,TSH低値群では甲状腺機能低下症はみられなかった(p=0.013).
(結論)進行性UCに対するPembrolizumab投与前のTSH 4μIU/mL以上はirAEによる甲状腺機能低下症に関連する因子となり,OS改善にも関連することが示唆された.
(目的)本邦における単一施設での高腫瘍量転移性去勢感受性前立腺癌(high-volume metastatic castration sensitive prostate cancer:HV-mCSPC)に対するupfront docetaxel(DTX)とアンドロゲン除去療法(androgen deprivation therapy:ADT)併用療法の有効性と安全性について後方視的検討をした.
(対象と方法)2015年12月から2022年12月の期間で,厚木市立病院においてHV-mCSPCに対してADTにupfront DTXを併用した30例を対象とした.患者背景,治療詳細,無再発生存率(progression-free survival:PFS),全生存率(overall survival:OS),有害事象,逐次治療について検討した.
(結果)年齢中央値は73歳(53~83歳).観察期間中央値は30カ月(4~88カ月).PFS中央値24カ月.OSは中央値未到達で,5年生存率71.5%であった.持続型顆粒球コロニー刺激因子製剤による一次予防した群がしない群と比較し,重症好中球減少症の発症率が統計学的に有意に低かった(7.7% vs. 75%,P=0.009).
(結語)Triplet時代においてHV-mCSPCに対するupfront DTXは,持続型G-CSFによる一次予防により,重症の好中球減少症を予防することで安全に施行でき,upfront治療としての効果も期待できると考えられた.しかしながら,その選択には患者背景,有害事象,コスト,QOLを症例毎に検討し,triplet治療の有効性を上回る場合に選択されるべきと考えられた.
(目的)2021年12月より本邦でも治療抵抗性の転移・進行性尿路上皮癌に対してEnfortumab vedotinの使用が可能となった.本治療は進行性尿路上皮癌の予後を改善することが期待される一方,治療関連の有害事象が懸念される.今回,転移・進行性尿路上皮癌に対してEnfortumab vedotinの初期使用経験を通してその有効性と安全性について検討を行った.
(対象と方法)2022年1月から当院でプラチナ含有化学療法およびPD-1/PDL-1阻害薬に抵抗性となった患者に対して次治療としてEnfortumab vedotinを投与した患者の有効性と安全性を後方視的に検討した.
(結果)対象患者は16例,年齢中央値は70歳(45~93),有効性については,無増悪生存期間の中央値は7.77カ月(95%CI,3.67~未到達),全奏効率は43.8%であった.安全性については,治療関連の有害事象として皮膚障害が最も多く12例(75.0%),重篤化した2例が中止となり,うち1例はStevens-Johnson症候群の発症を認めた.Enfortumab vedotin投与開始日から皮膚障害発生までの期間の中央値は9日(5~18)であり,ほとんどの症例が1サイクル目に発生した.
(結論)Enfortumab vedotinは有効な治療法である.しかし,皮膚障害を含む有害事象は注意が必要である.
症例は41歳男性.肉眼的血尿のため前医を受診し,超音波検査で尿膜管腫瘍が疑われたため当科紹介となった.MRIでも膀胱頂部に腫瘍性病変を確認し,経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行した.大腸癌の組織型に類似した腺癌であり,発生部位と併せて尿膜管癌の診断となった.CTで多発肺転移を認め,CEAは116ng/mLと高値であったため,大腸癌のレジメンに順じmFOLFOX6を開始とした.化学療法開始から6カ月経過し転移巣の縮小とCEAの低下を認めたため,腹腔鏡補助下尿膜管・膀胱部分切除,骨盤内リンパ節郭清を施行した.病理診断では切除断端陰性であったが,残存する腫瘍組織を認め,多発肺転移も伴うことから術後も化学療法継続の方針とした.尿膜管癌については標準的な化学療法が確立されていないが,大腸癌に類似した組織型であることからFOLFOXが有効であると報告されている.今回我々は尿膜管癌,多発肺転移に対してmFOLFOX6が奏効した例を経験したので報告する.
症例は35歳男性.不妊治療のため近医受診し,精液検査で無精子症と超音波検査で直径10mmの右精巣腫瘍を指摘された.採血で精巣腫瘍マーカー陰性,MRI検査で右精巣に10mm大の腫瘍と左精巣の萎縮を認めた.不妊症の原因精査中に発見された機能的片側精巣に生じた精巣腫瘍であり,妊孕性温存検討も含め当院を紹介受診した.
右精巣体積は18mL,左精巣体積は3mLと萎縮を認め,血清総テストステロンは2.96ng/mLであった.対側精巣の萎縮を考慮し,精巣部分切除術による術中迅速病理診断を提出したうえで良性腫瘍が疑われた場合は精巣部分切除術で終了,悪性腫瘍が疑われた場合には高位精巣摘除術を行う方針とした.また,不妊治療を検討中であったため,精巣摘除を行う際は摘出精巣の非腫瘍部から精巣内精子採取術を行い,妊孕性温存目的の精子回収・凍結を行う方針とした.手術時の術中迅速病理診断でセミノーマが疑われたため,高位精巣摘除術と精巣内精子採取術を行い十分量の精子を採取し精子凍結を行った.最終病理組織診断はセミノーマであった.退院後の血清総テストステロンは0.32ng/mLと低下あり,テストステロンエナント酸エステル投与を開始した.今後は精巣腫瘍のサーベイランスに加えて,テストステロン補充療法,凍結精子を用いた生殖補助医療を検討している.
症例は14歳男子.12歳時に水腎症と腎機能の増悪を認め,近医で膀胱腫瘍,左尿管腫瘍の診断となった.前医で経尿道的膀胱腫瘍切除術,尿管腫瘍生検が施行され,線維上皮性ポリープの診断となった.尿管ポリープに対して経尿道的切除を試みられたが尿道狭窄を併発したため到達困難となり,左腎瘻造設,経皮的レーザー焼灼術が施行された.術後4カ月,尿管狭窄もきたし,尿路再建の目的に当院へ紹介となった.尿道狭窄に対して13歳時に包皮利用Palminteri法尿道形成術を施行した.逆行性腎盂造影,腎瘻造影検査で脊椎L4レベルに2cmの尿管狭窄,尿管鏡検査で脊椎L5レベルに残存ポリープを認めた.14歳時に尿管再建術を行った.端々吻合では吻合部の緊張が強いと考えられ,口腔粘膜利用拡大onlay法尿管形成術を行う方針とした.完全閉塞部と残存ポリープ部のみを最小限切除し,緊張のかからない尿管壁同士を一部端々吻合した.吻合部の対側の尿管壁は健常部まで十分にspatulateし,尿管ステントを留置後に15×40mm大の頬粘膜を縫着,頬粘膜のグラフト床として腹腔内から遊離した大網を吻合部に全周性に縫着した.術後13日で腎瘻を抜去,術後4カ月で尿管ステントを抜去した.術後1年および2年の逆行性腎盂造影,尿管鏡検査で再狭窄やポリープの再発は認めず,術後3年現在,左側腹部痛,腎盂腎炎,腎盂拡張などを認めず経過良好である.
症例は60歳代,男性.右腎細胞癌(cT3aN0M0)の診断に対して,左側臥位,ジャックナイフ位による後腹膜鏡下右腎摘除術を施行した.手術翌日の血液検査でCK 23,038U/Lと高値を認めたが,軽度の左腰痛であったため経過観察とした.術後2日目に左腰痛の増悪,左腰部の腫脹,硬結,知覚鈍麻を認めたため,単純CTを施行したところ,左脊柱起立筋の容積の増大と内部低吸収域を認めた.左脊柱起立筋コンパートメント症候群の診断にて緊急減張切開術が施行された.術後は症状の改善を認め,後遺症なく,術後22日目に退院した.本症例ではジャックナイフ位を補強するために腰部屈曲部に挿入していたクッションによる腰部への圧の増強が脊柱起立筋コンパートメント症候群の発症に大きく関与したと考えられた.側臥位手術による脊柱起立筋コンパートメント症候群は非常に稀であるが,術前体位での可能な限りの除圧や術中の適切な血圧管理等含め,予防を徹底し,万が一,術後に手術台接地面に一致する腰痛を認めた場合は,その発症を念頭に置き,減張切開術を含めた迅速な対応に努める必要がある.
70歳男性.転移性ホルモン感受性前立腺癌に対して抗アンドロゲン受容体阻害薬であるアパルタミドの内服を開始した.開始後10日目より発熱,全身の皮疹出現し18日目に内服中止となった.内服後32日程度で症状一時改善傾向となるも38日目に再燃を認めStevens-Johnson症候群疑いにて緊急入院となった.ステロイドパルス療法にて皮膚病変の緩やかな改善を認めた.アパルタミドの普及にて本例のような重症型薬疹が今後増加することが考えられ,更なる症例の蓄積が望まれる.