芳香属化合物の製造や取り扱い経験者を検診対象者として, 職業性尿路上皮腫瘍の発生状況と, それにかかわる問題点について検討した.
検診対象者398名のうち, 膀胱腫瘍を主体とした尿路上皮腫瘍患者は25名にみられ, 発生率は6.3%であった. 発症時平均年齢は61歳で, 平均暴露期間は7.2年, 平均潜伏期間は30年であった.
暴露期間の長い従事者や喫煙者は, 統計学的に有意ではないものの, 腫瘍発生率が高かった. また, 暴露開始年齢が高くなるほど, 潜伏期間は有意に短かった. 暴露物質では, 複数暴露経験者の発病率が高く, ついでベンジジン, α-ナフチルアミンの順で,β-ナフチルアミンからの発病者は認められなかった.
深達度が明らかな膀胱腫瘍の94%が表在性腫瘍で, 初期治療として主に経尿道的電気切除術を施行した. 治療後の膀胱内再発は39%と一般膀胱腫瘍と同程度であったが, 上部尿路への再発は26%と高率であった.
尿細胞診の陽性率は, 初発腫瘍で60%, 再発腫瘍では74%と高く, いずれも腫瘍発見の端緒となった.
職業性尿路上皮腫瘍患者の5年生存率は92%, 10年生存率は72%, 20年生存率は47%と予後は比較的良好であったが, 癌死8名中重複癌による死亡は3名に認められ, また検診対象者における尿路上皮以外の癌発生は20例, 5.7%であり, 他臓器癌発生にも注意が必要であることが示唆された.
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